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回想神話   作者: SCA
雷獣暴威
1/5

雷獣

1度王道を書いて見ようかなと思ったので、ありふれた内容かも知れません。

 「こんな馬鹿なことがあるものか」

 そこにいたのは大きな龍であった。


 「この我が、神であるこの我が敗れるだと」

 蒼色の大きな龍が怒りのままに叫び声を上げていた。


 「あり得ぬ、あっては成らぬ」

 目は潰れ、蛇のような体には幾つもの穴が空き、肉を露出させ骨が砕かれていた。

 その龍は傍目からもボロボロで体中から血を流していた。

 

 「貴様のようなただの人間にこの我が敗北するだと!」

 目を覆いたくなるほどの傷の数々、恐らく放っておけば時をそう経たずして死ぬであろう。

 そんな傷であった。


 「認めぬ。認めてなるものか、我は断じて認めない。我は()()()()貴様に敗北したことなど認めるものか!」

 しかし、その龍の意思は未だに猛々しく燃えさかっていた。

 瀕死にもかかわらずその体には意思という生命力が充ち満ちているようだ。


 「この身はただでは死なぬ。この身は滅びるとも意思は決して滅びはせぬ、我は貴様に宿り貴様の中で復讐の牙を研ごう」

 一切の諦めも、弱さもその言葉からは感じ取れなかった。


 「いずれ知るが良い、我が恨み、我が怒りは貴様を内側から食い破るだろう」

 片目が潰れて独眼になりながらも目の前の人間を殺す意思を止めはしなかった。


 「その日を楽しみにしているが良い」

 そう言いながら龍は光となり身体が薄れていく。


 「三吉南条(みよしなんじょう)よ」

 そしてその光は目の前のボロボロの少年に吸い込まれていった。


 ※※※※※※


 12月の初め、師走と呼ばれる月ではあるが流石に月の初めではそこまで忙しくはないのか秋田駅を行き交う人は少なかった。

 秋田は東北の雪国ではあるが今年は暖冬なのか雪が積もっておらず。

 空は雪雲の無い、青い空で雪が降る様子も無い。

 非常に快適な天気だ。

 

 「昔は雪が降るとはしゃいだもんなんだけどな」


 それを喜んでしまうことに三吉南条(みよしなんじょう)は自分が子供の頃の心を忘れてしまったことを感じた。

 東京から秋田へ新幹線で来たため4時間ほど座りっぱなしだったので少し身体が硬くなっているのか少し伸びをしただけで体中からポキポキと音がする。


 『年取ったみたいな事を言うな貴様、まだ十代だろうに』

 「別に良いだろう、何歳だって。子供の頃と比較しているだけなんだから」


 そんな彼から彼以外の声が聞こえてきた。

 周囲には彼以外は人がいないが彼は気にせずにその声の主と会話を進める。


 『今だって我からすれば餓鬼だがな』

 「そら、お前からすればそうだろうよ」


 雪が降ってはいないとはいえ東北の冬は寒い、東京との気温差に辟易しながら目的地に向かう。

 まばらな人波を見ながら思うのは今朝受けた仕事のことである。


 「いくら出身地だからって新人に仕事を任せるかね、しかも一人で」

 『我がいるからであろう、土地勘があれば十分という事だろうよ』


 南条はどこか疲れたようにため息を吐いた。

 どうしてこうなったと。

 自らの境遇を省みる。

 分不相応な地位を与えられ、分不相応な力を持った。

 確かにかつては、そんな立場に憧れていた事があった。

 しかし、実際なってみると冗談では無い。

 正直言って気苦労が多いので即刻やめたい。


 『ため息なんぞ吐くな、仮にも我の宿主が情けない』

 「無茶を言ってくれるな、俺は美御子(みみこ)さんと違ってごくごく普通の人間なんだよ」


 思い出すのは東京で会った一人の女傑の姿。

 おっとりとした印象とは裏腹に圧倒的な戦闘力を見せた彼女。

 普段と変わらない笑顔で怪物をひねり潰すその姿はまさに圧巻の一言。

 間違っても同じ種族(人間)だと思えない姿だった。


 「東京で凄い物を見過ぎたな」


 彼女だけでは無い、普通に生きていくだけなら知らなかったであろう非現実的な物を見過ぎた。

 まさに驚天動地、事実は小説より奇なりを地で行く世界だったことは間違いない。

 恐らくそんな世界に踏み入れることが出来たのは希少な機会だったのだろう。

 まぁ、正直見る分ならともかく関わりたくないと言うのが本音だったが。

 希少物とは手に取る物では無く、鑑賞するものである。

 間違っても関わってい良いことなど無いのだ。

 

