星降る夜の告白は、リリカルだよね! 3
燦々と輝く太陽。
どこまでも白い砂浜と青い海が、夏だぜベイベーって力いっぱい主張している。
和歌山県は和歌山市のはずれにある和歌浦。なんでも、万葉集でも詠われたような場所らしいよ。
たしかにもっのすごい風光明媚だね。
もっのすごい寂れてるけどね。
「ここが景勝地として栄えたのは昭和の四十年代くらいまでだな」
水着の上にパーカーを羽織り、豊かな筋肉を隠した七樹が解説してくれる。
なんで隠すんだよ。
もったいねーなー。晒しておけよ。
安藤氏みたいな貧弱ボディなら隠したくなる気持ちは判るけどさ。
「……非常に不本意は言われようですね……」
「気にするでない。儂は筋肉ダルマなど好まぬ。今のままで良いぞ」
あっちで安藤夫妻がいちゃついてるけど、ほのかさんは完全無欠のお子様体型だから、七樹も伊吹もまったく興味はないようだ。
うむ。計算通り。
「美咲はもう少し隠せ。俺以外に見せるな」
ちょっと顔の赤いカレシどのだ。
わかってねーな。あんたに見せるために頑張ったんだよ。
他の男どもの視線なんてどーでも良いの。
七樹がときめいてくれたら、オールオッケーなんだよ。
言わないけどね。
つけあがられても困るし。
「つーか、そもそもたいして人もいないじゃん」
こんなに綺麗な海と砂浜があるのに。
「泡沫経済が始まったら、どんどん人が減っていったらしい」
苦笑する七樹。
日本全体が狂熱のようなものに冒された時期だ。
もちろん人間の私たちは、まだ生まれてない。
ものすごい好景気だったんだって。
日本人の目は、海外に向くようになったらしい。
国内で遊ぶなんてだっせーぜ、国内旅行なんて貧乏くさいぜ、みたいな感じで。
すごい時代だねー。
派手にお金を使うのが格好良かったらしいよ。
そんでもって、日本の観光地や景勝地は捨てられ、忘れられていった。
泡沫がはじけた後、夢からさめた愚かな日本人どもはふたたび国内に目を向けたけど、それを待ち続けるだけの体力は、この国の観光事業にはなかったんだって。
そうして各地の名勝・景勝地には、廃墟だけが残されていった。
「なんかせつない話だね。七樹」
「ただまあ、そのぶん値崩れもすごくてな。かなり安く買えたって側面もある」
山田家の別荘のことだ。
新築したものではなく、中古物件を買い取って改装したんだってさ。
もちろん貧乏人の私に手の出るような価格じゃないけど、相場から考えたらかなりお買い得だったらしいよ。
「安いったって高いだろうけどね」
トロピカルドリンクをもった雪那が近づいてくる。
純白のビキニがまぶしいでげす。
くっそくっそ。
なんであんたそんなにスタイル良いんだよ。ほんとに同い年かよ。
むしろ近づくなっ。
七樹が目移りしたら困るっ。
そのために私が腕を振るって南国っぽいジュースやお菓子を用意したんだからさ。それぞれのパートナーといちゃついてなよ。
後ろに続いてる伊吹も、もちろん水着姿だ。
どうでも良いけどね。
「俺の扱いが雑すぎる……」
「なにさ? 不満なの? じゃあ伊吹のビキニパンツを話題の中心に据える?」
「やめろ! そんなもん履いてねーだろ! 普通の水着だろ!!」
なんか荒ぶってる。
仕方ないね。
荒神だからね。
「それでも条件としては破格だったんだ。ロケーションを考えたらな」
海岸沿いの別荘。目の前にはビーチ。
デッキから飛び出せば、そのままオーシャンブルーだ。
そしてお客さんが少ないから、ほとんどプライベートビーチみたいなノリである。
おもいっきり贅沢な夏の過ごし方ができる。
「日本人は、どういうわけか人の多いところへ多いところへと向かう傾向があるからの。そこで逆を突くことができるというのは、七樹の親御がたしかな商才を持っている証拠であろうよ」
七樹の頭の上で、えっらそうに腕を組んだ子犬の幽霊が、えっらそうに論評する。
もちろん綱吉だ。
「つまり?」
「他人と同じことをしても儲けられん、という話じゃよ。美咲や」
流行の尻馬にのっかてるだけじゃ大きな成功は掴めない。
しょせんはコピーだから。
まして、劣化コピーになってしまったらどうなるか。
人まね猿まねではなく、自分で流行を創り出せ。
「ビジネスに限った話ではないじゃろうがの」
相変わらず深いことを言う子犬である。
「高尚な経済学はともかくとして、泳ごうよ。せっかく海にきたんだから」
グラスをデッキのテーブルに置いた姐御、ばっと腰のパレオを取り去った。
うっひょー!
