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私のオロチさま! ~スサノオとヤマタノオロチが同級生!?~  作者: 南野 雪花
第3章 犬が喋るとか、ワンダフルだよね!
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犬が喋るとか、ワンダフルだよね! 2


 雪那の牙城は揺るがない。

 本人のカリスマもあるし、恋人は伊吹だし。


 魅力と暴力のコラボだよ。誰が逆らえるってのさ。

 ついでに友達の七樹は金力も持ってるんだぜ。

 姐御と愉快な仲間に死角なし!


 ちなみに私はとくに芸もないよ。ふつーの高校生だし、貧乏だし。


「つまり美咲のガードはしっかりやりなさいよ。山田」


 雪那の言葉だ。

 なにがつまりなのか、さっぱりわからないでござる。

 どういう脈絡でつながったのさ。それ。


「ああ。言われるまでもない」


 七樹まで頷いてるし。


「狙うとしたら、まず美咲を狙うってことさ」


 首をかしげてる私に、伊吹が説明してくれた。


 そうなん?

 意味なくない?

 だって私に手を出すってことは、七樹と敵対するってのと同義だよ。


 こいつ敵に回すの怖くね?

 ヤマタノオロチ云々は置くとしてもさ、金持ちだし不気味だし強いし。


「もうちょっと褒めてくれてもいいぞ?」

「背が高くて格好いいし、顔も良いし、筋肉も良い感じだし、キスも上手いし、優しいし」

「…………」


 酸欠の金魚みたいに口をぱくぱくする七樹。

 真っ赤になって。


 あんたが褒めろいうたのよ?

 褒めさせておいて照れるとはこれいかに。


「いじめとかをする連中が、そんなまともな計算できるわけねーだろ」


 私と七樹のじゃれあいを横目に、伊吹が説明を続ける。

 どことなく怒ったような口調になってしまうのは、彼の経験に基づく感想だからだろう。

 伊吹っていうより、伊吹の身体の持ち主っていった方がいいかな。


 まあ、たしかにいじめとかおこなう連中が、そんなこと考えるわけがないよね。


 損得勘定でも、いじめなんてしない方が良いに決まってる。

 道徳うんぬんって以前にね。


 だってあれってさ、訴訟を起こされたらアウトだよ?

 いじめの問題なんて、弁護士も裁判所も神経質(ナーバス)になってんだからさ。


 学校に頼んで解決してもらおうしないで、いきなり訴訟に持ち込んでしまえば、たぶん八割九割の確率で勝てるんじゃないかと思う。

 そうなったら、たぶん学校は加害者をかばわないしね。


 で、私でも判る程度のことを判らない人たちだってことだからさ。

 いじめをする人たちって。


「なーんにも考えないで美咲にちょっかいをかける可能性はあるさ。もちろん雪那にもな」


 ふんすと鼻を鳴らす伊吹。あんたもたいがい怖いからね?

 朝の件で、緑川さんになんかするんじゃないよ?


「俺は何もしねーよ。手も出さねーって。精神を操って全裸で町内を一周させる程度だって」

「やめんかいっ!」


 すぱーんと姐御の裏拳ツッコミが決まる。


 ナイス!

 ったく。なに考えてんだ。この邪神は。

 そんなことに神通力を使うんじゃない。


「だな。そんなことをしてなんになる。伊吹。相手は高校生だ。親の方を圧迫して日本に住めなくする方が効率的だろう」

「おまえもかっ!」


 あ、いまのツッコミは私です。

 邪竜の方は、一応は私の管轄なんで。


 怖いわ。怖すぎるわ。

 権力アタックはやめろ。

 神通力を使わなきゃ良いってもんじゃないのよ?


