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死神少女があらわれた!

 ある早朝のことである。伏見優が目覚めると視線に飛び込んできたのはおっぱいだった。仄かな温もりを感じる肌色の双房。飛び起きた際の不可抗力で顔面から突っ込んだが、その勢いを優しく受け止めるほどの柔軟性。齢十六の優が現実世界でお目にかかる機会などなく、ましてや揉んだことなどなかったが、本能的に「それ」はおっぱいだと分かった。もちろん、乳頭丸出しという不健全極まりない状態ではなく、きちんと衣服にくるまれている。だが、おっぱいがすぐそばにあるという異常状況に変わりはない。


 把握したところで優の脳内は疑問符でいっぱいになった。はて、どうして自室におっぱいがあるのだろうか。少子高齢化社会の波に逆らえず一人っ子である優に姉妹は存在しない。まさか、二十歳以上年が離れた母親が夜這いしに来たか。トラウマになるからやめてもらいたい。

 では、これは夢なのだろうか。訳の分からない状況に置かれた登場人物が総じて取る行動、すなわち自分の頬をつねるを実行した。痛い。すなわち、夢ではない。そもそも、はっきりと目の前におっぱいがあると認識できている時点で夢だとは考えにくい。朝からおっぱいで悩む羽目になるとはろくな一日にならないと優は落胆した。


「やっと起きた。ユー君ってばネボスケなんだから」

 謎のおっぱいのみならず、謎の声まで響いてきた。ゆっくりと視線をずらしていく。そうして対面したのは整った顔立ちをした少女であった。

 四つん這いでユーの上にまたがっている同じような年ごろの少女。紅色の瞳を輝かせ、黒髪のポニーテールがひと揺れした。やけに生温かいと思ったが、彼女の蒸気した吐息が頬に当たっているからだった。着用しているのは薄紫色の着物だったが、故意か不本意か際どく着崩されている。そして、下半身へと視線を移すと瞳に映ったのは生足であった。近年の女子高生並のミニスカートから伸びる艶やかなふともも。ごくりと生唾を呑み込むのは致し方ない。


「あ、発情してるでしょ。ユー君のエッチ」

「ち、違うし。っていうか、お前は誰だよ。どうやって俺の部屋まで入って来たんだ」

「私? 私はクロナ。ユー君のフィアンセだよ」

「見え透いた嘘をついてんじゃねえええええええ!」

 声を荒げた勢いを利用しベットから脱出した。あなたの婚約者と英語で言われたが、イントネーションは完全に日本人だった。留学生である線も捨てきれないが、流暢すぎる日本語といい、肌色や顔立ちからして優と同じ人種の可能性が高い。それに、外国からホームステイにやってくるなんて話は聞いていない。日本人の女の子が遊びに来るとも聞いていないが。


 とりあえず、不審者なのは明白だ。優はスマートフォンを手にし、クロナと名乗った謎の少女に突きつけた。

「これ以上近づくな。変な真似をしたら警察に通報するぞ」

「うーん、無駄だと思うけどな。っていうか、私人間じゃないし」

「は? 何言ってるんだ」

 意味が分からなかった。外見からして優と同じ人間のはずである。呆気にとられている優をよそに、クロナは更なる爆弾を投下した。

「私は死神。伏見優、あなたを殺しに来たの」


 優は携帯を手にしたまま硬直した。彼が自覚できるはずもなかったが、梅干しでも食べたかのような酸っぱい顔をしていたに違いない。

「あれ? 聞こえなかったのかな。死神の使命としてあなたを殺しに来たの」

「いや、二度言わないでも分かる。俺を殺すだって。本気で言っているのか」

 彼女の言葉を把握していくにつれ、優がスマホを握る手に力がこもった。霊長類最強などと謳われているオリンピック選手相手ならともかく、相手は同年代の高校生。しかも、華奢で箸より重い物を持ったことが無さそうな娘だった。優は体育に自信があるわけではないが、取っ組み合いになった時に遅れは取るまいという自負はある。


 やはり、知らぬ間に侵入してきた精神異常者であろうか。第一、殺すなんて酔狂な発言をしていながら武器の一つも有していない。さて、どうする。先制攻撃で組み伏せて警察に突き出すか。あるいは、話を長引かせてはぐらかせるか。

 思案していると、クロナはいきなり黒いノートを取り出した。おっぱいから。

「えっと、伏見優……」

「いや、待て待て待て!」

「どうかした?」

「ツッコミたいことがいきなり数個ほど発生したのだが」

 おっぱいの中にノートを仕込ませていたことは指摘しようにもできなかった。年頃の高校生にそんな勇気はないとご了承いただきたい。


「そのノートは何だ」

「デ〇ノート」

 悪気もなく集英社に怒られそうな単語が飛び出し、優は開いた口が塞がらなかった。

「嘘よ、死神の七つ道具が一つ、死神手帳。任意の相手がいつ死亡するか知ることができるノートよ」

「ほぼデスノ〇トですよね」

「だから違うって。これに勝手に書き込んでも効果が発揮されないもん。前にハデス死ねって書いてもあのおっさん、意気揚々とペルセポネのババアといちゃついてたし。あ、ハデスって私の上司ね」

「冥府神が上司とか大した設定だな」

 そのうち、「エターナルフォースブリザード! 相手は死ぬ!」とか言い出しそうだと優は身構えていた。ダークフレイムマスターを自称するならよそでやってほしい。


「ユー君はね、七月十八日の午後六時三十四分に食中毒により享年十六で死亡すると書いてあるわ」

「やけに具体的じゃねえか。それに、食中毒ってどういうことだよ。俺、変なものを食べた覚えはないぞ」

「食べたでしょ。ほら、昨日の夕方につまみ食いしたおまんじゅう」

「そういや、食べたな」

 学校帰りに小腹が空いたので戸棚にあったまんじゅうを拝借したのだ。指摘されてみると変な味がしたような覚えがあるがまずかっただろうか。

「実は、あのまんじゅうは賞味期限が三年ぐらい前に切れてたの」

「マジかよ。全然気づかなかったぞ」

「しかも、ゴキちゃんたちがうじゃうじゃたかってたわよ」

「うっそだろ、オイ!」

 そんな確信的なものを食べていたのなら、食中毒にならない方が不自然だ。指摘されてみると、なんとなくお腹が痛くなってきた優であった。


「この後死んじゃうってのが分かったでしょ。だから、ここですぐに死んでほしいの」

「事情はどうあれ、イエスなんて言うわけないだろ」

「んもう、強情だな」

 手の甲を腰に当てて頬を膨らますクロナ。不覚にも可愛いと思ったユーだが、次の瞬間に出現させたものは全く可愛くなかった。

大体、こんなおバカなノリですが、よろしくです。

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