人と神がラブラブなんて、アメージングだよね! 4
保護者が同伴することになりました!
具体的には私の母親だ。
あとオマケで蓮斗。
なんですかこの苦行は。恋人や友人と行くキャンプに母弟同伴て。
というのも、私の母親って公務員だから休みが暦通りなのだ。つまりゴールデンウィークは暇だってこと。
お金もないから、どこかに行く予定もないしね。
なんて消去法的な選択だ。
ちなみに櫛田家というか全員分の費用は、すべて七樹が持ってくれる。
あと、車も出してくれる。
申し訳ない気持ちでいっぱいです。
ドライバーは、山田家の執事さんがやってくれるらしい。
すげえよ。
執事がいるんだよ。七樹んち。
「や。おじいさんだけどな。メイドさんの旦那さんだ」
とは、お坊ちゃんの言葉である。
メイドがいるってのもすげーんだけとね。
住み込みで働いてくれている人たちで、マンガとかみたいな主従関係とはちょっと違うらしい。
まず住み込みで働いてるスタッフがいる時点で、山田家の経済規模を推して知るべし、というところだ。
私、将来的にここに嫁にいくんだよなぁ。
大丈夫なんだべか。
「反対されたら、一族郎党を皆殺しにしてやるさ」
「怖すぎるわ!」
やばいよこの邪竜。
自分の家族皆殺しとか。
そんな邪竜とか邪神に好かれるって、私かわいそうすぎない?
ゆーて最近、伊吹は雪那の方が気になってるみたいだけどね。
きしししし。
あの気っぷの良さと男前さだもんね。
私が男だって惚れてしまいますよ。姐御。
ともあれ、行き先は栃木県は那須高原だ。
温泉とかもあるらしい。
すばらしい環境である。
ここをキャンプ地とする!
ご飯はバーベキューね。あと、私がいろいろ仕込んできた。
いつものスーパーで安くわけてもらった牛スネ肉のほろほろ煮とか、大量に焼いたチャパティとか。
手軽に美味しく。
あと生野菜ね。こういうときって、どーしても肉類が多くなって口が飽きちゃうから、あっさりしたものが欲しくなるのだー。
「美咲ごはんは絶品だからねー たのしみだわー」
「や。けっこういっつも食ってるじゃん」
褒め称えてくれる雪那に、私は笑顔を見せる。
これしかとりえがないからね。
そりゃほめられたら嬉しいさ。
「学校で食べるのとアウトドアじゃ風情が違うべさ」
風情て。
まあ、いろいろ凝ったものは持ってきてますよ。
こくこくと頷く伊吹。
こいつもすっかり飼い慣らされちゃったね。
予想通りというかなんというか、彼の生家はあんまり裕福じゃなかった。母子家庭の私の家よりはマシってレベル。
いっつも昼がパンなのは、もらった昼食代をやりくりしてお小遣いにしているから。
なにか欲しいものがあっても、買ってくれとは言いにくいらしい。
前の伊吹が、けっこうせびられたりして、家のお金にも手を付けちゃったんだってさ。
許せないよね。
そのイジメグループ。
ゆ゛る゛さ゛ん゛!! って感じだよ。
なんとか復讐する方法がないかって七樹に訊いてみたんだけど、殺して良いならって回答だった。
それはさすがになぁ。
殺人はまずい。
やるなら人知れずこっそりだ。
あと、安藤氏に後処理を頼まないといけない。
「具体的な殺人計画を立てる美咲の方が怖いと思うんだが」
「邪推だよ。気のせいだよ」
「ぜってー違う」
とはいえ、彼は裏からちゃんと手を打ってくれた。
頼りになる男なのである。
「そんなことより七樹。ローマイヤのベーコン買って」
頼りになるついでに、ごろにゃんしてみる。
那須塩原の名工房だ。
もっのすごく美味しいんだけど、東京だと銀座のデパートとかにしか売ってない。
もちろん私の手が届くわけがないのである。
でも、那須の道の駅なら手に入るのだ。
買ってもらわない手はないのじゃー。
「そんなに美味いのか?」
「分厚いベーコンステーキ。切り分けないで香味野菜と一緒にチャパティに巻いて、そのままがぶり」
じわりと滲み出す脂。
ベーコンは、なんといっても脂の美味しさが命だ。
ソースは何が良いかな。
ごてごて味を付けず、シンプルに塩と胡椒だけでも良いかもしれない。
あるいは、チーズも一緒に巻き込んでも美味しいかも。
私の解説に、七樹の喉がごくりと鳴る。
「美咲! 何キロ必要だ!」
いやあ、さすがにキロまではいらないとおもうよ?
