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私のオロチさま! ~スサノオとヤマタノオロチが同級生!?~  作者: 南野 雪花
第3章 犬が喋るとか、ワンダフルだよね!
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犬が喋るとか、ワンダフルだよね! 6


 ペットボトル入りのお茶で唇を湿らせ、菅江さんが口を開いた。


生類憐(しょうるいあわ)れみの令って知ってるかな?」


 と。


 いやいやあんた。

 いくらなんでもバカにしすぎだから。私たちは高校生ですよ。

 徳川(とくがわ)五代将軍の綱吉(つなよし)が出した、天下の悪法でしょ。

 そのくらいは知ってるって。


 犬を手厚く保護して、人間よりずっと大事にしたとかなんとか。

 んで、綱吉についたあだ名が犬公方(くぼう)

 ひどいよね。

 いくら犬好きだからって、そこまで犬を優先したらだめじゃん。


「なるほど。やっぱりそういう解釈なんだね」


 ふうとため息を吐く。

 疲れたように。


 私たちはわけがわからず、顔を見合わせた。

 だいたい学校で習う程度のことじゃん。

 天下の悪法だったってね。


「記憶が戻っていない奇稲田姫だけじゃなくて、素戔嗚尊や八岐大蛇までとは」


 なんか嘆いているし。


「江戸時代なんて俺は高天原にいたし、見ていたわけじゃないからな」


 不本意そうに伊吹が言う。

 七樹は肩をすくめたのみだけど、同意見ってことだろう。


 ようするに地上の出来事なんて、いちいち見てないよってことだ。

 無情なようだけど、こればっかりは仕方ないよね。

 神様はべつに人間を導くために存在しているわけじゃないし。


「これじゃあ迷うのも無理はないといわざるをえないけどね」


 なにが?

 首をかしげる私をよそに、菅江さんがぱんぱんと手を叩いた。

 おいで、とか言いながら。


 一人暮らしっていってなかったっけ?


 ややあって、それはやってきた。

 奥の部屋から、ててて、って走って。


 白い毛玉。

 イッヌだっ!

 モフモフだっ!


「ん? なんかいるの?」


 雪那が訊ねる。

 あれ? みえてない?

 てことは……。


「霊体だな。ようするに幽霊だ」


 七樹が説明してくれる。

 やっぱりぃぃっ。

 犬の幽霊とか、ちょっと勘弁して欲しいんですけどっ!


「いるのっ! みたいみたい!!」


 なんで姐御は興味津々なんですか。

 あ。そうだ。こいつオカルト好きなんだった。

 ゲテモノ好きめ。

 だから伊吹とつきあってるのかよ。


「雪那」


 声をかけた伊吹が、すいと姐御を抱きしめる。

 そして有無を言わせず唇を奪った。


 きゃーっ!!


 驚きに目を見開いたものの、雪那の表情がとろんとゆるむ。

 いやいや。

 いやいやいやいや!


 なにやってのよ! この変態邪神!!


「おちつけ。美咲。息吹を入れてるだけだ」

「伊吹を入れる!? こんなところで!?」

「何を想像してるんだよ。いまのままじゃ三石にあれ(・・)は見えないからな」


 苦笑しながら七樹が解説してくれた。

 ようするに神力を分け与えているらしい。


「……ぁ」


 雪那が色っぽい声を出す。


「なんか……からだが熱くなった……」

「やめぃ!」


「いやあ。若い人は情熱的だねえ。僕も今日は風俗いっちゃおうかな」


 おいぬらりひょん。何を口走ってやがる。

 未成年者ばっかりなんだから、ちょっとは考えろ。

 風俗とか生々しすぎる。


「あ。見えた。犬いる」


 雪那が目を輝かせた。

 結果オーライだけどさぁ。


「伊吹も、他に方法なかったの? 人前でディープキスとかどうなのよ?」

「鼻から入れても良いけど……」


 いや。

 それは絵面が悪すぎる。


 入れる場所ってもうちょっとなんとかならんのか?

 くそ仕様かよ。


「あとは、あれをするくらいしかないからな。仕方がないだろ」


 カレシどのが肩をすくめる。


「あれって?」


 にまぁ、と、私は笑った。

 こんなチャンスを逃すと思ったか。七樹よ。


「あれはあれだよ!」


 真っ赤になる純情ドラゴンでした。

 よし。勝った。


 それじゃあ話を聴きましょうか。


「俺の扱い……」


 沈んでいく七樹の肩を、伊吹が叩いてやっていた。

 邪竜と邪神のうるわしき友情である。


「で、この犬は?」

「簡単に言うとレギオンだね。怨念の集合体だよ」


 まったく簡単じゃないよ。ぬらりひょん。


「主人格としては、綱吉だよ」


 おいおい。

 この子犬、将軍なの?


