表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私のオロチさま! ~スサノオとヤマタノオロチが同級生!?~  作者: 南野 雪花
第1章 神代の恋とか、ロマンチックだよね!
6/33

神代の恋って、ロマンチックだよね! 6


 帰り道である。


 私は七樹と並んで歩いている。

 諸君! 私は七樹と並んで歩いている!


 どうよ!

 彼氏と一緒に下校だよ!

 このリア充感!


「……その怪しい踊りをやめないか?」

「いやあ。自慢したかったんで、つい」


 だってさあ、七樹って陰キャ王だけど、顔は良いんですよ。

 スタイルも良いんですよ。

 これ脱がしたら、けっこー良い筋肉してると思うよ?


「お前は自慢するために踊るのか……」

「やった。やった。やった」

「ごめん。それちょっとネタが判らない」


 頭を抱えている。

 めんどくさい男だ。


「二〇〇〇年くらいにやってたコントだよ。葉っぱ一枚あれば良いんだよ」

「ネタの解説を求められていると思ったんだ……」


 げっそりしちゃった。

 ワガママである。

 せっかく説明したのに。


「つーか、七樹は嬉しくないの? 初彼女じゃないの?」

「初だけどよ。なんで喜びを全身で表現しないといけないんだよ……」


 嬉しいからに決まってるじゃん。

 こいつバカだから判ってないだろうけど、ものすげーことなんだよ。


 小学校のころに好きだった相手が、じつは神話時代からの運命で結ばれていたって。

 私はさほどロマンチックな思考の持ち主じゃないけどさ。

 まるで乙女ゲームみたいじゃないか。


 じっと見つめる。


「子供の頃から、七樹が好きだった」

「きゅ、急に真顔になるのやめろ!」


 しどろもどろになって左手で顔を隠しちゃった。


 防御力低すぎないか? あんた。

 そんなんでスサノオに勝てんの?

