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レッドラム  作者: シバドッグ
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一章 和人 二

 待ち合わせ場所に着くと、ミヅキがベンチに座っていた。

 正直、顔を見るだけで気が重い。

 だが弱味を握られて不利な状況にいるのは俺だ。

 嫌でも覚悟を決めて行くしかないだろう。

 「こんにちは」

 声をかけると、彼女は俺を見上げた。

 「来たんですね」

 「まあ、来るしかないからね。中学生だったんだな。高校生かと思っていたよ」

 ミヅキは、近隣の中学校の制服を着ていた。

 男女平等を掲げている学校で、制服が男女共用の白いワイシャツと黒の長ズボンなのだ。

 ニュースで取り上げられた事があり、地元の人なら誰でも知っている。

 「中三です」

 「ふーん、そうなんだ。ということは、この近くに住んでいるんだね」

 「アタシの事はもういいので、早速話をしてもいいですか?」

 情報をなるべく集めようとしたが、水を差されてしまった。

 相手のことを知っておけば、いざという時に脅し返す事ができるかもしれないと思ったが、仕方ない。

 諦めてとりあえず頷いた。

 「まず、これを見てもらえますか?」

 そう言って渡されたのは、一冊のノートだった。

 中をパラパラとめくってみると、恐らく彼女が考えたであろう「殺人計画」がびっしりと書かれていた。

 しかし、中身は素人目にみても酷いものだ。

 ターゲットを呼び出してナイフで刺す、外出中に後ろから襲ってロープで絞殺、食べ物に農薬を入れて毒殺、などなど……

 どこかで聞いたような内容が多く、上手くいくとはとても思えないものばかりだった。

 「どう思いますか?」

 「現実的じゃないって感じかな……刑事ドラマなんかじゃ定番だけど、たぶん失敗すると思うよ。全部見たわけじゃないから言いすぎかもしれないけど」

 「ですね。アタシも、これで成功するとは思っていませんよ」

 「じゃあ、何でこれを見せたんだ」

 「できれば、ここには載っていないものを考えてほしいからです」

 「ここにないもの?」

 ノートを返しながらそう尋ねると、ミヅキは頷いた。

 「誰でも思い付くような方法じゃ、やっぱり失敗すると思うんですよ。だからここは、大人である津村さんの知恵を借りるべきかな、と」

 「知恵って言ったって、俺だってここに書いてあるのと同じような事しか思い付かないよ」

 ミステリー小説はたまに読むが、トリックや犯人を推理できた事など一度もない。

 大体は読み終えた後で「へー、なるほどね」という程度だ。そんな俺が考えたところで……

 そう考えた時、ふと頭によぎるものがあった。

 「いや、ちょっと待てよ……」

 それは、前に遊び仲間だった医者に冗談で聞いたことがある、一番楽な自殺の方法だ。

 苦しまずに死ねるという話だったが、俺に自殺は無縁だしネタにすぎない情報だった。

 だが、これを利用すればいけるのではないか?そう思った。

 「一つだけ、ここにない殺害方法があるよ」

 「本当ですか?」

 「ああ、前に知り合いに聞いた話でね。まあ完全犯罪じゃないし、人をほぼ確実に死なせるだけの方法なんだけど」

 「それはどういうものなんですか?」

 俺は、聞いた話をそのまま喋った。

 ミヅキはしばらく真剣な顔をして考え込んでいたが、突然ポケットからライターを取り出してノートを燃やしてしまった。

 呆気に取られている俺をよそに、彼女の表情は晴れやかだ。

 「えっ、燃やしちゃっていいの?それ」

 「もう必要ありませんからね。むしろ、邪魔にしかなりませんし」

 「ああ、そう」

 「でも凄いですよ。津村さんの方法なら、凶器から辿るのも難しいかもしれませんし、赤の他人の犯行なら動機もわからない。思ったより、成功するかもしれないです」

 捲し立てている彼女を尻目に、俺は別の事を考えていた。

 俺の目的はあくまでも警察に喋らせないこと、そして殺人なんかやらずに済ませることの二つだ。

 そのために、どうしても聞かなきゃならないことがある。

 「ところで、一つきいていいかな?」

 「はい、いいですよ」

 「本当に、人を殺すつもりなのか?」

 俺がそう言うと、ミヅキはあの雨の日のように淀んだ目で俺を見ながらはっきりと言った。

 「殺しますよ。本気です。もちろん、あなたがアタシに協力してくれないなら通報するのも本気ですから」

 「いや、だって君、中学生だろう?気にくわない先生とか、いじめてくるクラスメイトがいるのかもしれないけど、殺したって何にもならないよ。まあ、彼氏がいて浮気されたーとかならわからないでもないけどさ」

 「そんなくだらない話じゃありません」

 じゃあ何なんだ、とは言えなかった。

 彼女が何を考えているのかはわからないが、傍目に見ても決意の固さは伝わってくる。

 この子は、本気で誰かを殺そうとしているのだろう。

 これ以上、俺が何を言ったところで徒労に終わると思う。

 はっきりとしたのは、しばらくはミヅキに適当に合わせて俺は行動するしかないということだ。

 「うん、とりあえずわかった。あと、ついでで申し訳ないんだけど、もう一ついいかな?」

 「質問は一つじゃなかったんですか?まあいいですけど」

 「君は、そんなに誰を殺したいの?」

 「それは……」

 少し目を泳がせた後、彼女は俯いた。

 「あなたには関係ない事です。もっと計画を練ってからなら、いずれわかることでしょう?もういいです、またこちらから連絡するので」

 そう言うと、彼女はカバンを乱暴に持ってさっさと帰ってしまった。

 取り残された俺は、ため息をつくしかない。

 結局、収穫はほとんどなかった。学年と名前がわかっても「学校に言うぞ」と脅す程度では脅しの材料としては弱すぎる。

 もっと決定的な弱味を握らなければならない。そのための近道は、やはりミヅキに合わせて殺人計画を進めていく事なのだろう。

 だが、同時に興味が少しわいてきた。

 ミヅキが、そこまで隠す殺したい相手とは誰なのだろうか。

 

 

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