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児玉華-2

 織笠中に入ると、新鮮な顔が並んでいる。オーラというものがあるならば、入学式で見つけた二人にそれはあったと思う。折茂陽子おりもようこ丹羽雄吾にわゆうごだ。一際背が高く、どちらもモデルのような顔立ちをしていた。やっぱり織笠小は違うなぁと憧れにも似た感情を抱いたものだ。

 クラスは講堂に貼り出されており、あたしは人ごみの後ろでジャンプしながら自分のクラスを探した。見つけると、すぐに憂鬱になった。織笠南小の問題児が勢揃いしているクラスだった。

 そこから先は映画を観ているような感覚だった。

 一年生のクラスは二階だ。十分後にはホームルームが行われるとのことで、皆が階段を急いでいた。身体中を緊張させていたあたしは何かに足をとられ、階段で転んだ。なんとか顔をぶつけることは避けたが、後ろに続いていた生徒に足やスカートを踏まれ、スカートに足跡がついてしまった。誰かが足をひっかけたのだ。


「天パの児玉、こけとるわ!」


 階段の踊り場でよく見た顔が笑っているのが見えた。また、あいつらか。


「おいっ、一年! なにモタモタしとんや。走れっ!」


 こちらの様子を知ってか知らずか、下からは教師の怒号が響いた。また、おんなじ生活か……。あたしはため息をつき、スカートを払った。周りの生徒が怪訝な目を向けて、あたしの横をすり抜けていく。


「ちょ、なんやねんお前!」


 あたしは階段の上に目を向けた。ただ、驚いた。あたしを小学校からいじめていた男子が誰かに首根っこを掴まれたまま持ち上げられていたのだ。


「お前、謝れや」


 首を掴んで持ち上げていたのは、入学式で見つけた長身の彼だった。


「なんやねん、お前。殺すぞ」


 言葉の威勢は良いが、圧倒的な力の差を感じ、声は小さい。すっと腕が沈み、彼は床に下ろされた。


「恥ずかしかったか?」

「あぁ?」

「恥ずかしかったんかって聞いてんねん」

「殺すぞ、われ」

「殺してみろ。恥ずかしかったんなら、俺の前で二度とすんな。死ぬほど恥ずかしい目に合わせてやる」


 騒ぎに勘づいた先生が割って入った。


「何やっとんや、お前ら」


 長身の彼は頭を下げて謝った。


「すみません、こいつがあの子を階段でこかしたので。許せませんでした」


 首を掴んで持ち上げられた方の男子は、しばらく長身の彼を睨んでいたが、先生が間に入ってうやむやにしたことで、やがて離れた。

 あたしが階段を昇り、踊り場に差し掛かったところで遥か上から声がした。


「大丈夫だったか?」


 見上げると、長身の彼が踊り場であたしを待ってくれていた。


「うん、大丈夫」


 彼は少しだけ微笑み、二階へと歩を進めた。


「あ、あの……」


 彼は振り返り、綺麗だけどどこか寂しげな目をあたしに向けた。


「ありがとう」


「……ああ」


 名札が見えた。丹羽雄吾。

 


 丹羽雄吾くんとは同じクラスだった。野球部に所属した丹羽くんは一年生ながらレギュラーに抜擢されるほど運動神経が良く、おまけに最初の中間テストでは学年で二番と頭まで良かった。


はな、丹羽くん見とる」


 突然、背中から声がして、あたしは飛び上がった。小学校から一緒の梨花が後ろに座っていた。梨花と同じクラスと知った時は小躍りした。


「見とらんよ」

「見とった」


 ぐう。梨花はあたしのことを内蔵の隅まで知っている。あたしが丹羽くんに好意を抱いていることを、もしかしたらあたしより先に知っていたかもしれない。下手に誤魔化しても、梨花にいじられるだけだ。

 

「んもう。ま、それよりさ。梨花も、あたしもだけど、小学校の時より楽しくなったよね」


 お互い、机に肘をついて両手に顎を乗せて向き合う。


「うん、ほんま。織笠小組のおかげやわ」


 中学に入ると、グレる者はグレるし、反抗期真っ盛りのあたしたちだから、色んなものにあたりたくなる。それでも、いじめだけは起きなかった。

 織笠南で起こっていたいじめは織笠中でも引き継がれたのだが、それはあっという間に鎮火された。織笠小組の三人、丹羽雄吾、折茂陽子、石川優芽が中心になって、いじめという文化は織笠中から消し去られたのだ。

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