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  作者: 風穴
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しとしとと雨が降る。

放課後、私はいつも通り図書室へ行き窓際の席で本を読む。

いつもなら野球部のやる気に満ちた声を聴きながら読むのだが、今日は生憎の雨。未だ降り続く雨音がBGMだ。

静かな図書室に私の本を捲る音と雨音だけが響く。

ただ、何か物寂しい気もする。部活の活気のある声を聴きながら読むことが日常だったからかな?なんて思いつつ、本を読み進める。


キィッ

図書室のドアが開けられる。

私は一瞬ドアの方へ目をやり、また本へ目を向ける。


「お前は、同じクラスの……」


入ってきた誰かが私に声をかける。

彼は同じクラスの元野球部。元々強豪クラブチームでやっていたらしくてここでも同学年では抜きん出た存在だったはずだけど、確か去年肩を壊して野球を辞めたって聞いた。


「お前、ここで何してんの?」


彼は髪の長くなった頭を掻きながらぶっきらぼうに聞く。


「本、読んでるの。ここで読むのが好きなの」


私は本から目を話さずお返しとばかりにぶっきらぼうに返す。


「そっか……」


彼は寂しそうな声色でそう呟くと、私から離れていった。



翌日も昨日の雨がまだ残っているかのように雨が降り続いた。

私はいつも通り図書室へ向かう。

今日もBGMは雨音。野球部の活気のある声が少し恋しい。


キィッ

ドアが開き、今日も元野球部の彼がやって来る。


「お前、昨日も居たな。暇なのか?」


彼は失礼な事を言う。


「そうね。野球部を辞めたあなたと同じくらい暇かも」


私は負けじと彼を皮肉ってやった。

「失礼なやつだな」


「お互い様よ」


お互いにそう言うと、私達は雨音を聴きながら本を読む。

しばらくすると雨が上がったのか野球部の声らしきものが聞こえ始める。これこれと、思い私はいつも通り本を読む。すると


「お前、何で笑ってんの?」


と、彼が聞いてきた。

私が今読んでいる本は悲しい恋の話のはず。


「笑ってないわ」


私はそう返す。


「いや、笑ってたよ。雨が上がったからか?」


彼が問いただしてくる。

雨が上がって少し、ほんの少しだけ恋しかった野球部の活気のある声を聞いて知らないうちに口角が上がっていたのかもしれない。


「あなた、暇なのね。私の顔しか見てないんじゃないの?」


またしても彼を皮肉る。どうして私はこう相手を煽るような口調になるのか……


「ンなことねぇよ!たまたま顔を上げたらお前が笑ってたから聞いたんじゃねぇか!」


彼は顔を少し赤くし、慌てた様子で反論す

る。


「それにしても、最近よく来るわね。やっぱり野球部辞めてから暇なの?」


私は疑問に思ったことを聞いてみる。


「まぁな。野球辞めてから暇だよ。ずーっと野球しかして来なかったからな……何していいかわかんねぇんだ」


少し寂しそうにマメの痕の薄ら残る手を見つめる彼。


「そう。……だったらここで勉強したらいいじゃない。どうせ野球しかしてこなかったんだから勉強は疎かになってたんでしょうしね」


彼は顔を上げると


「ありがとう」


そう言って案外整った顔で笑ってみせた。

私は西日で顔が熱くなるのを感じた。

グラウンドにはいつも通り野球部の大きな声。

雨上がりの空には綺麗な虹が掛かっていた。

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