 『その凄い物に貴様が入っている自覚はあるのか?』

 「……あんまりねぇな」


 あんな人型戦略兵器の仲間入りしている自覚などあるわけが無い。

 こちとら最近まで一般人だったのだ。

 ドラゴン○ールに出てくる戦闘力5のおっさんが前線に出てくるレベルで場違いである。

 そんな思いを抱いている南条に対して声は呆れたように言う。


 『力を持つに至った以上それにふさわしい場所にいるべきだ。龍が羊に混じれる物かよ』

 「……俺が龍かよ」


 南条にしてみれば普段は辛口評価の多い相棒からの珍しい賞賛だった。

 しかし、予想外の高評価を受けたものの素直に喜べない。

 なぜならその評価に命をはる価値があるとは思えないからだ。

 むしろ低評価の方が嬉しい、高まる程に危険に晒される評価など欲しくは無い。

 そんな南条の内面を読んだのかその声は苛立たしげな声を出す。


 『あんまり情けないことを抜かすようなら食い殺すぞ南条』

 「それならむしろ出てってくれると嬉しいね俺は」


 己の相棒とも言える存在の殺害予告にさらなる虚脱感に襲われる。

 やはりまともが一番だ。

 殺し合いの鉄火場など甚だ柄では無い。


 『それはいかん、我は貴様をくびり殺す。そのために我は貴様に取り憑いていることを忘れるな』

 「どっちにしろ殺すつもりなのかよ」

 『当たり前だ。他の奴らに貴様を譲るつもりは無い。あの日より貴様に受けた屈辱を晴らす機会を我は待ち続けているのだから』


 言いたいことを言って満足したのかその声は気配を消した。

 とは言え最初っから周囲に人影はなく、そこにいるのは南条一人。

 しかし、それでも南条はその身の内から先程の声が聞こえてきた。


 『夢忘れるな南条、貴様はいずれ我が殺すのだ』


 その言葉に思い出されるのはあの地獄での一幕だった。

 かつて生き残るために命をチップに最低最悪の博打を張ったあの時を思い出す。

 不慮の事故で陥った窮地。生き残る為に全身全霊で戦った、死なないために命を賭けた。

 全てを投げ打って手に入れたのは命と欲しくも無かった肩書きと力。

 失ったものは平穏と安全。


 「割に合わねーなー」


 そんな南条のつぶやきに反応したのか身体の中から文句を言われた気がした。



 ※※※※※※※


 

 そこは部屋というには広大すぎる空間だった。

 室内と言う事は分る、上質な木を使われた床、そしてオブジェなのか乱立する大小様々な石柱。

 それらが果ても見えないほどに広がっていた。

 そして中央に安置される、平安の屋敷を思わせる木造の神殿。

 木造で有りながら木材そのものが暖かく輝いているそれは春の太陽を思わせた。


 まさしく神秘的な光景、誰しもが心奪われずにいられないだろう。

 だというのに、それら一切合切がまるで目に入らないほどに。

 あたかも路傍に転がる石のように、意識の片隅にしか置くことができない。


 それは何故か。

 それらよりも圧倒的な存在感を生み出す者達がこの場には集まっていたからだ。

 乱立する石柱の上にいる者達。

 それらは石柱の数だけ存在するのかまるで果てが見えない。


 「足りぬ、まるで足りぬな」

 「然り、今だ現人神(あらひとがみ)に至ったものは100にも満たぬ」

 「数多の迷宮を作っておきながらこの体たらくとは……」

 「これでは我らの計画に支障が出かねない」


 美しい容貌をした者、幼い子供、老人、異形、動物、果ては植物、岩石まで。

 彼らは様々な姿を持って存在していた。

 明らかに人間の集まりでは無い、それどころか彼らには共通点すら見当たらない。

 あるとすればその身から発せられる圧力とでも呼ばれる物ぐらいのものだろう。

 そんな彼らが一つの場所に集っている。

 恐らく此処に人間を放り込めばそれだけで死んでしまうのではないのかというほどの圧力だ。

 そんな彼らは一体何者なのか?


 「多少無理にでも人を神域に送るか?」

 「それは余りに無体ではないか」

 「このまま手をこまねいても仕方あるまい」

 「しかし、それで生き残る者などいましょうや?」


 彼らは人間が仰ぎ見る、恐れ敬う、拝み奉る存在。

 彼らは太古より存在し、未だに影響を与え続けている存在。

 彼らは超常の存在。

 彼らは日本に住まう八百万の神々である。


 「馬鹿なこと言ってんじゃねぇよ」


 そんな彼らすらも霞むほどの存在が一柱。

 超越の存在であろう彼らの中にあっても別格と呼ばれる存在がいた。

 周囲の石柱よりも巨大な屋敷、その屋根に彼はあぐらをして鎮座していた。

 おおよそ190程の巨体、ガタイが良く、筋肉に覆われたその身体は見るからに力強さを感じさせた。

 その身体を包むのは粗末な着流し、腰には不釣り合いにも見える豪奢な剣。

 強そうな見た目ではあるが、見た目だけならば周りには更に大きな巨人ともいえる存在や龍までいる。

 しかし、それでも彼から発せられる圧とでも言うべき物は格が違った。


 「俺らが求めているのは英雄だ。有象無象なんぞが増えたところで意味なんぞねぇよ」


 彼の名は、須佐能乎命(スサノオノミコト)

