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君のステータスは。

 閑話休題。エクソシストになる第一歩として冒険者ギルドでSランクに到達すると決めた優は、メンバー登録にやってきたというわけである。

 神殿の時のように順番待ちを経て、ようやくギルドの職員と対面する。

「あら、優さんじゃないですか。死神の問題は解決したんですか」

「えっと、隣にいるんですが」

 対応したのはゆるふわ眼鏡のお姉さんルーニアだった。優がクロナに追われている時にアシュリーを紹介した張本人である。


 殺人容疑がかかっているアンデットがすぐそばにいるのでビビっていたルーニアだったが、

「問題ない。こいつは無害だ。害があるとすれば勝手に発情するぐらい」

「公然と人を淫乱扱いしないでよ、このちみっこ!」

「ちみっこ言うな! 淫乱死神!」

 アシュリーと仲良く喧嘩しているのを前に安堵したようだった。ちなみに、ルーニアの寿命もまだ先なので、クロナとしても殺すつもりは毛頭ない。


「アシュリーさんも連れ立って、今日はどんな御用ですか」

「うむ。優がギルドに入りたいというのでな。登録をお願いしたい」

「かしこまりました。では、こちらの用紙に必要事項を書いておいてください。その間に登録の準備を進めます」

 渡された用紙には氏名や住所を書く欄が設けられていた。メンバーの登録書類にしては案外シンプルである。アシュリーによると「この後行われる能力審査の方が重要」とのことだ。


 なので、特に考えることもなく必要事項を埋めていく。住所はアシュリーの自宅を登録しておいた。だが、ここで違和感が生じた。

「俺、いつの間にかこの世界の文字を書けるようになっている」

 意図して英語を書くが如く、ファントミック国の公用語で名前を書いていた。アシュリーに添削してもらうと、「きちんと伏見優と書いてある」と文法上の間違いもないようだ。識字能力だけでなく作文能力まで備わっているとは。ネフティーヌの脳内改造恐るべしである。


 書類を提出すると、入れ替わりにルーニアは水晶玉を机の上に置いた。占い師が使うような変哲の無い球体だった。しかし、ここは異世界。予想だにしないトラップが仕掛けられているかもしれない。

 優が軽快していると、ルーニアは微笑して水晶玉に手を置いた。

「心配しなくてもステータスを計測するだけです」

「ステータス?」

 聞き間違いだろうか。テレビゲームの中でしか耳にしたことが無い単語が飛び込んできた。

「冒険者がいかほどの実力者か知るために、ネフティーヌ様の魔法がかかった魔法陣で強さを可視化するだけ。触って腕が消えるわけではないから安心するといい」

「アシュリーさんの言う通りです。すぐに済みますから、遠慮なくどうぞ」

 ルーニアに促されるが、未だに優の警戒心が解けることはない。仕方なしと、アシュリーが先行して水晶玉に右手を添える。


 すると、水晶玉が怪しい輝きを放った。よく内部を観察すると、いくつかの数値が羅列している。優たちがボケッと見惚れていると、ルーニアはものすごい勢いで数値を書き写していった。

「お待たせしました。これが現在のアシュリーさんのステータスです」

「書き写すの早いな」

「速記はギルド職員の必須スキルですから」

 眼鏡をクイッと上げてどや顔をする。パソコンのブラインドタッチをやらせたら無茶苦茶速そうだなと益体ないことを考えた優であった。


 それはそれとしてアシュリーのステータスである。示された用紙に記載されていたのは以下の内容だった。


アシュリー・アモルト(20)

ヒューマン

エクソシスト 冒険者ランクS

体力:253

知力:983

攻撃力:189

防御力:176

俊敏性:205


 案外シンプルなステータス表ではあるが、優がまず着目したのが、

「アシュリーさんって二十歳だったんですか!?」

「マジ!? ユー君より年下だと思ってた」

「お前ら。私の年を真っ先に弄るな」

 8歳年下でも通用しそうなだけに、この実年齢は意外すぎた。恐るべき童顔幼児体型である。


 年齢はさておき、知力が突出して高いが、それ以外は平凡といったところである。

「ルーニアさん。このステータスって一般的に見てどうなんですか」

「十分高い水準です。特に、知力はエクソシストになる人の平均で300と言われていますが、アシュリーさんの数値は正直規格外ですよ。それ以外も、一般の方の能力値が100から150とされていますので、全体的に平均以上の水準を保っています」

「うむ。アンデットと戦っていたら自然とこうなった」

 RPGに倣うなら、知らぬ間に経験値が蓄積していたということになる。デーモンを一撃必殺できるだけでもかなりの猛者だと証明していたが、こうしてその強さが明文化されたわけである。


 次は優の番。生唾を呑み込み、水晶に触れようとする。だが、

「なんか面白そうね。私にもやらせて」

「コラ、クロナ! 割り込みするんじゃない」

 有無を言わさずクロナが水晶に触れてしまう。すると、またもや数値が表示されたので、ルーニアが手早く書き写していく。

「えええ! ちょっと、何ですか、このステータスは!?」

 転記が終わったところで、ルーニアは驚愕の声をあげた。一体、いかなるステータスが表示されたというのか。ルーニアが差し出した用紙を前にし、優やアシュリーもまた瞠目するのであった。


