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私のオロチさま! ~スサノオとヤマタノオロチが同級生!?~  作者: 南野 雪花
最終章 星降る夜の告白は、リリカルだよね!
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星降る夜の告白は、リリカルだよね! 2


「カメの背中に乗って竜宮城に行くという話を知っていますか?」


 安藤氏が訊ねる。


「浦島太郎じゃね?」


 何を当然のことを言ってるんだ、という顔を雪那がした。

 まあね。

 けっこう有名な童話だからね。


「では、その童話には元ネタがあるのは、ご存じですか?」


 元ネタ?

 元ネタもなにも、童話に元ネタなんてあるの?

 私は首をかしげる。


「あるのじゃよ。認めたくないことじゃがな」


 むっさい声を出すのは、助手席のほのかさんだ。

 ミニバンを駆って、私たちは和歌浦にある山田家の別荘へと移動中である。

 もちろんこの車も山田家の所有物だ。


 夏休みである。

 私、雪那、七樹、伊吹、綱吉の四人と一匹は、予定どおり海に遊びに行くことになった。


 引率と保護者とドライバーを、安藤夫妻が引き受けてくれたのも予定の行動だ。

 未成年者だけで泊まりがけの旅行、というのを認めてもらえるほど、高校生というのは自由な身分ではない。


「なんか不機嫌そうですね? ほのかさん」

「まあの。我が愚息に因縁のある地じゃからの。つまり浦島太郎の元ネタじゃな」

「息子さん?」

彦火火出見尊(ひこほほでみのみこと)火闌降命(ほすそりのみこと)


 まったく聞いたことのない神様である。

 そのひとたちが浦島太郎なの?


「もしかしてほのかさん。山幸彦(やまさちひこ)海幸彦(うみさちひこ)?」


 雪那が半ば挙手するように言った。

 なんかきいたことあるよーな? ないよーな?


「さすが姐御じゃ。彦火火出見尊が山幸彦で、火闌降命が海幸彦じゃよ」


 ニニギに別の男の子供なんじゃね? って疑われたコノハナサクヤが、炎に包まれた産屋のなかで産んだ神様なんだって。

 ハードなことすんなぁ。安藤氏。


「いつもの嘘っぱち神話ですよ」

「そもそも、儂、悪く書かれすぎじゃろ。不細工だったから磐長(いわなが)姫を振ったとか言われてるし」


 ほのかさんぶつぶつ言ってるし。


 ニニギとコノハナサクヤって、ごく普通に恋愛結婚なんだってさ。

 んで、お嬢さんを僕にください的な挨拶をしにいったら、どうせならお姉さんの磐長姫ももらってよみたいなことを言われたんだそうだ。


「断るじゃろ? 普通。醜いとか美人とか以前の問題じゃよ」


 まったくである。

 ニニギはコノハナサクヤと恋愛関係にあったのであって、そのお姉さんはまったく関係ない人だ。

 一緒に娶れやって押しつけようとする父親の方がどうかしてるだろう。


 ちなみにこの父親ってのは、大山祇(おおやまつみ)神っていう神様だ。

 イワナガ姫とも結婚しないのは不美人だからだろって言いがかりをつけて、これ以来、ニニギとコノハナサクヤの間に生まれる子供たちは寿命が短くなった。

 ようするに、人間になったってことだね。

 ひどい話だ。


「俺よりマシだろうさ。それより話が逸れてるぞ」


 悪く書かれることにかけては右に出るものがいない七樹が指摘する。

 そうだった。

 いまは山幸彦と海幸彦の話である。



 海幸彦が兄で、その名の通り海の幸を得ることが得意だった。

 山幸彦は弟ね。

 得意なのは当然、山の猟の方。


 で、あるとき何を思ったか、自分も海で漁をしてみたいから道具を貸せって兄に迫ったわけ。

 意味わからんよね。


 神様だからさ。それぞれ司るものがあるんだわ。

 海幸彦は当たり前のように断るんだけど、結局、弟にごり押しされちゃって、一日だけ道具を交換するべってことになったのさ。


 弱い。

 頑張れやお兄ちゃん。なに弟に押し切られてんだよ。

 ゆーて、山の神が海に行ってどーすんだって話。


 いくら海の神の道具があったって、いきなり釣り名人になれるわけないじゃん。

 プロのテニスプレイヤーからラケット借りたって、それだけで上手くなるわけないのと一緒さ。


 釣果ゼロなのは仕方ないとして、なんとこの弟、兄の道具を海に落としてなくしちゃうの。

 これにはさすがのお兄ちゃんも大激怒。なにやってんだおめーってね。


 仕方ないから山幸彦は自分の剣を潰して、釣り針をたくさん作って、海幸彦に渡したんだ。

 これでいいべやって勢いでね。


 うん。

 ぜんぜん良くないね。


 そういう問題じゃないよね。

 弁償したからOKってもんじゃないでしょーよ。


「そうじゃなくてよ。まずは探しなさいって。それでも見つからなかったら、そこで申し訳ありませんでしたって謝罪でしょうよ。なんで、いきなり替わりものやるから良いべやって話になるんだよ」