「の、残留思念じゃな。迷うておった悪霊どもをまとめて、悪さをせぬよう予の身体に封じ込めたのじゃ」

「しゃ、しゃべったーっ!?」


 思わず私がのけぞる。


「そりゃ喋るじゃろ。見た目は犬の霊体じゃが、予は人間の残留思念じゃもの」

「ア、ハイ」


 そうかもしんないけどさ。

 衝撃的じゃん。犬が喋ったら。


「よっと」

「こりゃ。なにをするのじゃ。姐御」


 雪那の手が伸び、犬を持ち上げて膝に乗せる。


「OK。綱吉。ウチらの話をずっと聴いてたんだね」

「ぬ……」


 姐御って呼ばれただけで、雪那は事情を読みとってしまう。

 むしろそれを確認するための行動か。

 すげえな。

 このJKおそろしすぎる。


「僕からの条件はそれだよ。姐御。綱吉の頼みをきいてやってくれないか?」


 妖怪たちの総大将が笑った。





 帰路である。

 連れだって歩く私たち四人と一匹。

 より正確には一匹は歩いていない。七樹の頭に乗っている。


 なんでそんなところにいるかというと、精気(エナジー)の補給にちょうど良いのだそうだ。

 見た目的にかなり可愛いので許可である。


「べつに伊吹の頭でも良いんじゃないの?」


 雪那が指摘するのは、自分のカレシの方に乗って欲しかったからだろう。

 可愛いからねっ。綱吉はっ。


 ちなみに私や雪那には乗れない。ふたりとも普通の人間程度の霊力しかもってないからだ。

 ちゅるちゅる吸われたら死んじゃうのである。


「予はこれでも悪霊の類じゃからの。神とは相性が良くないのじゃ。その点、七樹はモンスターじゃからな」


 ふっさふさの尻尾を振りながら綱吉が応えた。

 属性的なものだろうか。


 七樹はドラゴンだから闇属性で、伊吹はあんなんでも神様だから聖属性とか?

 うぷぷぷっ。

 伊吹が聖て。


「すげー失礼なこと考えてる顔だけどよ。クシナダ姫さんよ。俺ら神に聖邪の区別はねぇよ」


 睨まれた。

 つーか私まで一緒くたにまとめられた。

 ……そうかぁ。わしは神じゃったのう。忘れてたけど。


 奇稲田姫って国津神なんだよなぁ。あ、素戔嗚尊は天津神ね。


「力を分けてもらえぬ、ということはないがの。やはりバケモノ同士の方が相性は良いのじゃよ。美咲や」


 後ろ脚で、てしてしと頭を掻きながら言う綱吉。

 なんつーかあんた、犬そのものなんだけど、将軍ってそれで良いの?


「すでに死んだ身なれば、姿形を嘆いても詮無きことじゃよ。ましてこの姿は、予が犬公方などと呼ばれた結果じゃしの」

「そうなんだ?」

「予が人より犬を大事にした愚かな君主で、そんなに犬が良いなら犬にでもなっちまえ、と願われたのじゃよ」


 あくびをしながら、皮肉げなことをいう。


「ていうかさ。そんなに犬好きだったの? 綱吉って」

「べつにたいして好きでもないがの。嫌いというほどでもないが」


 おいおい。


 じゃあなんだって生類憐れみの令なんか出すのよ。

 あの時代って、お犬様お犬様って人間よりも犬の方が大事にされたって習ったよ。

 で、あんまりの愚行に怒った水戸黄門(みとこうもん)が、犬の毛皮を綱吉に送りつけて、いい加減にしないと戦だぞって脅したとかなんとか。


「それを事実と思うかや? 美咲や」

「……歪曲されてるってことね。OK」


 私は頷いてみせた。


 スサノオ伝説だって嘘っぱちだった。九尾の狐伝説もかなり怪しい。

 ということは、綱吉伝説だって捏造された可能性はあるのだ。

 何者かが都合良く書き換えた歴史ってやつである。


「そうじゃの。生類憐れみの令は、べつに犬はえらいのじゃ、という律令ではないよ。そもそもひとつの法でもないしの」

「そうなんだぁ」


 知らなかった。

 ふつーに、そういう法律がどーんとひとつあるのかと思った。


「犬好きでもない綱吉が、じゃあなんで犬公方なんて呼ばれたの?」


 雪那の問いは当然のものだろう。

 授業で習った歴史が間違いだとすれば、どうしてそんな嘘を教えたのか、伝えたのかっていう思惑があるはずなんだ。

 何者かの。


「ふむ。たしかにそれは語らねばなるまいの。予の願いにも関係のあることじゃし」


 子犬が遠い目をする。

 ものすごく似合っていない。


「まずは予の生きた時代、元禄(げんろく)というのがどういうものじゃったか、そこから理解してもらわねばならぬ」


 そう呟いて、綱吉がおすわりした。

 七樹の頭の上に。


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