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私のオロチさま! ~スサノオとヤマタノオロチが同級生!?~  作者: 南野 雪花
第3章 犬が喋るとか、ワンダフルだよね!
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犬が喋るとか、ワンダフルだよね! 9


 カルラ王は、今生では伽羅(きゃら)と名乗っているそうだ。

 前にあったときは自己紹介とかはしなかったけど、今回はこっちからお願いするわけだからね。

 私たちも名乗らないってわけにはいかない。


 で、雪那が訊ねたのは、人間を生きたまま地獄に落とすことは可能か、という類のことだった。

 地獄巡りツアーとか、そんな感じ。


 つまり姐御のアイデアとは、猫たちを虐待した犯人に地獄を味わわせるってこと。

 文字通りの意味で。


 どうしてそれを伽羅さんに訊いたのかっていえば、地獄が存在するのは仏教だから。

 七樹や伊吹の日本神話では、死者の世界は根の国っていって、べつに苦しみとかを与える場所じゃない。


「できるけど、発狂しちゃうわよ?」


 これまでの経緯を興味深そうに聴いていた伽羅さんが小首をかしげた。

 地獄での責め苦は、それはそれは厳しいのだそうだ。

 もうね。

 いっそ殺せぇぇっ! ってなるくらい。


 でも死なない。

 どんなにボロボロにされても、死ぬことはできないんだ。


 そして身体は風が吹けば元に戻る。

 で、また責められるわけだ。

 永遠に、終わることなく。


 こんなのに耐えられる人間は存在しない。

 精神が壊れちゃう。


「まあ、妾としては全然かまわないけどね。生きてる価値もなさそうだし」


 婉然とした笑みを浮かべる。

 すっげー美人だけに、こういう表情をすると怖いなぁ。

 迫力が違います。


「そっか。じゃあダメだね」


 むーんと考え込んだ雪那が口を開いた。

 ダメなん?

 発狂するまで追い込むってのは、わりと良いアイデアだと思うんだけど。


「美咲。それは逃げ道だよ。狂ってしまえば、自分のしたことを反省することもないもの」


 淡々と語る姐御。

 こっわっ。

 この人ってもしかして、殺すことが嫌だったわけじゃないのか!?


