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私のオロチさま! ~スサノオとヤマタノオロチが同級生!?~  作者: 南野 雪花
第1章 神代の恋とか、ロマンチックだよね!
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神代の恋って、ロマンチックだよね! 1


 午後の授業というのは眠い。

 たぶんこれは、私だけが持っている感想ではないだろう。


 良い感じにおなかもふくれており、春の柔らかな日差しが教室に差し込んでいるとなれば、そりゃもう眠くならないわけはない。


 仮に、ものすごーく興味がある授業だって例外ではないだろう。

 いわんやクソ退屈な古典をや。


 失礼。いま古文の授業中だから、つい。


 私は櫛田美咲(くしだ みさき)。都内の私立高校に通う高校二年生だ。

 中肉中背で成績も普通。容姿は、まあそう悪くはないんじゃないかなーとは思っている。


 クラスで目立つ方ではないけど、陰キャラってわけでもない。

 友達はいるけど親友って呼べる人はいないし、彼氏とやらがいた経験もない。

 部活とかにも入ってないから、青春を賭けてなにかに打ち込むっていうのもやってない。


 バイトもしてないしね。

 家と学校の往復で、そこそこに高校生活を楽しみ、休日には友達と出かけたりもする。

 どこにでもいる特徴もない高校生、まさにモブって感じ。


 自分でいっていて悲しくなってきた。

 モブすぎるでしょう。

 マンガやライトノベルだったら、名前すらつかないようなキャラだよ。

 女子Aとか、クラスメイトBとか、そんな感じだよ。


 ただちょっとだけ言い訳をさせてもらえば、私のクラスの場合、ほとんどがモブになっちゃうんですよ。

 なにしろ、もんのすごい存在感の陰キャラがいるから。


 いや。私も言ってることがおかしいってことくらい判ってるよ?

 普通は陰キャラに存在感なんかない。


 ところが彼は、悪い方向に存在感がありまくっている。

 山田七樹(やまだ ななき)って名前で、容姿は普通っていうかけっこうイケメンなんだけど、もっのすごい暗いの。


 私、彼とはどういう因縁か小学校からずっと同じクラスなんだけどさ。誰かと喋ってたり笑ったりしているのを見たことがないんだよ。


 すごくない?

 笑わないし喋らないって。

 あと、食べない。

 中学までは給食だったから普通にお昼食べてたけどね。


 高校に入ってからは、お昼ご飯を食べてないんだよ。

 昼休みは、ただ自分の席でぼーっとしてるだけ。

 目立たないわけがないっしょ?


 そりゃ噂にもなったさ。家がすげー貧乏なんじゃないかとか、虐待されてんじゃないかとか。

 たいていろくでもないものばっかり。

 本当のところは誰も知らないけどね。


 で、いじめを受けそうな要素は充分なんだけど、そういう話は聞いたことがない。

 たぶんここまで突き抜けちゃった陰キャラだと、腫れ物に触るような感じになるんだろう。

 先生も生徒も。


 接点を持ちたくないっていうか、そんな雰囲気。

 だから、嫌がらせでクラス委員を押しつけられたりとかもないし、LINEグループに入れないとかもないっぽい。


 や、男子連中のグループには普通に入ってないらしいけど。

 誘ったけど無視されたって、誰かが言ってるのを聞いたような気がする。


 もうね。

 なんというか、近づくなオーラが滲み出してるんですわ。

 アレですよ。私のお母さんが好きだったっていう昔のアニメに出てきた他者を拒む心の壁(ATフィールド)みたいなやつ。


 こんなブラックホールを背負ったよーなのがずっといるもんだから、いままで私のいたクラスっていじめとかなかった。

 たいていの人は、山田くんに比べたら平凡だもん。

 モブだもん。


 普通すぎて悲しくなるレベル。

 もちろん私だってその一人だ。

 結局、主人公なんてのはプラスであれマイナスであれ、突き抜けてないとなれないんだろうね。


 べつに、なりたくはないけどさ。





 帰りのホームルームのとき、担任の先生から連絡があった。

 明日から転校生がくるらしい。


 えらく半端な時期ではある。

 新年度が始まって二週間くらい。普通は年度はじめからくるのではなかろーか。


 まあ、家庭の事情とかいろいろあるのだろう。

 私が詮索するようなことじゃない。


 帰り支度をして席を立つ。

 寄り道して買い食いとかするほどの友達もいないのである。


 クラスカーストでいうなら私はBクラス。

 集まり事があれば誘ってもらえるけど、という程度の存在だ。


 けっこうラクです。

 侮られるほど弱からず、警戒されるほど強からず。

 平々凡々。

 このくらいが良いんだよね。


 下手に目立っちゃうと、ろくなことないし。

 だからあのときだって……。


 と、あれ? いま山田くんがこっちを見ていたよーな?