クロナ(16)

上級アンデット デス

冒険者ランクE

体力:8971

知力:7139

攻撃力:10029

防御力:7999

俊敏性:10115


「チートすぎるだろおおおおおお!」

 一般人の平均値が100程度だとルーニアは言っていた。ならば、クロナは一般人の100倍近い攻撃力と素早さを有しているということになる。その他のステータスもアシュリーとは比べ物にならないほど高い。

「上級のアンデットでしたらおかしくない数値ではありますが、これほどの高水準は滅多にないですよ。依頼をクリアした実績が無いからEクラスになっていますが、Sランクでも十分通用するレベルです」

「ふふん、どんなもんだい。そんじょそこらの人間には負けないもんね」

 ハデスとかネフティスと懇意にしているだけあって規格外すぎるステータスだった。


「クロナが16歳。これ、嘘でしょ」

「うむ。アンデットは人間の時に生きた年齢とアンデットになってから生きた年齢が合算される。だから、100歳とかゴロゴロいるのに、これは若すぎる。サバを読んでいるに違いない」

「ちょっと、私の年齢を弄らないでよ。私は永遠の16歳なんだから」

 どこぞの女性声優みたいなことを言い出した。彼女の場合は本気で永遠に16歳を繰り返している可能性がある。


 随分と邪魔が入ってしまったが、いよいよ優のステータス確認である。二人続けてとんでもない能力値が表示されてしまったのだ。おまけに、アシュリーに「俺には隠された力がある」なんて豪語してしまっている。これで平凡な数値だったら示しがつかない。

 緊張して腕が振るえるが、覚悟を決めて水晶玉に手を添えた。すると、天空へと光の柱が伸びていった。レーザー光線によって天井が破壊される。なんてことはないが、二人の時と比べると水晶の反応が異常だ。

「ルーニアさん、これ壊れてませんか」

「え、ええっと、こんなに激しく発光するなんて初めてです。でも、きちんとステータスは表示され……ええええええええええええええええええっっっっっっ!!」

 ゆるふわな風貌には似つかないデスボイスでルーニアは絶叫した。意外過ぎる声音に優が水晶から手を放すと、ようやく光が収まった。


 どうにかステータスは映し終えたようだが、ルーニアは酸欠の金魚の如く硬直してしまい、なかなか用紙を渡そうとしない。痺れを切らしたクロナが用紙を奪い取るが、

「嘘でしょ、これぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 ルーニアに負けず劣らずのデスボイスで絶叫した。

「どれどれぇぇぇっぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 のぞき見したアシュリーも「セイント・セイバー」を発動する時の声音で絶叫した。一体いかなる数値が記されているのか。いよいよ優もご対面を果たす。


伏見優(16)

ヒューマン

冒険者ランクE

体力:9997678

知力:121

攻撃力:109

防御力:9999801

俊敏性:112


「なんじゃこりゃあああああああああああ!!」

 本日一番の絶叫だった。前例の二人と比べても明らかにおかしい。

「体力と防御力がバグってますよね。書き間違えてないですか」

「いいえ、しっかりとこの数値が示されました。紛れもなく優さんの現在のステータスです」

 ネフティーヌから「滅多なことでは死なない」と太鼓判を押されてはいた。けれども、あからさますぎる形でステータスに表れるとは。


「一般人の能力値が100とするなら、防御力は10万倍もあるってことだよな」

「うむ。それどころか、10万人から集団リンチを受けてもかすり傷一つ負うかどうかぐらいの耐久力を持っていることになる」

「チート過ぎじゃん。そんなのどうやって殺すのよ」

 クロナの目的からすると絶望的すぎる相手である。一応、攻撃力や知力が一般人レベルしかないという弱点はあるが、ろくにダメージを受けないというのはあまりにも強大なアドバンテージだった。


「優さんも依頼をこなした経験がないからEランクになりますが、戦い方によってはSランクの相手とも渡り合えるでしょう。アシュリーさん、どうしたんですか。こんな滅茶苦茶なステータスの持ち主を二人も連れてくるなんて」

「なんか知らんが、成り行き上育てることになった。まさか、出鱈目な力を持っているとは思わなかった。優、隠された力があるというのは本当だったんだな」

「ああ、そうさ。これが俺の力だ」

 虚勢を張るが、動揺は隠しきれていなかった。とりあえず、ステータスの事は内緒にしようとしたが、水晶から光の柱を出してしまった時点で隠しようがない。これがナハトの町における伝説の男が誕生した瞬間であるが、それはまた別の話だ。

優のステータスをドラゴンボールで例えるなら、ラディッシュに殺された一般人のおっさんぐらいの攻撃力しかもたない代わりに、フリーザの攻撃を余裕で耐えられるぐらいの防御力を持つとなります。

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