 てな感じで、お兄ちゃんはたしなめるわけだ。

 弟としては兄の態度が気にくわない。


「はぁ? 海でなくしたものを探したって見つかるわけねーじゃん。バカじゃねーの? これ俺に対する意地悪だよな。OKOKあんだすたんど。兄さんってそういう人間だね」


 で、一応は、探せば良いんだろ探せばって海に行った山幸彦だけど、当たり前のように見つかるわきゃーない。

 そこでカメ登場ですよ。


 じつはこのカメ、海神(わたつみ)の国の人だったんだ。

 事情をきいて、そんなら王様に頼んでみたら良いよって、山幸彦を海の国に連れてってあげるの。

 優しい。


 ていうか甘やかしすぎ。

 ちなみに甘やかすのカメだけじゃなくてね。

 海神の娘の豊玉(とよたま)姫まで、甘やかしまくりで山幸彦とラブラブモードさ。

 三年くらい歓待しちゃった。


 おいおい。

 釣り針さがしはどーなったんだよ。


 さんざん遊び呆けたあとに、やっと本来の業務を思い出した山幸彦は、よーやっと海神に相談するんだ。

 んで、なんやかんやあって、釣り針を回収できたんで地上に戻ることにする。


 ただまあ、三年も経ってるからね。

 怒られるんじゃねーかなーってのは、誰でも予想できること。

 私だったらブチ切れるわ。


 ここで、さらに甘やかし王の登場ですよ。

 海神ね。チートアイテムを山幸彦にあげるんだ。

 塩満珠と塩乾珠ってゆー、海の水を自由に操るアイテムね。


 もし海幸彦に怒られたら、これを使ってやっつけちゃえって。

 もちろんそんなもん使われたら海幸彦は勝てるわけがない。海の神なのに、アドバンテージである海を操られちゃうんだから。


 こうして当然の権利を主張しただけのお兄ちゃんは、こってんぱんに叩きのめされて、弟に服従を誓わされるのさ。

 もう二度とあなた様には逆らいません、ってね。


「うん。ニニギとコノハナサクヤは、子供の教育に失敗してるね」

「一言もありませんね」

「儂が甘やかしすぎたのかのぅ」


 山幸彦と海幸彦の神話の、だいたいの概要を聞いた私の感想に対する、安藤夫妻の言葉である。


 びっくりだよ。

 異世界転生ラノベのチート主人公だって、もうちょっとマシなんじゃね? ってレベル。


「だから、浦島太郎が生まれたってことかな?」


 姐御が腕を組む。

 ニニギたちの息子ってことはさ、天皇家に繋がっていく系譜だからね。

 こんな鬼畜野郎が先祖って、嫌すぎるわ。


「そういう側面もあるでしょうね」


 ハンドルを握る安藤氏が苦笑した。

 山幸彦が浦島太郎。海神の城が竜宮城。豊玉姫が乙姫に変化したわけだ。

 お兄ちゃんの海幸彦については、丸ごと割愛。


 だって彼が出たら、誰がどう見ても山幸彦の方が悪役になっちゃうからねー。


「出番すら削られるとは、哀れな話よのう」

「悪役として出るか、無かったことにされるか。それが問題だ」


 綱吉と七樹が遊んでる。

 なにそれ? ハムレットごっこ?


「そこまでしても山幸彦を完全な善玉として描くのは無理があったんだろうね。だから最後は玉手箱のエピソードでお茶を濁したってとこかな」


 くすくすと姐御が笑う。

 私も同意見かな。


 どう考えてもあのエピソードおかしいもん。

 絶対に開けないでって箱を渡すとか。

 なんでそんなことすんのよ。開けるでしょうよ。普通は。


「おじいさんになった後、二段変身で鶴になって飛んでっちゃうらしいけどね」

「わけわからん」

「だからそのへんは絵本とかでも語られないんでしょ」


 たしかに。

 どんな結末だよ。


「で、和歌浦に行ったらいるってわけだ。可哀想な海幸彦くんが」

「ですね。彼は隼人(はやと)の祖になったと言われていますが、じつは畿内説の方で」


 姐御と安藤氏の会話である。

 まあ、神話時代の話なんで、場所の特定は無意味でしょ。


「あー俺、なんか仲良くなれそうな気がする」


 ぼそっと七樹が呟いた。

 

 

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