足ほっそいっ。
お尻ぷりっぷりっ。
「……美咲。手をわきわきしながら近づくのはやめれ。どこのセクハラおやじだよ」
「いやあ。つい」
触りたくなるじゃろ? そこに素晴らしい尻があったら。
どうして山に登るのかと問われた登山家と同じだって。
そこに山があるからだ、てきな?
そこに尻があるからだ、てきな?
「あんたはすべてのアルピニストに心から謝罪しな」
「たいへん申し訳ありませんでした」
姐御に叱られた私は、心から謝罪した。
なにやってんだか。
二時間ほど海で遊び、お昼はシーフードラーメンである。
何が食べたいかリクエストをとったところ、なんか全員一致だった。
ゆーて、たいして凝った作り方をするわけじゃないけどね。
べつに自分で麺を打ったりとかできるわけじゃないし。
ごく普通に塩ラーメンを作って、そこにバターで炒めた魚介類をのせるだけだ。
美咲謹製、塩バターシーフードラーメンである。
「これは美味いのう。遊び疲れた身体に染み渡るようじゃ」
ほのかさんが絶賛してくれる。
「だろ? 美咲の料理はそのへんのレストランにも負けないからな」
ふんすと七樹が威張っている。
なんだろうね。この邪竜は。
どうせなら私を自慢しなさいよ。なんで私の料理を自慢してるのよ。
コックとして身を立てたいわけじゃないんだよ?
わかってんのかね。
私がなりたいのは、違うものだってことを。
「しかし、途中のスーパーで買った程度の食材で、これほどまでのものを作ってしまうのは才能だと思いますよ。美咲さん」
「やめてよ安藤さんまで。材料ほとんど値引き品なんだから恥ずかしいよ」
私は笑ってみせる。
そうなのだ。
貧乏生活が長かったためか、私はどんなスーパーに入ってもまずは値引き品のカゴから見る。
スーパーには、定番をカットされたり賞味期限が近づいていたり、いろんな理由で値下げされている商品が存在する。
そういうのをチェックしていると、作るべきメニューが頭の中に組み上がっていくのだ。
もちろん今日みたいに、最初から作るものが決まってるケースもあるけどね。
で、そのメニューに必要な材料が値引きされていたりすると、最高だ。
運命すら感じちゃうよ。
諸君、私は値下げ品が好きだ。
「ですが今夜は、値下げ品ではなく獲れたての魚介類が届きますよ。先ほど息子から連絡がありました」
安藤氏が笑う。
息子さんってのは、海幸彦のことだろう。
暴虐の弟にやっつけられた可哀想なお兄ちゃんだ。
いいね。ただでもらえる食材は大好きだよ。
「伊勢エビやアワビ、足赤エビなどもきますので、期待してください」
やっべえ。
なんかものすごい高級食材の名前が聞こえた。
んなもん、私扱ったことないよ。
ちらりと仲間たちを見ると、期待に満ちた目で私を見てるし。
いえねぇ。自信ないよなんて言えるわけねぇ。
まあ、携帯端末でレシピ引っ張ればなんとかなるかな。
私には泥を金に変える調理技術がある。
やってやろうじゃないか。
「よろしい。ならば料理だ」
『料理! 料理! 料理!!』
七樹、雪那、伊吹、安藤氏、ほのかさん、綱吉が声を揃えて叫ぶ。
ノリいいなあ、あんたら。
どこの少佐だよ。私は。
いやまあ、良いんだけどね。
高級食材だからってびびるわけにはいかないじゃんさ。
「さあ諸君。御馳走を作るぞ」
にやりと笑ってみせる。




