表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私のオロチさま! ~スサノオとヤマタノオロチが同級生!?~  作者: 南野 雪花
第2章 人と神がラブラブなんて、アメージングだね!
11/33

人と神がラブラブなんて、アメージングだよね! 1


 早来伊吹がおとなしくなった。

 こわい。


 ちょっかいをかけてこなくなった。

 むしろクラスで孤立しちゃってる。


 転校してきてから一週間。つまり私と七樹がつきあい始めてから一週間だ。

 つっかかってこないと、こっちとしてもリアクションがとれない。


 一応、七樹はスサノオ討伐を依頼されてはいるけど、こちらから仕掛けるのは避けたいところなのだ。

 というのも、勝算が低いんだって。


 草薙剣を装備した七樹ではあるが、天羽々斬剣あめのはばきりのつるぎを装備した早来伊吹には、やっぱり分が悪いんだそうだ。

 今のところはスサノオも目立った動きをしていないし、機会をうかがった方が良いだろうって安藤氏もいってた。


 なにしろ再度の挑戦はないからね。

 七樹で勝てないとしたら、正直なところ他に勝てそうな人間もいないらしい。


 もし負けちゃったら、いよいよ北海道の謎の街に頼らないといけないって心配していた。

 あの心配っぷりは、そーとー嫌がってるね。

 ぜってー関わり合いになりたくないって感じ。


 安藤氏がそこまで嫌がるなら、私だって関わりたくないし、そもそも七樹が負けて死んじゃうとかありえない。

 仕掛けるなら必勝のタイミングで、だよね。


 そんなわけで、私と七樹は虎視眈々とチャンスを狙ってる。

 でも、早来伊吹は動かない。

 何を考えているのか。


 手を出せないまま時間だけが過ぎてゆく。

 そして、これって良くない傾向だと思うんだよね。


「早来のやつ。完全に孤立しちゃってるな。なんとかしないと」


 ある朝、心配そうに雪那が呟いた。


 ほらね。

 ほらね。

 こうなると思ったよ。

 この頼もしい姐御は、困ってる人を絶対に見捨てたりしないんだ。


「ほっとけばええんちゃうかなー」

「むー○ん。それはいけないよ」

「誰がむーみ○か。このえせス○フキンめ」


 私の反対意見など、きいちゃくれない。


 早来伊吹は私にもクラスにも大迷惑をかけたわけで、孤立するのはむしろ当然だ。

 いじめとかに走らないだけ、うちのクラスはおとなしいと思うよ。

 まあそんなことになったら、姐御がすぐに止めるだろうけどさ。


 つーか、よく学校これるよな。あいつも。

 クラスメイトと涼夏先生を操ったんだぞ。神通力で。

 外道の極みじゃねーか。


「なんて雪那は平然と許しちゃえるのよ。私たちが警察に連絡したから良いようなものの、タイミングが遅かったら何されていたかわかんないんだよ?」


 女子たちに献上させた弁当を食べ、身体を触った程度だけど、わりとファウルライン越えちゃってるっしょ。

 エスカレートしてたら、もっとすげーことまでされたかもしれない。


 つーか、涼夏先生はやられちゃってるって噂だ。


 ありえへーん!

 死刑じゃ死刑じゃ!!

 打ち首じゃ!


「そうなんだけどさ。ああいう風にぽつんと座ってられると、なんか哀れでさ」

「ゴブリンに同情して見逃してやったら、後ろから攻撃されるよ?」


「それはなんの話なのよ」

「人前に出てこないゴブリンだけが良いゴブリンじゃ」


 まあ、あいつは小鬼じゃなくて神様だけどね。


「意味がわからぬ」

「雪那ってさ。捨て猫とか放っておけないタイプだよね」


「見かけたら捕まえて馴化(じゅんか)して、飼い主を探すくらいはやるけどね」

「いろいろおかしすぎる」


 馴化ってのは人に慣れさせること。

 野良猫の保護で最も一般的な方法のひとつなんだけど、そう簡単な話じゃない。

 そもそも、猫なんて容易くは捕まえられないから。

 あんたは手からスパイダーストリングでも出せるのか?


「一人暮らしのお年寄りとかね。ウチが調教した猫を喜んでくれるよ」

「調教いうな」

「お小遣いもくれるよ」

「営利目的かよ」


 ともあれ、雪那的に早来伊吹を放置するのはダメらしい。

 困ったリーダーである。

 私は肩をすくめてみせた。


「具体的にはどーすんのよ?」

「エサで釣ればいいんじゃね?」


 動物かよ。

 あ、でも七樹を餌付け中だったわ。私。

 美咲さんは餌付けがしたいんですよ。


「弁当を巻き上げてたからね。腹へってんじゃないかなーと」

「そんな理由で奪ってたのかなぁ?」


 違うと思うぞー?