 あ、すでに一回負けてたっけ。


「問題はこれからよねぇ」

「だな。警察だって任意同行だし。すぐ戻ってきちまうだろうな……」

「……あ、うん。そうだね……」

「ん? そのことじゃないのか?」


 言えねえ……。

 金持ちのアンタと母子家庭のうちじゃつりあわないんじゃないか、とか考えてたなんて。

 絶対に言えねえ。

 どんだけ先走ってんだよ。私。


「いやいや。いやいや。そのことだって。やだなぁ。なにいってんだよ。七樹さんは」

「むしろ美咲が何だ? 違うこと考えてやがったな」


 くっそ。

 変なところで鋭いやつめ。


 とはいえ、そっちも問題ではあるよね。


 スサノオは逮捕されたわけじゃない。

 つまり警察は彼を拘束することができないわけだから、帰ると言われたら解放するしかないのだ。

 もちろん疑念が晴れたわけじゃないし、当然のようにマークはされるだろうから今後は動きにくくなるだろうけど、それだけなのである。


 表立って動けないなら裏に回れば良い。

 じっさいスサノオにはそれを可能にする能力がある。


 今回は、ああいう派手なことをしたから足下をすくわれた。

 あいつに頭があるなら、当然のように戦訓を得るはずなんだ。それを活かせないような相手なら、ぶっちゃけなんにも怖くない。

 勝手に自滅するだろう。


「たぶん次は、こんなに上手くはハメられない」

「どんな手でくると思う?」

「闇討ち」

「直接すぎるな」


 うん。

 でも、もう人を操るのは無理なんだ。


 どうしてかっていうと、今回の件で彼は完全に手札を封じられたから。

 もう彼の言葉は信用されない。


 仮に操っていなくても、他人の目には操っているように見えちゃう。

 ていうか、もう学校にはこないと思う。

 きたら総攻撃だろうからね。


 生徒や先生の記憶を操作でもしないかぎり、忘れるわけがないんだから。

 それをひっくり返そうと思ったら実力行使しかない。

 番長になって学校を支配するとか。


「いやいや。マンガかよ」


 七樹が苦笑する。

 そりゃそうだ。


 マンガとかアニメとかで、よく学校を支配するみたいな描写があるけど、現実にはまったく意味がない。

 高校なんて、だいたいは三年で卒業するからね。

 そんな期限付きの場所を支配してどーすんのって話さ。


 そもそも学校なんて、いかないって選択を取れる場所だしね。


「だから闇討ちなんだよ。警察と敵対しちゃったって短絡したら、裏社会に接近するかもだけどね」


 私は肩をすくめてみせた。

 正直、そうなったらちょっとめんどくさい。


 ヤクザでも暴力団でも良いけど、ああいう人たちって手段を選ばないだろうから。

 母親や弟に危害を加えられるのは非常に困る。


「高校生とは思えない先読みですね。それでまだ覚醒していないというのですから、驚きです」


 唐突にかかる声。


 さっと七樹が前に出て、私をかばうように両手を広げる。

 むちゃくちゃ格好いいけど、そこに立たれると私なんにも見えないんですけど。


「……何者だ?」


 地の底から響くような声で威嚇する。

 私は七樹の背後に隠れながら、正面に視線を送った。


 立っているのはスーツ姿のおじさま。

 すらりと長身で、口元の美髭がおしゃれな感じ。


「怪しい者です。名を安藤(あんどう)と申します」


 自分で怪しいって言っちゃった!





 怪しいおじさまに案内され、私と七樹は喫茶店に入った。

 や、同行したくなんてまったくなかったけど、なんか事情を色々知っていそうだし。


「……で、なにものなの?」


 ありふれた喫茶店のありふれたボックス席に腰掛け、訊ねる。

 安藤さんと名乗ったけど、どう考えてもただの人間じゃないよね。


「そうですね。世代が違うので面識はないかと思うのですが、私もそちら側の記憶を持つものです」


 ほほう。

 世代ときましたか。


 もちろんそれは、今の年齢のことではないだろう。

 私は視線で先を促した。


木花開耶(コノハナサクヤ)といって、判りますかな?」


 えーと。

 ちょっとまってね。


 私は鞄からごそごそと携帯端末を引っ張り出した。

 きいたことはあるんですよ?

 あるんですけど、さすがにソラでは出てこないです。


 横を見ると、七樹も携帯端末をいじっている。

 だよね!

 高校生の知識量なんてそんなもんだよね!


 でも、アンタは八岐大蛇の知識もあるよな。電子機器に頼るなよ。伝説のドラゴン。


 あった。

 木花開耶姫(コノハナサクヤビメ)。木花咲耶って書く方が一般的らしいね。

 天照大神の孫の瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)の奥さんだ。


 で、神武天皇のお祖母さん。

 ようするに日本の天皇家の直系の先祖ってことだね。


「つーか女神じゃん……」


 ものすげー美人の女神様じゃん。

 なんで格好いい髭のおじさまになってんのよ。


「今生において性が変わっている神はけっこうおります。私の知っているところでは、八意思兼(ヤゴコロオモイカネ)が女性に転生していますよ」

「まじかー 七樹が女の子になっちゃう可能性もあったのかー」

「なんで俺を引き合いに出した?」


 ジト目で見つめてくる七樹。

 まあ、そうならなくて幸いだ。

 私に同性愛の趣味はないからね。


 スサノオもオロチもクシナダも、みーんな女の子ってんじゃ、どこの美少女ゲームだよって話である。


「素戔嗚尊が転生したのは、すでにご存じかと思います」


 じゃれ合いに入ろうとする私と七樹に、こほんと安藤氏が咳払いして注意を喚起した。

 まあ、ご存じもなにも一戦交えている。


「じつは、それは非常に厄介な事態なのです」

「というと?」


 もちろん厄介ではあるよ。私にとって。


「主神級は本来、転生しません。人の生の間とはいえ、高天原を空けるというのはあまりよろしくありませんので」


 主神ってのは、アマテラスとかツクヨミとかスサノオとか、よーするにえらい神様のことらしい。

 すんませんね。私はくそ地味なクシナダで。

 七樹なんて、神様どころかモンスターだし。


「なんか言いたそうだな? 美咲」

「べっつにー?」


 ともあれ、いくら八百万もいる日本の神様でも、主神級ってのはそれなりに忙しくて、人間に転生して遊んでるってのはNGらしい。

 人間の命なんて、せいぜい百年くらいなんだけどね。


「素戔嗚尊の転生に関しては、高天原でも問題視されました」

「まあ、そりゃそうよね」


 現実問題として、さっそくトラブル起こしちゃってるしなあ。

 どんだけ問題児なんだよ。

 おとなしくしていられないのか? あいつは。


「驚愕ですよ。転生して一週間も経たないのに警察のご厄介になるとか」


 やれやれと安藤氏が肩をすくめる。


 高天原としては、事態を憂慮せざるを得ない。

 人間界には不干渉ってのが、基本姿勢らしいんだ。

 自分で事件を起こしちゃうとか、もうね。ありえないってレベル。


「主上は大変に嘆かれ、もうちょっとでまた天の岩戸に引き籠もってしまうところでした」

「いやいや。それはそれでどうなのよ? 天照大神」


 嫌なことがあったらすぐ隠れるってのは問題だと思うよ?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