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私のオロチさま! ~スサノオとヤマタノオロチが同級生!?~  作者: 南野 雪花
第2章 人と神がラブラブなんて、アメージングだね!
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人と神がラブラブなんて、アメージングだよね! 5


 えっと、話し合いにはならなかった。

 ていうか、殴り合いにすらならなかった。


 当たり前だよね。

 スサノオとヤマタノオロチですよ。


 チンピラごときが勝てるわけもなく、一方的にのされちゃったわけだ。

 この間じつに三十秒。

 瞬殺である。


 あ、殺いうても殺してないっぽいよ。

 お腹に一発いれてやっただけだってさ。

 胃壁が破れる、ってほどの攻撃でもないから、一週間もしたら固形物が食べられるようになるんじゃないかって。


 おっそろしいですねぇ。

 負傷者を抱え、ほうほうの体で逃げていくチンピラたち。


「なんで早来っていじめられてたの? ものすごく強いじゃん」


 うろんげに雪那が問う。

 そりゃ当然の疑問だ。


「……ふっきれたから、かな」


 ばつが悪そうに伊吹が応える。

 まさか元々の伊吹の魂は根の国っていう死者の世界にいっちゃって、かわりにスサノオが身体を使ってる、なんて言えるわけもない。

 言ったって信じてもらえるはずもない。


 なので、こういう説明になってしまう。


 彼は自分の戦闘力を他人に使うことに躊躇いがあった。あまりにも強すぎるから。

 七樹と出会って、そういう配慮がバカバカしくなった。

 だって七樹はむちゃくちゃ強い上に、権力や金力を使うことに、いっさいの躊躇いがないからね。


「世の中にはこんなバカもいると思ったら、我慢する必要はないだろう、と」

「よし。良く言った。来年の今日が貴様の一周忌だ。伊吹」

「そのセリフ、そっくりそのまま返してやるぞ。七樹」


 がるるる、と睨み合う野郎二匹。

 あんたら仲が良いのか悪いのか、どっちなのよ。


「つまり、バカが感染し(うつっ)たってことね」


 雪那が肩をすくめてみせた。

 うん。だいたいそういう解釈で問題ないと思うよ。

 ホントのこと言えなくてごめんね。姐御。





 チンピラたちを追い払い、和気藹々とキャンプご飯を楽しんでいると、またまた客があった。

 千客万来である。


 しかも、まったくキャンプ場には似つかわしくないお客さんだよ。

 ほっそりとした和装の美女とか。

 どうなってんすかね。


「お初にお目にかかります」


 しゃなりとした一礼。

 雅だ。


 うん。それはキャンプ場でやるようなもんじゃないよね。

 どっちかっていうと、宮廷とか皇宮とか、そういうとこでやるやつだ。


 こーゆー場所は、ジーンズにパーカー姿で、缶ビールでも提げてくれば良いんですよ(偏見)。


「この地にすむあやかしを代表してご挨拶に……」

「よーしそこまでだ! みなまでいうな!」


 両手を前に出し、大声を出して遮る。


 あっぶねー。

 何を口走ろうとしてんだ。この美女は。


 むしろアンタが何をいってんだ? という目を雪那に向けられるけど、この際は仕方ない。

 あやかしとか、ほんとにやめてください。


「しかし姫さま。挨拶なしというわけには……」

「OKOK。あんだすたんど。お姉さん。ちょっとあっちでOHANASHIしましょ」


 すごいスピードでナンパして、私は美人さんを引っ張っていく。


 言うに事欠いて姫さまとかね。

 七人チームのうち、事情を知らない人が四人もいるんだからね。

 勘弁して。


 私まだ日常に未練あるから。

 サイキックバトル伝奇アニメとかの世界に行きたくないから。

 炎の○気楼とかいっても、もう若い人だれも知らないから。


「あ、いや、ちょっと、ご無体な……」

「人聞きの悪いことをいわないで。色っぽい声を出さないで」


 私は悪代官か。

 木陰に連れ込んで、えろい事をするってわけじゃないのよ?


 七樹と伊吹。うまくみんなを誤魔化しておいてね。


 みんなから充分に離れたところで解放し、正面から見つめ合う。

 美女だなー。

 この人はなにものなんじゃろ?


