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若エクソシストは小学生!?

 優が搬送されたギルドはナハトの町の中心地に建設されており、一歩屋外に踏み出すと往来の人々で賑わいをみせていた。千年以上前の原風景のただ中にいただけに、他人の存在を確認できるだけで優は安堵する。

 ゾンギエフの話だとこの世界ではアンデットという一度死んだ人間が蘇った存在がいるらしい。ゾンビとかスケルトンが普通に買い物している光景はあまりにもシュールだが、他の人間は特段騒ぎ立ててはいない。スケルトンが片腕を落としててんやわんややっているのは、ホラーを通り越してドリフのコントを想起させた。


 人間とゾンビとスケルトン(たまに吸血鬼やら鬼とか)が共存できているということは、やはり優がいるのは死後の世界ではないだろうか。ゾンギエフやルーニアは否定していたが、そうでなくては現在置かれている異常事態を説明できない。死んだ人間が暮らす国があるかどうかも疑わしいが、死後の国を題材にしたディズニー映画があるぐらいだ。転生までの時間を潰すための仮空間ということだろうと優は自分に言い聞かせる。


 ゾンギエフからもらった地図を頼りに町を探り歩く。ギルドがある広場から四方向に大通りが伸びており、件の家は左斜め上の道の先にあるようだ。ちなみにその道はオシリエス通りと名付けられている。右斜め上はイシュース通り、左斜め下はセルケイト通り、右斜め下はアヌビアルス通りというらしいが、今は必死こいて暗記する必要はないだろう。

 レンガ造りの建物が多く、生前の世界に照らし合わせるなら中世ヨーロッパがしっくりくる。もっというなら、ド〇クエとかファイ〇ルファンタジーの町と言った方が手っ取り早い。生前、デ〇ピサロやらゾ〇マやらを(ゲームの中で)討伐していた優としては自然と浮足立ってくるのであった。


 時間が許せば物見遊山をしたいところだが、そんな余裕はない。どうにかけむに巻いたが、またクロナに襲われては目も当てられまい。早々に太刀打ちできる味方を揃えた方が得策だ。

 件の家はオシリエス通りの外れにあった。ぽつんと佇む一階建ての小屋。明らかに大家族が住んでいる雰囲気はない。直感からとんでもない偏屈者が住んでいそうで優は生唾を呑み込む。ここで躊躇していても仕方ない。勇気を出し、扉をノックする。


 臆病風に吹かれてピンポンダッシュに及びそうであった。だが、その決断に至る前に扉がひとりでに開いた。中には誰もいない。まさかの透明人間か。ゾンビやスケルトンで耐性ができていたとはいえ、流石に予想外だった。

 否、透明人間ではない。きちんと人間がいた。ただし成人ではなさそうだった。優が目線を落とすと小学生の少女と鉢合わせしたのである。


 白銀の髪を伸ばし、額にバンダナを巻いている。眠そうな細目をしばたかせ、あどけない顔立ちで優を凝視していた。白い布で作られた着物のようなものを身に着けており、優の生前の世界に照らし合わせるならアイヌの民族衣装が近かった。

「また客か。今日は客が多い。儲かるに越したことはないからいいが」

「アシュリーさんという方を訊ねて来たのですが、この家で間違いないですよね」

「うむ。私だ」

「あなたがアシュリーさんですか!?」

 優は本気で驚いた。てっきり、アシュリーの娘だと思っていたのだ。まさか、当人が幼女だったとは誰が予想できよう。


「むう。お前、私がアシュリーの子供だと思っているだろ」

「な、なぜそれを」

 思考が読める能力でも有しているのだろうか。優が大袈裟に飛びのいていると、アシュリーはこれまた大袈裟にため息をつく。

「私と初対面した奴の第一反応がそれだから、かまをかけてみた。こうも素直に驚いてくれるなんてしてやったり」

 笑いをこらえながらアシュリーはサムズアップする。憎らしいが、幼女補正で愛らしく映る。


「うむ。立ち話していても仕方ない。とりあえず依頼は聞いてやる、入れ」

 アシュリーに招かれ、優は小屋の中にお邪魔する。室内は薄暗く、壁一面に数珠やら水晶玉やら怪しげオカルトグッズが立てかけられていた。アシュリーに進められて木製の椅子に腰かけるが、どうにも落ち着かない。


 せわしなく室内を観察していると目の前に小さなコップが置かれた。真っ白な液体に少し茶色が混じっている。

「ミルクティーだ。疲れているだろうから飲むといい」

 随分気が利くなと優はありがたくいただく。ティーというわりにほとんどミルクの味しかしない。日本のミルクティーとは勝手が違うのだろうか。

「うまいか。ミルクとお茶を九対一で混ぜたミルクティーだ」

「ほとんどミルクじゃねえか!」

「むう。私の好みに合わせたがまずかったか」

 美味しいかどうかで尋ねられているのならノーになるので優は首を振る。ミルクだと割り切れば、口に入れた瞬間に濃厚な味わいが広がり、これはこれで何杯でもいけそうだ。


「うむ。さっそく依頼を聞かせてもらおう。言っておくが、アンデットゴキブリを退治してほしいとかいうのなら受けるつもりはない。エクソシストは暇じゃないから、そういうのは自前で解決してほしい」

 パトカーをタクシー代わりにするような輩がここにもいるんだなと優は辟易する。ここに来るに至った経緯を説明しなくてはならないのだが、下手なことを言うと話をややこしくしそうだ。なので、単刀直入に要点だけ伝えることにした。

「実は、死神に追われているんです」

「むう、シニガミ? デスのことか。その呼び名はあまり一般的ではないのだが、まあいいだろう。上級のアンデットに付きまとわれるなんていたずらでもしたか?」

「それが、全然身に覚えがないんです。俺の寿命が来たから殺すの一点張りでしたし」

「人間の寿命を知る魔法など確立されていないはず。学会に発表すれば一攫千金が狙えるレベル」

 淡々としゃべるアシュリーだが、金目の話だけ口調が浮足立っていた。死神が人間の命を終わらせる存在だとは認知されていないのだろうか。あるいは、死神とは似て非なる生き物だと思い込んでいるのかもしれない。


「とりあえず、依頼を受けるにあたっては報酬がいる。お前、名を何という」

「優ですが」

「では、ユー。まずは値段の交渉といこうか」

「あの、アシュリーさん。つかぬことを言いますが」

 優はとんでもないことに気づいて口ごもる。他人に仕事を依頼するのなら発生して然るべき話題なのに失念していたのだ。とりあえず、ダメもとで切り出してみる。

「俺、お金持っていないんです」

「一文無しって、博打で負けたのか」

「いや、そこまで落ちぶれてません」

 そもそも、優は博打をやったことはない。クロナから逃げるのに必死でお金を持ってきていなかったし、この世界に飛ばされた時も当然一文無しだった。


「いくらデスに追われているとはいえ、依頼料を払えないのでは動くことはできない。他を当たってもらいたい」

「そんな。どうにかできないですか」

「無理なものは無理」

 不可抗力だったとはいえ、お金を用意できていないのは優の落ち度だ。とはいえ、アシュリー以外にエクソシストの宛がないのも事実。どうにかしてアシュリーの協力を得なくてはならない。

アシュリーさんの実年齢が明らかになるのはもっと先の話です。

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