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私のオロチさま! ~スサノオとヤマタノオロチが同級生!?~  作者: 南野 雪花
第1章 神代の恋とか、ロマンチックだよね!
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神代の恋って、ロマンチックだよね! 7


 安藤氏の話は続く。


 スサノオをこのまま人間界に置いておくのはまずい。

 なにをやらかすか判らないからだ。

 それじゃなくても、今の日本は色々あるのに。


「色々って?」

「そうですねえ。たとえば北海道などに興味を持たれると、非常に厄介なことになってしまいます」


 小首をかしげた私に、安藤氏が苦笑を浮かべた。

 なんで北海道?


「まあ……やばいよな」


 なんか七樹も知ってるっぽい。

 何ともいえない顔をしている。


「なんなのよ?」

「俺ら人外には有名な話なんだけどな。北海道にはすごい街があるんだよ。日本神話の神だけじゃなくて、異教の神に鬼に勇者の末裔にニンジャに伝説の怪物に、果ては宇宙人まで住んでるってな」

「なにそれ怖い」


 カオスすぎる。

 宇宙人ってなにさ。宇宙人って。


「いっそ、あの街にぶつけちゃおうかって案もあったんですけどね。素戔嗚尊ごときなら、きれいに消してくれるんじゃないかって」


 半笑いの安藤氏だ

 ごときいうな。

 あんたが主神級っていったんだぞ。


「ていうかさ。そんなヤバげな場所に丸投げするのもまずいんじゃ?」

「その通りですね。美咲さん。なにが起きるか見当もつきません。あの人たらしの魔王陛下のことですから抱き込んでしまう可能性もありますし」

「抱き込むて……」


 なんかものすごい怖ろしい単語が聞こえたよ。

 あのスサノオを抱き込むとかヤバすぎる。

 なにその魔王とやら。

 怖すぎるんですけど。


「ともあれ、不確定要素が多すぎるんで、このプランは破棄されました」


 それが良いと思いまーす。


「そのかわり、もうちょっと穏当なプランとして、七樹くんに素戔嗚尊を討伐してもらおう、というのが浮上しました」

「無理じゃね?」


 安藤氏の言葉に七樹が首をかしげる。


 英雄と竜では後者が不利だ。

 というより、勝てないようになっているらしい。


 それはいいんだけど、討伐とか簡単に言うなや。

 現代日本でそれは普通に殺人だからね?

 転生者だから殺しました、なんてのは通用しないよ? さすがに。


「そのあたりの隠蔽は、私たちでおこないますので大丈夫ですよ。美咲さん」


 私の顔色を読んだのか、安藤氏が微笑する。


 なにが大丈夫なのかさっぱり判らないよ。

 まったくだいじょばないよ。

 やばたにえんだよ。


「後処理は大切ですよ。美咲さん」

「大事だけど! そりゃもう大切なことだけど!」


 平成日本で、道ばたに死体とか落ちていたら大騒ぎである。

 教室のみんなを操ったー、なんて目じゃないくらいの大惨事だ。


 闇から闇へきちんと処理するのは大切なんだけどさ、私の七樹を簡単に殺人者しようってのはダメじゃないですか。


「私の……」


 赤くなった七樹がもじもじする。

 落ち着け純情ボーイ。言葉のあやじゃ。


 それに、現実問題として七樹がスサノオに勝てるのかって部分がまったくクリアされてない。


 もしかしたら勝てるかもー、なんて確率で戦うわけにはいかないのよ?

 安藤氏の後処理班が片付けるのは七樹の死体でした、というのはさすがに困る。


「せめて武器があれば、ちょっとは勝算もあるんだけどな」


 肩をすくめる七樹。

 武器なあ。

 日本で手にはいるのなんて、せいぜいナイフくらいだ。


 なかには銃刀法に引っかかっちゃうようなごっついナイフも売ってるけど、いくらなんでもナイフで神様は倒せないだろう。

 ピストルなんかは、そもそも一般人が入手できるものじゃないし。


「拳銃程度では神格には歯が立たないでしょう。むしろ包丁の方がマシというものです」


 とは安藤氏の解説だ。

 べつに銀の銃弾じゃないと倒せないって話ではなくて、たんに威力の問題らしい。

 突撃銃の銃弾くらいだと筋肉を貫けないんだって。


 さすがに迫撃砲とか戦車砲とかミサイルとかが当たればダメージは与えられるらしいけど、そんなもん、まちなかで取り回せるわけがない。

 じゃあなんで包丁の方がマシかっていうと、銃器は威力が固定されてるけど剣やナイフの威力は使う人に依存しているから。


 スサノオやオロチくらいになると、そのへんに落ちてる石でぶん殴ったって、バズーカ砲で撃たれたくらいの衝撃力(インパクト)になるんだそうだ。


「武器いらないじゃん。それ」


 そんだけ力があるなら、ぐーぱんで戦いなさいよ。ぐーぱんで。


「普通の人間相手ならそれで良いけどな。ていうか手加減の方が大変だけどな。闘神○市Ⅱみたいに手加減攻撃なら一桁ポイントしかダメージがいかないってルールがあるわけじゃねーし」

