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私のオロチさま! ~スサノオとヤマタノオロチが同級生!?~  作者: 南野 雪花
第1章 神代の恋とか、ロマンチックだよね!
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神代の恋って、ロマンチックだよね! 8


 翌日である。


 なんと、早来伊吹は登校してきやがった。


 普通くるかい?

 どんだけ面の皮が厚いんだよ。


 ざわつく教室を平然と横切り、まっすぐに私の席を目指して近づいてくる。

 自分の席を目指しているのかもしれないけどね。


 なにしろ奴の座席は私の隣だから。

 と、その前に立ちはだかる影がひとつ。

 もちろん七樹である。


「まだ懲りていないのか。早来伊吹」

「それは俺の台詞だ。山田七樹。竜は英雄には勝てないぞ」


 二人の瞳から放たれたビームがぶつかって、ばっちばちと火花をあげる。

 超絶イケメンの睨み合いだ。


 私が腐った属性を持っていたら、鼻血を出して喜ぶことだろう。

 たぶん七樹が右側だね。


「何度でも立ちはだかるし、何度でも言ってやるさ。俺の女に手を出すな。殺すぞ」

「ならば何度でもお前を倒して奪ってやる」


 唇を歪める早来伊吹。

 すげー邪悪そうだ。

 おまえさん、ほんとに神様ですか?


 二人の放つ異常なオーラに、生徒たちはどん引きですよ。

 なんつーかね、本気で殺気をぶつけ合うって、なかなか日常では体験できないね。

 七樹にしても、早来伊吹にしても、相手を殺すことに半グラムの躊躇いもないの。


 ふつーびびるから。

 もちろん私だって例外じゃないよ。


 ヤクザやチンピラの怖さじゃないんだよね。もっとずっと研ぎ澄まされた、静かな狂気って感じ?


「ちょっとあんたたち、ケンカはやめなさいって」


 だから、声をかけたのは私じゃない。

 そんな蛮勇は持ち合わせてないって。


 クラスカーストのトップに君臨する三石雪那(みついし ゆきな)って()だ。

 モデルみたいにスタイルが良くて、顔立ちも整ってる。

 もって生まれたカリスマ性ってやつですか、そういうのは私とは段違い。

 いつも取り巻きを引き連れてるし。


 まー だからこそ、私みたいなBクラスをイケメンたちが奪い合っているのは我慢できないんだろう。

 自分を差し置いて、というやつだ。


 しかし、それは匹夫(ひっぷ)の勇ですよ。三石さんや。


「あ?」

「きみには関係ない」


 ぎろりと男どもに睨まれ、ひ、と小さく悲鳴をあげて後ずさってしまう。


 な?

 怖いべ?


 なまじイケメンだけに、殺気がだだ漏れになってると洒落にならない怖ささなんだよ。

 至近距離でそれに晒されてる私が言うんだから間違いないよ。


「無関係だと思ったら! びびらせんな!!」


 咄嗟に私は立ち上がり、七樹と早来伊吹の頭を叩いた。

 前者はともかく、後者を叩くのはちょっと勇気が必要だったけどさ。


 でもさ。動機はともかくとしても一般人の三石さんが頑張ってるんだから、私だって黙ってられないっしょ。

 こんなんでも奇稲田姫の転生なんだから。

 記憶もどってないけどね。

 苦笑する七樹。


「てめ……」


 早来伊吹の方は憎々しげに私を睨んでくる。

 屈辱なんだべね。私ごときに叩かれたのは。


「なによ? 文句あんの? また通報するよ?」


 内心の恐怖を隠して、私は腰に手を当てて言い放った。


「ぐ……」


 お。怯んだ。

 警察に連れて行かれたの、けっこう堪えたのかな?

 まあ、ふつうは堪えるよね。


 神通力で操るとかやったら、ますます疑われるし。

 麻薬所持の証拠もないから解放されただけだろうし。

 そーとー絞られたんじゃないかな。

 神様なのに。


 とはいえ、トラウマになったのなら、そこにつけ込まない手はない。


「二人とも三石さんに謝って!」

「んだと……?」

「おいおい……」


「謝って! 怖がらせたんだから!」

「……すまなかった」

「ごめん。怖がらせてしまったようだ」


 ひとりは不承不承、もうひとりは苦笑混じりに謝罪する。

 一瞬だけぽかんとした三石さんが、やや引きつった笑顔を浮かべた。


「櫛田。あんたまるで猛獣使い(ビーストテイマー)だね……」


 ぼそりと呟いたりして。

 おいばかやめろ。

 それがわしの公式ニックネームになったらどうするつもりじゃ。






 私、櫛田美咲!

 平凡な高校二年生!