男衆がてきぱきとテントを建てている。
頼もしいねえ。
蓮斗も七樹に良く懐いていて、けっこうなことだ。
なにしろ彼はスポンサー様だから。
櫛田家の食費の、一割くらいは間違いなく七樹の財布から出ている。
甲斐性がありすぎる彼氏なのです。
那須高原のキャンプ場は、ゴールデンウィークということもあって、けっこう混み合っている。
建てるテントは二つ。
男性陣と女性陣に分かれることになる。まあ当然だよね。
前者は、七樹、執事さん、蓮斗、伊吹の四人。
後者は、私、雪那、母親の三人だ。
男たちは寝床の確保、女たちは食事の支度である。
でっけー炭火バーベキューコンロを、七樹が用意してくれた。
さすがお金持ち。
「まず火をおこすんだっけ?」
「そうそう。そのへんに着火材があるから」
「食材はみんなクーラーボックス?」
「いえす。近くに持ってきて」
雪那と母親が、私の指示に従ってきびきび動いてくれている。
下ごしらえは全部終わってるから、すぐにはじめられるよ。
コンロのはじっこにチャパティを重ねて置いて、あと生野菜は冷水にさらして、好きなように取ってもらえばいいね。
水切りは、各自かってにぶんぶんって振り回して。
キャンプごはんだからね。
ワイルドに立って食べるのがお行儀だよ。
きゃいきゃいと騒ぎながら準備をしていると、なんか人影が近づいてきた。
ひとつふたつじゃない。
ざっと十人くらい。
私や雪那と同じくらいの年頃かな?
見た感じチンピラっぽいから、正確な年齢は判らないけど。
にやにや笑いながら。
くわえ煙草だったり、くっちゃくっちゃガムを噛んでたり、マナーなんて言葉は知らないよ、と、全身で語ってる。
「何? なんか用?」
とくにびびった様子もみせず、雪那が訊ねた。
下目づかいが大迫力です。
さすがっす。姐御。
「どっちがイーブキくんの女? 俺らあいつに貸しがあるんだよねえ」
ボス格だろうか、下卑た笑いを浮かべながら一歩近づく。
思わず私は下がっちゃったけど、雪那は微動だにしない。
「貸し? お金でも貸してんの?」
問いかける声は氷点下だ。
まんま雪の女王って感じ。
男どもは、ひゅーひゅーと囃したてている。
うーん。
なんなんだべな。
あれかな? 前の学校で伊吹をいじめてたやつらってとこかなあ。
「金じゃ済まねえんだよ。あいつのせいで俺ら学校クビになったんだからよう」
「ふうん?」
鼻で笑う雪那。
なるほど。
逆恨みですか。
私と雪那の懇請を受けて、七樹が手を回してくれた結果だ。
詳しくは知らないけど、弁護士とかを動かしたらしい。
訴訟にする、と。
これが正攻法で、同時進行で裏からも手を回したんだって。
大金持ちの息子だからね。
けっこう権力者とも繋がりがあって、そういう部分からの圧力が学校と父兄にかかったっぽい。
で、主犯格の数人が退学処分になり、従犯たちは自主退学に追い込まれた。
さらに、会社にいられなくなった親たちも多いらしい。
怖ろしいですねぇ。
「復讐の鬼ってわけね。手始めにウチや美咲をひどい目に遭わせてやるってかんじ?」
くすくすと雪那が笑う。
煽りますねー。
応えず、男どもが包囲を狭めてくる。
やけになってるなぁ。
遠巻きに見てる他のキャンプ客もいるってのに。
高校を追い出され、人生に絶望しちゃったのかな? でもそれは、元の伊吹も同じだよ。
むしろ彼は自ら死を選んじゃった。
そんだけ人を追いつめておいて、自分が追いつめられたら怒るってかい。
ずいぶんとご立派なことで。
ここまで立派だと、交渉の余地はないよね。
正直、遇する方法を知らないわ。
「というのが私の意見だよ。七樹。伊吹」
振り向きもせずに呼びかける。
知っているから。
二人が、すぐ後ろまできていることを。
七樹が私の前に、伊吹が雪那の前に出る。
「去れ。今なら許してやらんこともない」
「そっちからきてくれるとはな。こんなに嬉しいことはないぜ」
いやいや。
あんたら言ってることバラバラだから。
意志は統一しておこうよ。登場する前に。
「殺すなよ。伊吹」
ため息混じりの、七樹の言葉。
「努力はするさ」
嗜虐の笑みを、伊吹が浮かべた。




