表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/35

児玉華-3

 いじめられることがない。

 天国にいるようだった。常にびくついて過ごした日々。その足枷が外れると、あたしはたくさん笑えるようになった。


 ワン、ワンワン!


 チップもそれが分かるのか、嬉しそうにあたしの周りを回ってはしゃぐ。もう夕が暮れた頃から散歩に行く必要はなくなっていた。


 日々自信を取り戻したあたしはかねてからやりたかった新聞部に入った。梨花は「華らしくてええと思う」と笑ってくれた。

 部長は好きに記事を書いて良いと言ってくれた。編集長と呼ばれる部長は、

「では、児玉記者、一年生の記事をどんどん取材して書いてくれたまえ」

 と、右手をこめかみにあてる。

「あいあいさー」


 最初の記事に選んだのは、丹羽くんだった。

『一年生で四番! 野球部にスーパールーキー現る!』

 その見出しを見せて、休み時間の丹羽くんに話しかけると、丹羽くんは照れたように笑った。


「それ、全校に配んのかよ。恥ずかしいわ」

「編集長のオッケー出ないと載せられへんのやけどね。けど、スーパールーキーって話題になっとるよ」

「へへ、そうか。ま、好きにせえ」


 丹羽くんにどうやってスイングしているのか、練習はキツいか、将来の目標は? など、色々と質問をした。丹羽くんは丁寧に答えてくれた。


「ありがとう。新聞できて記事載ったら読んで」

「あぁ。ほら、チャイム鳴るぞ」


 先生が教室に入ってきた。あたしは慌てて席へと戻る。


「あ、児玉……」


 丹羽くんが小さくあたしを呼び止めた。振り向くと、丹羽くんは微笑みを向けてくれている。


「新聞部、楽しそうやな。良かったな」


 あたしは大きく首を振った。


「うんっ!」


 席に戻ると、後ろから梨花にシャーペンで突っつかれた。


「告白したん?」

「するかぁ」


 パンパンと先生が手を叩き、授業が始まる。



 あたしの記事は好評だった。みんなが休み時間に熱心に読んでくれて、この上なく嬉しかったのを今も大切に覚えている。


「愛の力が働いた記事やな」

「ちゃうわ」


 あたしは次の取材対象を決めていた。クラスは違うが、これもまたバスケ部を席巻している一年生コンビ、折茂陽子と石川優芽だ。女子のあたしから見ても、二人はかわいい。良い記事になる。

 あたしが体育館へ出向くと、折茂さんがあたしを見つけて駆け寄ってくれた。


「新聞部? 写真撮るん? 部長に言うてこよか?」


 ハリのある黒髪が長く美しく伸びる。毛先から汗が滴り、それすら美しいと感じた。あたしの天パとはえらい違いだ。

 練習を見学させてもらった。やはり三年生たちは背が高く、近くで見ると圧倒的な迫力がある。ただ、その三年生に立ち向かう一年、二年チームは離されることはなかった。折茂陽子と石川優芽のコンビが圧巻だった。

 石川さんがディフェンスを切り裂き、ノールックでパスを送る。宙を裂くボールを空中で拾い、折茂さんがひらりと舞う。音もなくボールはリングをくぐった。黒子に徹してパス出しをする石川さん、そのパスを確実に決めていく折茂さん。


「かっこええ」


 あたしは思わず呟いていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