 あるとき私は二匹の猛獣を手懐けることになったの!

 新番組ビーストテイマー・ミサキ! よろしくね!!


「武器はムチとか、そんな感じだね」

「謎すぎるわ!」


 私のとなりに座った雪那がからからと笑う。

 引っ越してきやがったのだ。

 自由だな! 私のクラス。


 ちなみに、もともとの雪那の席には早来伊吹が座っている。

 まあ私としても、あれとずっと一緒というのはストレスで胃が溶けてしまうので、雪那の強引な席替えは望むところではあった。


「お願いだから広めないでよ? へんなあだ名」

「無理じゃね? ウチが言わなくたって、教室中おんなじ感想もったと思うよ?」

「く……はかったな……」

「坊やだからさ」


 くだらない会話の元ネタを、私は知らない。

 はかったなと言ったら、坊やだからさと返すのが礼儀らしい。


 ともあれ、クラスカーストトップの雪那とBクラスの私は、良くわからないうちに急接近してしまった。

 キマシタワーは建たないけどね。


「で、あの二人はなんであんなにいがみ合ってるのよ? 美咲」

「詳しくは判らないんだけど、なんか因縁があるっぽいんだよね。私の彼氏と」

「あー それも意外だったんだ。あんたがあの山田と付き合ってたなんてねぇ」


 あの、というのはあんまり好意的なニュアンスじゃない。

 陰キャ王だからね。


 ブラックホールを背負って歩いてるような男だもん。七樹は。

 突き抜けて暗すぎるからいじめの対象にすらならないという、まさに王様だ。


 それと付き合ってる女がいるとは、お釈迦様でも気がつかないだろう。

 死んだはずだよお富さんである。


「七樹とは小学校の頃から一緒だったからね。気付いたら付き合ってた」

「なんだそりゃ」


 うん。普通はなんだそりゃだよね。

 しゃーないやん。

 前世からそういう関係だったなんて、言えるわけないんだから。


 かといって、早来伊吹に対抗するために交際を始めた、というのもおかしい話だ。

 ので、小学校の頃から親しくて、いつの間にか恋愛関係になっていた、という設定で押し通すことにしたのだ。


「つーか山田がイケメンだったのも意外だし」

「くくく。先物買いというのは、こうやるのだよ。雪那さんや」


「あんた調子のって株とかに手を出すんじゃないよ?」

「ゆーて、七樹の家はお金持ちだし顔も良いし成績も良いし筋肉も良いのに、子供の頃から不思議とモテなかったんだよね」


「暗いからじゃね? むしろそれ以外になんの理由があんのよ?」

「それは否定せぬ」


 なにしろ七樹は暗いから。

 私とは普通に話すけど、基本的に自分から他人に話しかけることはない。


 それどころか、口を開くことすらほとんどない。

 昨日、はじめて七樹の声を聞いたって人もいるんじゃないかな。


「で、因縁ってなにさ」

「わかんないって」


 話が戻った。

 前後左右、縦横無尽に話題が飛び回っている。


 なんか七樹は、こういうのについていくのが大変だから、口を開かないようにしていたんだって。

 大丈夫か? 高二ボーイ。


 あんた私と同い年だぞ。すくなくとも今生においては。


「あれかなー? 早来の女を山田がNTRしたとか?」


 おうふ。

 当たらずといえども遠からずだよ。


 実際は、八岐大蛇の女というか被保護者を素戔嗚尊が奪ったんだけどね。

 寝取りというのとは、ちょっと違う。


「なんでもかんでも色恋に結びつけんのは、どーかと思うけどね」

「じゃああれは? 山田の家がやってる会社に早来の家が潰されたとか。そんで復讐のために、山田の彼女であるあんたを堕とすとか」


 きししと雪那が笑う。

 どろどろじゃねーか。

 昼ドラか?


「で、だんだん美咲は早来に惹かれていくんだ」

「やめてけれ。韓国ドラマじゃあるまいし」


 ビーストテイマー・ミサキの方が、なんぼかマシだ。


「つーかさ。ぶっちゃけた話、あんまり私に近づかない方が良いってのはたしかだと思うんだよ。恨まれてるのは事実だろうし」

「うん」


「うんて……」

「だからだよ。トラブルに巻き込まれてるのは判りきってるのに、ほっとけないでしょ」


 にかっと雪那が笑う。


 私は悟った。

 どうして彼女がクラスカーストのトップに立っていたのか。

 顔でもスタイルでもない。


 こいつ、お節介なんだ。

 姐御(アネゴ)肌なんだ。

 私が困っていると思ったから介入してきた。


「あー……なんつーか……お手数かけてます……」

「いいってことよ」


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