「なにを言ってるの? 死なんて一瞬でしょ」

「うわぁ……」

「猫たちはなぶり殺しにされたんだよ。一瞬でラクにしてあげて、それで恨みが晴れるの?」

「だな。俺は考え過ぎだった」


 ぽんと手を拍ったのは伊吹だ。

 七樹も頷く。


「人が人を裁く。そう考えたから悩んでしまったな。そうじゃない。菅江さんが俺らに頼んだのは、人としてって意味じゃない」


 確認するように。


 そうか。

 私たちは、神様チームなんだ。

 だから、人間として裁くことを期待されたわけじゃない。


「雪那。俺が手を汚さなくて済む方法を、考えてくれていたんだろう?」


 優しげな目を、伊吹が姐語に向ける。

 あんた、そんな顔もできるんだねえ。


「……伊吹のクセになまいきだ」


 ふいと目をそらす。

 真っ赤になってるのMARUWAKARIですぜ。姐御。


 冗談はともかくとして、たぶん最初から雪那はわかってたね。

 その上でいろいろ考えていたんだ。だからキャラさんにも偽悪的なことを言って食い下がった。


 あれ、副音声は「殺さない壊さない方法はないですか?」だよ。

 くっそう。

 なんて優しいんだ。


「そうやって一人で抱え込むのは良くないと予は言ったのじゃがな。ウチは戦うこともご飯を作ることもできないから、じゃと」


 笑いながら、綱吉が余計なことを言う。

 そういうとこだぞ。


 たまらなくなって、私は雪那を抱きしめた。


「姐御ぉぉぉっ! 結婚してーっ!!」

「帰れ帰れ」


 そして、ぺいって捨てられた。

 つれない。


 けど、雪那が笑ってくれたからOKだ。

 苦笑いに近かったけどね。


「ホント、只人(ただひと)にしておくのは惜しいタマだね。姐御は。クシナダチームから、『ぴゅあにゃん』に鞍替えしないかい?」

「さすがにそれはちょっと。カレシもいるんで」


 言って、雪那が伊吹に右手を差し出す。

 にこりと笑った邪神が恭しくおしいただいた。

 どっちが神様がわかんねーな。


「美咲。俺と伊吹で片を付ける。かなり残酷な殺し方をするから、お前と三石はこなくて良い」

「……あー、うん。判った」


 なんか言い返そうと思ったけど、できなかった。

 七樹の顔が真剣すぎて。


 人間の雪那と、記憶の戻っていない私はついていくことはできないのだ。

 これは神の仕事だから。

 人は人を裁いてはいけないから。


「せっかく呼んでもらったし、妾も一肌ぬいじゃいますかね。確実に地獄行きになるよう、閻魔(えんま)に取りはからうよ」


 犯人自身が猫たちにしたようになぶり殺す。そして確実に地獄へと落とす。

 このあたりで、どうか納得してもらえないだろうか。


「復讐はなにも産まぬ。怨霊どもも判っておるよ」


 そんな言葉で、綱吉が怨霊たちの説得を引き受けてくれた。


「そっちもサービスしましょ。極楽へ導くわ。妾が責任をもって」


 どん、と、伽羅さんが胸を叩く。

 頼もしく優しい闘神だ。

 むしろ伽羅さんがこっちのチームにきてくれればいいのにね。






 翌朝のことである。


 SNS界隈がちょっと騒がしくなった。

 野良猫を虐待して殺していた犯人が、惨殺死体となって発見されたというニュースが流れたから。

 それはそれはおぞましい殺され方をしたらしい。


 大学生だった。

 姓名も住所も、顔写真さえもアップされた。


 これはたまちゃんの仕業。

 そっち側からの協力をお願いしたのだ。


 頼んだのは私である。

 つまり私の罪だ。


 七樹たちだけに背負わせたりしないよ。

 これから犯人の両親は大変なバッシングに遭うだろう。本当は子の罪は親に及ばないし逆も然りだ。

 けど、この国ではそうじゃない。法で裁かれなくても噂がつきまとう。

 知っていて私は引き金を引いた。


「人知れず処分なんてさせないんだから」

「やれ。美咲もたいがい頑固じゃの。おぬしが背負う必要はあるまいに」


 私の机の上で尻尾をぶんぶんと振ってる子犬は、もちろん綱吉だ。

 体の中にいた怨霊たちが成仏しちゃったから、四六時中、七樹から神力をもらわなくても元気いっぱいである。


「記憶は戻ってないけど、私だって神さまなんだからさ。なんもなしってわけにはいかないでしょ」


 あんがい重いよね。

 神様の責任って。

 気楽に新世界の神になるとか、言わない方がいいわ。いやまじで。


「ていうか、綱吉は成仏しないの?」

「予の本体はとっくに成仏しておるよ。これは残留思念じゃ」


 ごめん。

 幽霊と残留思念の違いがわかんない。


「ホラー的解釈とSF的解釈の違いじゃな」

「もっとわかんなくなったよ!」

「ようするに、未練があって成仏できない、という存在ではないと理解しておれば問題なかろう」


 えらくざっくりしてるなぁ。

 まあ、可愛いから良いんだけどね。


「美咲。今日はウチが綱吉あずかるね」


 机の上でうにうに動いていた子犬を、ひょいと雪那が持ち上げた。

 とられちゃった。

 私が連れて帰ろうと思ってたのに。


「山田と一緒にいてあげなよ。んで、明日は美咲があずかって。ウチは伊吹を慰めるから。たっぷり」

「言い方がやらしい。むしろ、二人きりにならないとできないことをするつもりはないんだけど?」


 どんな気の使いかたをしてんだよ。姐御は。

 今日は私が七樹と二人きり。明日は雪那が伊吹と二人きり。

 まるで綱吉が邪魔みたいじゃないか。可哀想に。


「え? しないの?」


 生々しいわっ!

 わしらはまだ高校生じゃっ!

 不純異性交遊禁止っ!


「見られてたほうが良いとか? 綱吉に」


 そうじゃねぇよ!

 まったくそういうことじゃねぇよ!


「普段あれほど山田を下ネタでからかってるクセにね」

「じゃのう」


 姐御と綱吉が頷きあってる。

 息ぴったりじゃねーか。おめーら。


 そもそも、からかうのと実践はぜんぜん違うのだ。


「美咲さえ良ければ俺は……」


 振り向けば、七樹がもじもじしてる。


「あんたも……照れるとかじゃなくてね……」


 疲れてきたぞ。

 でもまあ、七樹と伊吹は大変な仕事を終わらせたんだから、なんらかのご褒美があってしかるべきだろう。

 身体ってのはアレとしてね。


「デートくらいは、しよっか」


 私は笑ってみせた。

 にっこりと。


「お、おう。資金はまかせろ」


 いやいや。

 いつもいつも七樹のお金をあてにしてるわけじゃないよ?


 安藤氏から報酬も入るし、ここは私にどーんと任せなさいって。


「え?」と、雪那が、

「え?」と、伊吹が、

「え?」と、綱吉が、

「え?」と、七樹が呟いて固まった。


 タイトルを付けるなら、驚愕の像だ。


 あんたらね……。



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