 日本神話最強の武神、八岐大蛇を打ち倒した龍殺しであり。

 イザナギ・イザナミの生み出した神族の中でも最高の神である三貴子の一人である。

 イザナギの鼻から生まれたとされる男神。

 数多の伝説、逸話を持つ荒ぶる神。

 周囲にいる雑神を纏めてもまるで届かぬその威光はまさに三貴子にふさわしい。

 その神の発言故に周りの者達は黙る。


 「それに数こそは少ねぇが現人神は増え続けてはいるじゃねぇか」


 「しかし、ここ一年一切現人神は生まれておりませぬ。これでは……」

 「そうです、このままではとてもではありませんが現人神は増えそうにありません」

 「たしかに我々の為すべきことではありますが人はこの時代において腑抜け切っている」

 「現人神にいたるほどの人材はそうそう自然には現れなくなっており……」


 圧倒的な存在に気圧されたのかどうにも弱気な発言になっていく神々。

 彼ら自身が神であっても目の前の存在にはとてもではないが刃向かう気すら起きない。

 故に神で有りながらある意味では人間らしい反応をする神々。

 そんな周囲の様子に苛立ったのか、しかめっ面になるスサノオノ。


 「当たり前だ! 英雄がそんなに簡単に増えてたまるかってんだ。むしろそれだけ試練が厳しいって事だろう、その今いる100人は選りすぐりの英雄ってこったろうが」


 スサノオノ自身が自分の事を、そして周囲の神との格の差を理解している。

 故にこの反応はむしろ普通の反応だ、との思いもある。

 三貴子の名はそれほどまでに重いのだ。

 それはスサノオノ自身も理解している。

 しかし仮にも神を名乗る者が人間の様に慌てる様は見ていて愉快なものでは無い。

 彼らは理解しているのだろうか、この時代の人間が腑抜けているという事の意味を。

 忌々しい異国の侵略者の一神教とは違い日本の神は自然信仰。

 自然信仰とは自然の中に神を見いだす宗教、仏教を初めとし様々な宗教を取り込み現代においてその権威を薄れさせたとは言えその価値観は未だに根強く残っている。

 八百万の神々は日本の自然、現象、概念そのもの。

 人間の劣化はそのまま自分たちにも返ってくるということなのに。

 彼らがこうも取り乱すと言う事は日本そのものまでもが劣化していることの現れだと言うことを本当に理解しているのだろうか。


 「スサノオノ様」


 そんな苛立たしさを前面に出しているスサノオノに声を掛ける、それだけでその者の胆力が並の者で無いと分る。

 スサノオノの本質である荒ぶる神の面はたとえ僅かに漏れた程度だとしても決して安くは無い。

 仮に土着の木っ端神であれば漏れ出している圧だけで神格が歪みかねないほどのものだ。

 その証拠に周囲の神々でも動けない者の方が多いぐらいだ。


 「報告したいことがございます」


 それは幼い子供の姿をした神だった。

 古代日本の服装で角髪(みずら)に結った髪の神は恐れを見せずにスサノオノを見る。


 「ほう、なんだって言うんだいイワレヒコ」

 「イワレヒコは生前の名前です。この場では神名で呼んでいただきたく」

 「相変わらずクソッかたいやつだな、それでどうした」


 イワレヒコと呼ばれた神は恭しく頭を下げて言葉を口にした。


 「新たな現人神が誕生しました」



 ※※※※※※※



 秋田県秋田市土崎港。

 室町時代において三津七湊と呼ばれた日本の十大港湾の一つであり。

 平安時代においては蝦夷討伐軍の補給路としても活躍した歴史ある港である。

 近場に油田もあり土崎の海上経路も合わせて明治時代には秋田だけで国内産油量の70%以上を誇っていたほどだ。

 そんな歴史ある港も昭和三十年代の全盛期を最後に落ち込んでいった。

 石油の採掘量も全盛期の十分の一以下になり、今では過疎化の影響か全盛期の面影は無い。

 あるとすれば未だに稼働している住宅地にある石油ポンプぐらいであろうか?


 そんな土崎に今暗雲が立ちこめていた。

 それは比喩では無く本当の意味で雷雲が空を覆っていた。

 安定した気圧配置で東北地方一帯は快晴の予報の筈が何の前触れも無く現れた雲は日本海側をそって薄く伸びていった。

 土崎から突如生まれた雲は発達速度、発生条件共に異常気象としか言えない現象だった。

 急速に発達したその雷雲はまるで意思を持っているかのように奇妙に蠢いており、時折光る雷光は妖しく、それに伴う雷音はまるで獣の鳴き声のように聞こえた。

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