一章 和人
俺は居間で一人、頭を抱えていた。胸中を巡るのは激しい後悔の念と、理不尽な怒りだけだ。
2日前のあの日、死体あさりなんかしなければよかった。
そして、俺を脅してきたあの女。俺を追い詰めている元凶はあいつだ。
あいつさえいなければ、今ごろはもっと平穏に過ごせたに違いない。
「くそっ、ふざけやがって!」
思い切りテーブルを叩いてみても、手を痛めるだけで何も状況は変わらなかった。
そしてふと、叩いた衝撃で床に落ちたスマホを見つめた。
『何日か経ったら、こちらから連絡します。もしも出なかったら通報しますから』
たしか、あいつはそう言っていた。
俺の電話番号は教えているが、あちらの電話番号はわからない。こちらからの連絡手段はないのだ。
かろうじて得られた情報は、あいつの名前が「ミヅキ」だということだけだ。
チラッとスマホの画面が見えた時に、連絡用アプリで「ミヅキ、大丈夫?」という文が確認できた。
名字か下の名前なのかは知らないが、本名である可能性は高いだろう。
だが、名前がわかっていてもどうしようもない。近隣の学校を調べていけば何者かわかるかもしれないが、不審者として捕まるのがオチだろう。
とにかく、今俺にできることはミヅキからの連絡を待つ事だけだ。
「連絡するなら早くしてくれよ……」
突っ伏しながら呟くと、スマホが震えた。
慌てて画面を見ると、見覚えのない番号からの電話だった。恐る恐る通話ボタンを押して、スマホを耳に当てる。
「……はい。津村ですが」
『津村さん、アタシが誰かわかりますか?』
「ああ、わかるよ」
『そうですか。じゃあ、この前言ったことは覚えてますよね?その件について話をしたいのですが』
「わかった。で、どうすればいい?」
『とりあえず、明日の夕方5時にあの森の休憩所に来てください。詳しくはそこで』
「5時?あっ、ちょっと!」
一方的に電話は切れてしまった。
何とも言えない気分だが、とりあえず電話番号は保存しておこう。登録名は「ミヅキ」でいいだろう。
非通知設定でかけてこないあたり、案外頭が良くないのかもしれない。
または、そこまで頭が回らない程余裕がない状況なのだろうか。
「明日の5時、か……」
思い出すのは、あの時の言葉。
『人を殺してくれませんか?』
あれは、どれほど本気で言っていたのだろう。それを確かめなければならない。