「っとに。この男どもときたら」

「過保護なのかアホなのか、微妙なところよね」


 ともあれ、四人の中で私が一番弱いのはたしかなのだ。

 これはしっかりと自覚しておかないといけない。

 与しやすしって思われちゃう可能性だってあるんだし、私が七樹のアキレス腱になるってのは、すこしばかり格好悪い。


「基本的に七樹にくっついてるようにするよ」

「ウチは伊吹にべったりしとけばいいんだよね」


 にまー、と笑い合う私と雪那。


 大義名分ってやつですよ。

 狙われる可能性があるってことで、堂々といちゃつくんですよ。






 めんどくさいことに、妖怪たちを束ねる存在というのはいないらしい。

 妖怪生活協同組合(せいきょう)とか、妖怪労働組合(ユニオン)とか、そういうものも存在しないという。


 考えてみれば当然だ。

 彼らはべつに全体の利益とか考えるような人々じゃないもの。

 基本的には個人主義で、自分の都合で行動している。


「ようするに、一人ひとり交渉していかなきゃいけないってことね」

「非常にめんどくさいね」


 携帯端末を見ながら呟いた姐御に、私が笑いかけた。

 四人の端末には、交渉すべき妖怪の名前と所在地が送られている。


 もちろん安藤氏から。

 妖怪の情報を電子機器でやりとりする時代ですよ。


 デジタルアプレーション物語ですよ。元ネタは私にも判りません。

 女神が転生したってことで許してください。

 さすがに一九八七年だと、母親だって物心ついてるかどうか微妙なラインですって。


「うん。だいたい知ってるわね。美咲。でもあんたはクシナダであって、イザナミじゃないわよ」

「OK姐御。あんたもやるじゃない」

「なにいってんだ。お前らは」


 やれやれと七樹が呆れた。

 放課後である。


 私たちは連れだって、妖怪の住処に向かっている。

 放課後怪奇クラブだ。


「よくもまあ適当な単語がぽんぽんでてくるよな。美咲は」


 伊吹にまで呆れられた。

 いと理不尽なり。


「最初に会うのは仙狸(せんり)。猫の妖怪だってさ」

「狸なのに猫とはこれいかに。ド○え○んですか?」

「山猫って意味らしいけどね。この場合の狸は。もともとは中国の生まれで、愛知の方を根城にしてたけど、何十年か前に東京にやってきたみたいだね」


 端末を見ながら雪那が説明してくれる。

 安藤ペディアだ。


「なんでその人を最初にしたんだろう?」

「それなりに大きな集団を率いてるっぽいね。神と手を結ぶことについて興味は示してないけど、まずはここから当たってみる感じ」


 ふーむ。

 興味ないならほっとけばいいんじゃね? って、私なら思っちゃうんだけどなあ。

 ことは政略だから、それなりの勢力なら避けては通れないってことなのかな?

 むつかしいよね。


「で、その仙狸の住処はどこなんだ?」


 七樹が訊ねる。

 自分で確認しなさいよ。

 なんでもかんでも姐御に頼るんじゃない。

 雪那はわしのもんじゃー。


「いや。間違いなくそれだけはないよ」


 ぽこっと姐御に小突かれました。


秋葉原(アキバ)だね。メイドカフェを経営してるっぽい。妖怪を集めて」


 でもって説明してくれる。

 優しい姐御なのです。

 つーかなんでメイドカフェ?


「なぁる。そいつは上手い手だぜ」


 感心したように言うのは伊吹だ。

 なにが上手いん?


「妖怪たちのエネルギーは人間の精気だからな。大昔は売春とかして奪ってたもんだけど」


 きわどいこと言ってるし。


 でも、今のご時世そういうのの取り締まりも厳しくなって、街角に立って春を売るってのも簡単ではないらしい。

 すぐ通報されちゃうんだってさ。

 その点、店舗なら黙っていても客は寄ってくるからね。


「メイドカフェで売春したらまずいんじゃね?」


 雪那が首をかしげる。

 まあねー。

 ある意味、そっちの方が捕まるような気がする。


「精気というのは生命エネルギーの象徴だ。だからべつにそういうことをする必要は、必ずしもないんだ」


 やや頬を染めながら七樹が説明してくれた。


「むふーん。そういうことって、どういうことかなー?」


 すかさず私がからかう。


「そういうことはそういうことだ!」

「具体的に言ってくれないと判らないなぁ」


 うーりうーりと七樹のお腹あたりを押したりして。

 私はセクハラオヤジか。


「メイドを見て、うおおって興奮すれば、それはそれで精気(リビドー)は集められるからな。むしろ最終的な満足を与えないってやり方は、継続して精気を奪うのに向いてるだろうよ」

「なーるほどねー よく考えたもんだわ」


 私たちの漫才を眺めながら、伊吹と雪那が話している。

 なんつーか、あっちのカップルの方が大人だよね。

 七樹だってさ。いちいち照れるからからかいたくなるんだよ。


「俺が悪いみたいな言い方はヤメロ」


 ぬっと手を伸ばした邪竜が、私のほっぺをむにっと押した。

 こういうのは恥ずかしくないんかい。あんたは。


 まったく、わしのカレシどのは面倒臭い為人(ひととなり)じゃのう。



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