 あれは権力を誇示したかったとか、そういう行為だと思うんだよね。

 腹ぺこ神様ってのは、なんぼなんでも絵にならなすぎだろう。


「ま、話してみるよ」


 よいしょ、とババくさいかけ声とともに雪那が席を立った。






「早来ってさ。謝罪とかできない人?」


 ぼっち神様の前に立った雪那が斬り込んだ。

 もっのすげー大上段から。


「なにを言ってる……?」


 いぶかしげな顔をする早来伊吹。

 うん。普通はそういうリアクションだよね。


「この状況さ。早来が作ったんだって自覚してるのかって話だよ」


 うわあ。

 この姐さん。神様の机にどんって座っちゃった。

 怖ぇぇ。


「あんたさ。へんな力でクラスのみんなを操ったでしょ?」


 えー?

 それ訊いちゃうんすか?

 やばくないっすかね。


「…………」

「催眠術とかそういうやつ? 薬とかじゃないって話だけどさ。でもまあ、企画もののAV(アダルトビデオ)かエロ同人かってことをやったわけだ」


 おい。姐御。

 なんであんたはそんなもんの知識があるんだ。

 七樹といい雪那といい、知見の方向性がおかしすぎる。


「そんだけのことをしておいて、謝罪会見も開かないんだから、そりゃ空気だってギスギスするさ。OK?」

「…………」


「OK?」

「……ああ。理解した」


 渋々といった風情だけど、早来伊吹が頷いた。

 姐御すげえよ。

 押し込んじゃったよ。

 クラスメイトたちは、ごくりと唾を飲み込みながら見守っている。


「すごいな。三石は。事態をあっという間に矮小化してみせた」


 いつの間にか近寄っていた七樹が感心したように呟いた。


「だね」


 みんな、あいつの神通力が謎だったから近づけなかったんだ。

 怖いからね。

 また操られたらどうしようって思うのは、わりと当たり前の心理である。


 それを雪那はひっくり返した。

 そこが問題なんじゃないんだよって。

 やっちまったもんは仕方ないんだから、ちゃんと謝罪して二度とやらないって誓えって。


「なら、やるべきことはやらないとね」


 早来伊吹を立たせ、教壇へと誘う。

 なんだろう。

 死刑囚を引き立てる処刑人みたいだ。


 悟りきった顔で、クラスメイトたちを見わたし、ゆっくりと頭を下げる。


「すまなかった」

「そんな謝罪があるかーっ!!」


 次の瞬間、雪那の両手が早来伊吹の頬を掴み、びろーんと横に伸ばした。

 神様のほっぺを伸ばすJK。

 強すぎる。


「いひゃいいひゃいっ!?」

「頭下げれば良いってもんじゃない! 誠心誠意あやまんないとダメでしょっ!」


 うわあ。

 スサノオ涙目だよ。

 ばっちんと手を離し、両手を腰に当てる雪那。


「つっても原稿も用意してないだろうし、ウチの言うことを復唱して」

「わ、わかった……」


 頬をさすりながら神様が頷く。


「このたびは大変な迷惑をかけてしまい、申し訳ありませんでした」

「このたびは大変な迷惑をかけてしまい、申し訳ありませんでした」


「今後はクラスの一員として、また、雪那さまの下僕として誠心誠意つとめますので、よろしくお引き回し下さい」

「今後はクラスの一員として、また、雪那……いやいや。ちょっとまて。おかしいだろ!?」


「ち」

「舌打ちしたなっ!」


 なんだこの寸劇ってシーンである。

 たまらず教室が爆笑に包まれた。


 なんだよ。なかなか面白い奴じゃないか。くらいの感じだ。


「空気を支配したな。ほんとに何者なんだよ。三石は」

「おそろしいわー 姐御おそろしいわー」


 もう操られた事件のことなど気にしている人はいない。

 ちゃんと謝ったし、雪那の下僕(笑)になるっていうなら許してやるか、みたいなノリである。


 そうなるように、雪那は計算した。

 違うかな。

 あれ、きっと素だよ。


「思った通りに行動してるんだろうね。姐御は」

「ああいうのを将器っていうんだろうな」


 自然とリーダーシップがとれて、黙っていても周囲がついてきてくれる人のことだ。

 将来、政治家とかになりそう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