児玉華-1
ずっと丹羽雄吾くんのことを目で追っていた。そんな三年間だった。
中学に入ると、他の小学校と一緒になり、たくさんの見知らぬ同級生が増える。織笠中はあたしたちが卒業した織笠南小学校と、給水棟を挟んだ隣の校区である織笠小学校が一緒になる。
あたしたちが卒業した織笠南小学校は、生徒であるあたしたちから見ても先生たちの質が悪かったと思う。先生たちは問題に向き合わず、やりたい放題の男子たちは怒られないまま図に乗って成長していった。背の小さな子はいじめられ、お金持ちの家の子はいつもお金をたかられていた。あたしは生まれつき天然パーマで髪の色素が薄く茶髪のようだった。そのせいであたしも男子たちに髪を引っ張られたりしていじめられた。
学校からの帰り道。あたしはいつも高台にある給水塔を眺めながら帰っていた。
「あの給水塔の向こうは織笠小やんね」
いつも一緒に帰る梨花に何気なく言った。
「うん、織笠小ではいじめ無いんやって。みんなでいじめを無くすって、そんな活動してんて。お母さんが言っとった」
「梨花ちゃんのお母さんPTAやもんな。それで知ってんのか。ええなぁ、織笠小の子は」
あたしは織笠小校区に高くそびえる給水塔を毎日羨みながら過ごしていた。
毎晩、犬のチップを散歩に連れていくのがあたしの日課だった。日が沈む頃に散歩に出掛けるのは、以前に男子たちに会ってチップに石を投げられたからだ。それからは、人気がなくなる日暮れ頃から散歩するようになった。
すっと、夕方の夜空に星が浮かび始めるのが好きだった。あたしは、星たちにもっと楽しい学校になりますようにと毎日祈った。チップが「ワン」と空に吠える。飼い主様をいじめないでと言ってくれていたのかもしれない。
とある金曜日、給水塔に二つの人影を見つけた。遠くて小さいが、あたしと同じくらいの子供ではないかと思った。
「チップ、あれ、あたしとおんなじくらいの子供やわ」
「ワン!」
それから毎週の金曜日、決まってその二人の人影を見つけた。遠くからでも分かる。二人は楽しげに話をして、星を見ているようだった。
「織笠小の子はええなぁ。悩みもなーんもなく、あそこで学校であった楽しいことでも話してんねやろなぁ」
「ワン!」
あたしはチップの頭をそっと撫でて、坂道の下から給水塔に腰かける二人の少女を見守っていた。あたしも織笠小の子と仲良くなりたい。
そんな日々を過ごすうちに、いつからか二人の人影は金曜日になっても現れなくなった。飽きてしまったのだろうか。そんなことを考え、チップのリードを引きながら小学校の卒業を待った。