「ナニソレ?」

「七樹さん。女性の前でエロゲーの話をされるのはいかがなものかと」


 安藤氏が苦笑している。

 女性以前に、あんた未成年だからな。七樹。

 そのゲームはあとで没収だ。


「一九九四年のPCゲームだぞ? 俺がやったことあるわけねーだろ。耳学問だよ」


 いいわけしてる。あやしい。

 七樹のことだから、なんらかの方法でプレイしている可能性がある。

 問いつめてやろう。

 私は心のメモ帳にそっと書き記しておいた。


「話が逸れましたね。人間相手なら強大な力で圧倒することも可能ですが、神格同士であればそういうわけにはいきません」


 どっちも常識外の存在だから。

 能力的なアドバンテージはなくなってしまうんだそうだ。

 まあ、考えてみたら当たり前だよね。


「まして俺は剣も奪われちまったしな」

「七樹っていうかオロチは剣なんかもってたっけ?」

草薙剣(くさなぎのつるぎ)


 首をかしげる私に、あっさりと七樹が応える。

 いやいや。それアンタのじゃないだろ。

 三種の神器のひとつじゃないですか。


「元々は俺んだよ。スサノオに奪われちまったけどな」

「あー……」


 そっか。

 素戔嗚尊は八岐大蛇を倒したあと、ヒャッハーって勢いで死体を切り刻んだんだった。

 そんときに腹の中から出てきたのが草薙剣。

 それを素戔嗚尊が高天原に献上したのだ。


「なんで剣なんか呑んでたの? 七樹」

「呑んでねーよ。おれは全国びっくり人間大集合か」


 普通に彼の家から奪われただけらしい。奇稲田姫と一緒に。

 あと、お金とか財宝とかもごっそり全部。

 とんでもねー野郎だな。スサノオ。


 家主を殺して女も武器も金も奪うとか、押し込み強盗かよ。

 びっくりですよ。


天叢雲(あめのむらくも)については、返還する用意があります」

「え? マジで? 返してくれんの?」


 安藤氏の言葉に七樹が目を丸くする。

 それ返しちゃったらやばいんじゃないの?

 日本を象徴する神剣じゃん。


「大丈夫ですよ。美咲さん。日本はもう神器を必要とする国ではありません。人によって滞りなく運営されていますから」


 くすりと美髭の紳士が微笑する。

 息をするように表情を読むなぁ。この人。


「それに、熱田神宮にあるのはレプリカですし」

「レプリカて……」

「本物は高天原ですよ。仮にも神剣ですからね。さすがに地上に放置するってわけにはいきません」


 そりゃそうか。

 どんなに厳重に保管したって、神格からみたら警備なんてないのと一緒だ。


「つまり、それが条件ってわけだな。スサノオと戦う」


 ふむと七樹が腕を組んだ。

 盗んだ武器を返してやるから強敵と戦え、というのは、けっこうひどい条件だとは思う。

 盗人猛々しい的な。


 ただ、それは言っても仕方がない。

 手段はどうあれオロチが負けちゃったのは事実だし、負けたらすべてを失ってしまう。


「かなしいけど、戦争なのよね」

「お前は何を言ってるんだよ。美咲」


 苦笑するカレシどの。

 それから、ゆっくりと安藤氏と視線を合わせた。


「いいだろう。安藤さん。俺としてもあいつは生かしておけない。不倶戴天の敵ってやつだからな」


 獰猛な笑みを浮かべて。





「そんじゃ、また明日。朝迎えにくるから」


 私、弟、母親が住むおんぼろアパートまで送ってくれた七樹が、朗らかに手を振る。


「よってかないの?」

「交際一日目で家にあがるほど不躾じゃねーよ」


 紳士である。

 ヘタレともいう。


「や。たぶんもう蓮斗が帰ってきてるから、ふたりきりにはなれんよ?」

「それでも、だ」


 苦虫を噛み潰したような顔の七樹である。

 チキンめ。


「夜にふらふら出歩くんじゃないぞ? いつあれが現れるかわからないんだからな」

「だったらずっとくっついてガードしてくれればいいのに。えんだーみたいに」

「それだと最後、俺死んじゃうじゃねーか」


 ぴん、と私のおでこを指先ではじき、七樹が去ってゆく。


 くっそう。

 かっこいいなぁ。


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