 気のせい?


 むむう。

 熱視線のせいで、何を考えていたか忘れてしまったぞい。


 いやまあ、間違いなくたいしたことじゃないんだけどさ!





 家に帰ると、弟の蓮斗(れんと)が居間のテレビでゲームをしていた。


 私の記憶がたしかならば、きみは受験生だと思ったぞ。弟よ。

 学校から帰ったら即ゲームというのは、どういうものなのかね。


 あとそれは私の乙女ゲームだ。

 中学生男子がプレイして楽しいものでは、おそらくないと思うぞよ?


「ねーちゃんおけーり。おやつあるぜー」


 ぽいぽいっとコンビニ菓子を投げ渡してくる。

 ふたつ。

 変なところで紳士だよなぁ。


 蓮斗は、必ず私に先に選ばせるのだ。

 自分は残った方で良い、と。


 その気遣いを忘れるなよ。彼女とかできたらポイント高いぞ。

 知らんけど。


「マカロンじゃん。私これにしようっと」


 選ばなかった甘くない方のお菓子を、弟に手渡してやる。

 私は投げ渡すような下品な真似はしません。


「さすがねーちゃん。俺の好みよくわかってるぜ」

「好みっていうか、あんた甘いもの食べないじゃん」


 私がマカロンを選ばなかったら、きっと泣きそうな顔をしたことだろう。

 それでも選ばせようとするんだから、バカというか律儀というか。


「で? なんで私のゲームやってんのよ? 男がやっても面白いもんじゃないっしょ」

「いやさー 今日がっこで日本神話ならったんよ」


 はて?

 中学で古事記とか習うっけ?

 首をかしげる私に、弟が続ける。


「習ったっていうか、横道に逸れた感じなんだけどな」


 ああー そういうのはあるよね。

 生徒を退屈させないために、ちょっと面白いエピソードとかを紹介するの。


「でも、なんで乙女ゲー?」

「たしかこれにも竜退治のエピソードがあったような気がしたからさ」

「ふむ?」


 小首をかしげる私に蓮斗が説明してくれた。

 英雄のドラゴン退治ってのは、どこの神話でも定番なネタで、強大な力をもった竜を倒すことで英雄の力をより誇示することができる、と。

 で、これはわりと洋の東西を問わなくて、日本神話にもそういうのが存在する。


 そんな話を学校で聞いたせいで、竜を退治するゲームをやりたくなったそうだ。

 相変わらず単純なことであるな。我が弟よ。


「かなりラストのほうのエピソードだよ?」

「うん。だからねーちゃんのセーブデータでやってる」

「それ楽しい?」


 エンディング間近だけプレイしたって面白くもおかしくもないだろうに。

 アニメを、最終話とその前くらいだけ視聴する感じ。

 たぶんすごくつまらないんじゃないかな? そこに至るまでの流れが判らないんだから。


「じつはつまらん」

「だよね」


 苦笑いを浮かべながら、蓮斗がスイッチを切った。

 上書きで保存とかされても困るので、これはこれで仕方がないのだが、すっごい悲壮な感じで語っていたキャラクターたちが、ちょっと可哀想である。

 せめて最後まで台詞を聞いてから切ればいいのに。


「ゆーて。日本神話にでてくる竜退治は、ちょっとおかしいんだってさ」


 くるりと私に向き直る。

 私と同じ少しだけ茶味がかった黒い瞳が、興味津々って感じで光っていた。

 なにを吹き込まれてきたんだ?


「おかしいって?」

「浮いてるんだってさ」


 日本神話には怪物討伐系のエピソードは少ないらしい。

 姫を守って戦う勇者、的なものは皆無といっていいくらいに。


八岐大蛇(ヤマタノオロチ)を退治した素戔嗚尊(スサノオノミコト)って、それまではぜんぜん英雄神っぽくなくて、その後だってただのヤなやつなのに、なぜかオロチ退治のときだけ妙にヒーローなんだ。ちょっとおかしいだろ?」


 解説は、たぶん先生の受け売りなんだろう。


 なぜか私の鼓動が速くなっていく。


 そりゃそうだ。

 おかしくて当たり前。


「……作りものの伝説なんだから……」


 紡がれる言葉は、私が発したもの?

 わからない。


 意識が遠のいていく。


 

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