児玉華-4
一年生で丹羽くん、折茂さん、石川さんを取材したことで、あたしは雲の上の存在と思えたその三人と仲良くなっていった。
陽子ちゃん、優芽ちゃん、華ちゃんと呼び合い、あたしは三人を誇りに感じつつ、たくさんの写真を収めていった。特に丹羽くんの写真は専用のアルバムを作るほどに撮ってしまっている。
「マジでさー、コクっちゃえば?」
こっそりとカメラに収めた丹羽くんを眺めていると、突然、隣から話しかけられ、飛び上がった。二年生になっても、梨花は同じクラス。今度は隣に座っている。
「あたしなんて……丹羽くんなんかと似合うわけないやん」
「そら、そやけど」
梨花は時々失礼だ。
「せやけどな、結局は噂の二人、なーんもないやん」
そう、学年中の生徒が折茂陽子と丹羽雄吾ほどお似合いはいないと思っているのに、二人には全くその素振りがない。家も隣どうしで、これ以上お似合いの二人はいないと思う。でも、仲良くしているうちに、あたしは何となく気づいていた。丹羽くんは陽子ちゃんに対して、少し畏れを抱いているような、遠慮しているような、微妙な距離感を保っているのだ。
「想いを伝えるだけでええやん」
「そんなん、梨花が誰かにでもコクったんならあたしだっていってみるけど、梨花かて人のこと言えんやん」
そう言うと、梨花はニヤリとして二本、指を立てた。
「わたくし、岡田梨花。昨日彼氏ができました」
「……うそ」
梨花に彼氏ができた。そのビッグウェーブに軽々と乗ったあたしは馬鹿だったと思う。
放課後、空は茜色で、雲が沈みそうな太陽を薄く隠していた。勢いで丹羽くんを呼び出したあたしは、その時点で時が戻る呪文が唱えられないかというほど後悔していた。が、呼び出してしまった以上、止まれない。わなわなと震える唇から、どうにでもなれと声を出した。
「好き……でふ」
緊張のあまり、たった四文字すらちゃんと言えなかった。
真面目な丹羽くんが吹き出しそうになるのを堪えている。堪えてくれているだけ感謝だ。
「ごめん、児玉。俺は……」
「あー、ううん。いい、いいんよ。気持ち伝えたかっただけやから。好きでふ言うてもうたけど」
丹羽くんはそこで吹き出した。
「ごめんな」
「んーん、スッキリした。あと、それならさ、ひとつだけ、聞いていい?」
丹羽くんはあたしをふった分、丁寧に耳を傾けた。
「丹羽くんは陽子ちゃんのこと、好きちゃうの? そういう噂はあるけど」
丹羽くんは顔を曇らせたまま、微笑した。
「……児玉やから言う。記事にすんなよ? 俺はあいつのこと好きや。噂になってんのも知ってる。けど、俺にはそんな資格ないんや」
「何で?」
あたしは自分がフラれたのに、何だか悲しくなった。丹羽くんは頷いて、「それは言えへん。そこまでで勘弁してくれ」とだけ応えた。
丹羽くんは最後に頭をぽんと叩いてくれた。あったかい手だった。
「俺からもお願いや」
「ん?」
「わがままやけど、いつものまんまでおってくれたら助かる」
「うん、分かった。約束するよ」
フラれるなんて当たり前なのに、待っててくれた梨花の顔を見ると泣けてしまった。梨花は彼氏と帰りたかったはずなのに、あたしを校門で待っていてくれた。泣くあたしの頭をくしゃくしゃにし、「そら、そうやわ」と笑いながら無慈悲な慰めをした。梨花らしくて嬉しくて、あたしは梨花に思いきり抱きついた。