「一応ね。正体を隠してるんで。困るんですよね」


 まったく主語を言わずに説得する。

 これで理解できたら奇跡であるが、美女はこくりと頷いた。


 うん。

 良かった。


「人の世に溶け込んでいるのですね」

「私は記憶とか戻ってないからあれなんですけど」

「記憶……転生でしたか」

「あなたは違うんですか?」


 なんか認識に齟齬がある気がする。微妙に。

 ゆったりと笑った美女の髪が、黒から金へと変わる。


 だーかーらー そういうことすんなって。

 誰にも見られてないよね?


「認識阻害を使っております。余人は気にしませんよ。奇稲田姫」


 くすりと微笑。

 同性の私ですらぽわわわーんとなっちゃうような、とろけそうな笑みだよ。


玉藻(たまも)と申します。どうぞお気軽に、たまちゃんとお呼びください」

「玉藻て……九尾の狐っすかー……」


 白面金毛九尾の狐。

 けっこう有名な妖怪である。


 すげー美人で頭も良くて、平安時代の鳥羽上皇から寵愛されたけど、じつは正体は狐で上皇を病気にしたり、都に疫病や飢饉をもたらしたりしたんだそうだ。

 んで、結局は討伐されて那須高原の殺生石になっちゃったんだって。


 日本史だったか古文だったかの授業で、先生がちらっと言ってた。

 授業ってより、ちょっとした雑談だったように思う。

 なんで私が憶えていたかっていうと、少し不思議に思ったからだ。


 病気や災害が、ぜーんぶ玉藻の前のせいにされちゃってるけど、本当にそうなのかなって。

 仮に狐の仕業だったとしたら、都を大混乱に陥れるくらいの力がある妖怪ですよ?

 マジックアイテムのひとつももってないような、ただの武士に負けちゃうかって話。


 なーんかちぐはぐなんだよなー、と。

 むしろ私としては、人を愛し、それゆえにこそ、すべての冤罪を背負ってあげて、討伐されてあげたように思えたんだよね。


「姫さまのように考えてくださる方も昨今は多くて、ゲームやアニメなどでは、ちょっと良い描かれかたをしていますね」

「そういうの知ってるんだ」

「けっこうエゴサしてますよ? 気になるじゃないですか」

「いろいろ台無しすぎる」


 自分の知名度とか評判を知るためにエゴサーチする妖怪。

 そーじゃないんだよなー。

 あかやしって、そーゆーことしたらダメじゃんー。

 インターネットを見てる妖怪とか、夢を壊すじゃんー。


「素戔嗚尊と八岐大蛇が一緒に焼肉を楽しんでいるよりは、壊さないかと」

「さーせん」


 それを言われると一言(いちごん)もないわ。

 絶対に仲良くしちゃいけない二人だよね。ふつーに考えて。


「正直、驚きました。慮外者が神格に近づき打擲(ちょうちゃく)されるのは、べつに珍しくもありませんが」


 くすくすと笑うたまちゃん。

 人間が神を畏れなくなってだいぶ経つ。

 神々の領域に平然と近づくことも珍しくなくなった。


 でも、それはとてもとても危険な行為だ。

 基本的に、神は人間ごときのやることなんかに興味はないから、放置してるんだけど、さすがに危害を加えられそうになったら払いのけるくらいのことはする。


 不快感の表明なんだけど、その程度のことで人間は簡単に死んじゃう。

 たまちゃんがいうには、やりすぎちゃった人間が消されるのはけっこう良くある話らしい。

 怖ろしいですねぇ。


「ですが、手加減をされてましたよね」

「さすがに殺しちゃうのはまずいでしょ」


 一応、私たちって人間だからね。

 人間界のルールに従って生きてるんですよ。


「それが驚きなのです。素戔嗚尊に八岐大蛇ですよ? 彼の荒神に邪竜ですよ?」


 気持ちは判るけど邪竜いうな。

 私が何度もいってるけどさ。他人様にいわれると腹立つんだよ。

 あんなんでも私の彼氏なんだから。


「え?」

「なんで変な顔をしたのかは、だいたい判るからきかないけどね」


 クシナダがスサノオじゃなくてヤマタノオロチとくっついてるのが不思議だったのだろう。

 思いっきり神話と逆だしね。

 全部説明しようとしたら、ものすごく面倒だからしないけどさ。


「興味は尽きませんが、きっといろいろあるのでしょうね」


 野暮なことは訊きません、と、たまちゃんが笑う。

 いい女だなー。

 姐御クラスだなー。


「良かったら、ご飯食べていかない? たまちゃん」

「よろしいのですか?」

「声をかけてきた辻褄を合わせないといけないし」

「そうですね。うまく化かしましょう」


 狐の得意技です、だって。

 とびっきり笑顔で言われちゃった。



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