一章 ミヅキ
結局、あの男はアタシの条件を飲んだ。恐らくその場しのぎで飲んだふりをしているのだろうけど、彼の住所と名前はアタシが握っている。
津村和人。二十五歳。スマホに写真で保存した免許証によるとそうなっている。
これがあるかぎり、基本的に津村は従順に動いてくれるだろう。
津村は異常な程に通報を恐れていた。
死体をあさるような人間なのだから、余罪があるのかもしれない。もしかして、人でも殺しているのだろうか。
「それはないなー」
自分で言って、笑ってしまう。彼がそんな凶悪犯なら、私はとっくに土の中にいるだろう。
彼に人を殺す度胸なんかなかった。
だが、そう考えるとだんだん不安が募っていく。
「やっぱり、殺人なんて無理なんじゃないかな……」
ドラマやニュースでは普通の人が殺人犯だったりするし、そのイメージから大人の男なら誰でもできるものだと思い込んでいた。
浅はかすぎたかもしれない。
しかし、アタシを殺しにきた一瞬だけは本気だった。あの殺意の発露にもう一度賭けてみるしかないだろう。
どちらにしろ、アタシにはもう時間も余裕もないのだ。一刻も早く、あの人を殺さなければならない。