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中二病でもエクソシストになりたい

 服以外にも一通り日用品を買いそろえたところで、優たちはようやく本来の目的地であるギルド本部に向かうことにした。ところで、どうしてギルドに登録して依頼を受けようとしているのか。生活費を稼ぐため。それももちろんだが、優のエクソシスト修行のためにどうしても避けられなかったからである。話は昨夜、就寝直前のアシュリーの自室での出来事にまで遡る。


 優がエクソシストを目指すということで、現役エクソシストであるアシュリーによる講義が行われていた。議題はもちろん、「どうやったらエクソシストになれるのか」である。

「エクソシストになるには大きく分けて二つの道がある。まず一般的なのは国営のエクソシスト養成学校に入ること。でも、これは無理」

「いきなりエクソシストへの道が閉ざされたぞ」

 優としても、まさか即座に頓挫する羽目になるとは予想外だった。


「養成学校は六歳からみっちりエクソシストになるための知識を叩きこまれる。そして、基本的に途中からの転入は認められない。しかも、入学するには莫大なお金がかかる。有力筋の富豪じゃないと入ることはできない」

「一文無しで根無し草のユー君じゃ無理ってわけね」

「間違ったことは言ってないけど、思い切り罵倒してますよね、クロナさん」

 ちなみに一文無しで根無し草なのはクロナも同じである。なのに、まったく悲壮感がないのはなぜだろうか。


「私も一応学校を卒業している。そこに証書がある」

 額縁に入れて飾られていたのはファントミック国立エクソシスト養成学校の卒業証書であった。アシュリーの名前とともに、すべての教育を終え、エクソシストとしての素養があると認めるといった内容が記されていた。

「学校を出ているってことは、あんたって意外と裕福な家庭なのね。ご家族はどうしてるの」

「父と母は……訳あって別居している。そこは聞かないでくれ」

 複雑な家庭の事情というやつだろう。プライバシーの問題なので追及するのは失礼にあたる。それよりも重要なのはエクソシストになる方法だ。最も一般的な方法が絶たれて窮地に陥ったわけだが、諦めるのはまだ早かった。


「学校に入れないからといって方法が無いわけではない。むしろ、こっちの道で目指す人が多いかもしれない。ただ、学校を卒業するより難しい」

「一体どんな方法なのですか」

「冒険者ギルドに所属するとランクが与えられる。最初はEで、依頼の達成度などによってD、Cと上昇していく。そして、最高のSランクになると様々な職業のエキスパートになるための試験を受けることができる。その中のエクソシストの試験を受けて合格する。そうすればエクソシストとしての資格を得ることができる」

「なるほど。ならば、まずはギルドのSランクに到達すればいいんですね」

「ただ、Sランクになるのは至難の業。寿命が人間よりはるかに長いアンデットでもなれるかどうかのレベル。おまけに、エクソシストの試験は学校の卒業試験より難しいと聞く」

「相当狭き門ね。ユー君が元いた世界で例えるなら、司法試験に合格するより難しいんじゃない」

 付け加えるなら、エクソシストの学校を卒業するのは東大に入学するぐらいの難易度がある。勢いで目指せるような代物ではなかった。むしろ、優とあまり年の違わないアシュリーが就任しているということで、彼女の非凡さが窺い知れる。


「なるのは難しいが、特典は魅力的。エクソシストには毎月国から支援金が入る。おまけに、正規のエクソシストでしか受けることのできない依頼もある」

 アシュリーがお金持ちなのは、依頼金の高さもあるが、支援金の影響も大きい。不自由なく一人暮らしできているということは、それなりの金額が入ってきているのだろう。

「ただし、一定期間エクソシストとしての仕事をこなしていないと資格をはく奪される。支援金だけでも生活できるけど、遊んでは暮らせない」

「異世界と言えども世知辛いのね。でも、冒険者ギルドってフリーターみたいなものでしょ。そっから国家資格が狙えるなんて夢があるじゃない」

「そうだが、命がけでドラゴンとかに突っ込むフリーターとか危険すぎやしないか」

 自分で発言してなんだが、優はある重大なことに気が付いた。


 ドラゴンはまだしも、異世界に来て早々襲われたヘルハウンドみたいなモンスターとも戦わなくてはならないということだ。人間同士の喧嘩でも勝つ自信はないのに、それ以上の強敵とどう戦えばいいのだ。

 そんな不安が伝わったのか、アシュリーは懐疑的な視線を送って来た。

「もしかして、ユーは戦闘経験がないのか。幼い頃に武術の心得とか初級魔法を習うはずだが」

 武術ならば習得していてもおかしくないが、あいにく優が習得しているのは格闘ゲームの必殺技コマンドぐらいである。そして、懸念は良からぬ方向に話を進めていく。


「ギルドの依頼をこなせないのなら、エクソシストになる以前の問題。依頼をこなして手に入るお金も目当てにしていたのに、優を家に置いておくメリットがなくなる」

「アシュリーさん、堂々と腹の内を暴露しましたね」

 ただし、呆れている場合ではない。アシュリーから破門されれば、一文無しで根無し草のまま危険なモンスターが徘徊する世界に放りだされることになる。いくら「滅多なことでは死なない」と言われていても、モンスターの餌になるのは時間の問題だ。そして、死亡した場合、待ち受けている未来はクロナの配下に置かれ、死神(超ブラック企業の社員)として働くこと。優としてはそれだけはご免だった。


 なので、どうにかして弟子の立場を維持しなくてはならない。要するに、モンスターと戦えることを示せばいいのだ。疑似的にでも。

「フフフ。いままで黙っていましたが、俺には封じられた力があるのです」

「なん……だと」

 意外とあっさりくいついた。

「以前の世界はあまりに平和のため発揮する機会がなかった。だが、魑魅魍魎が跋扈する世紀末新世界であれば俺の力を存分に振るうことができる。ああ、うずく、うずくぜ。俺の右手が獲物を求めて荒れ狂う!」

 大袈裟に右手を抑えて悶える優。アシュリーは興味津々に優の茶番を観覧している。そして、クロナは白けていた。


「そうか。優はすごい力がある。ならば、そんじょそこらのモンスターなら負けない」

「ああ、そうさ。だが、全力を発揮するには素手では心もとない。俺の力を増幅できる武器があれば」

「うむ。私のお古の杖しかないが、それでいいか」

「構わん。フフフ、俺の右手が血を渇望しておるわ」

「おお、なんだか知らんがカッコいい」

 羨望するアシュリーからちゃっかり武器を手に入れた。


「うわー、ユー君、ちゅーにびょー」

 棒読みで揶揄するクロナに優は反論する。

「仕方ないだろ、この世界で生き抜くためだ。無残に死ぬくらいなら、恥ずかしい演技くらいいくらでもしてやる」

「さすがユー君。私にできないことを平然とやってのける。そこに悶える、絶頂するぅ」

「お前はいちいち発情しないと気が済まないのか」

「冗談よ。まあ、ユー君に力があるかどうかは知らないけど、危ない時は私が代わりに殺してあげるから安心して」

 そう言ってクロナはデスサイズをちらつかせる。冗談抜きで殺る気満々だった。

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