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黄色いバンダナ

作者: 橘祐介

夕立のような淡い恋



石垣島のビーチにいた。




夕立の激しい雨で、逃げ場を探す。




トタン屋根の小屋の軒下、そこに入ればなんとかなりそうだ。




急いで走り込む。




傘はない。




そこには、ショートパンツに白いスニーカーの



女の子がいた。




彼女も、濡れたTシャツを気にしながら、




雨の勢いがおさまるのを待っていた。




「けっこうきつい雨ですね」と僕は話かけた。




「ええ」と、短く彼女は答える。




雨はさらに激しく降ってくる。




暫くはここから動けそうにない。




でも、彼女はすぐにでもここから飛び出したいようだ。




ポニーテールも黄色いバンダナもびしょ濡れなのに。




僕の車は歩いて5分くらい離れたところに止めてある




「急いでるの?」と彼女に聞いた。




暫くの沈黙。




そして「ちょっとね」と彼女が答えた。




「大事な用事?」僕は尋ねる。




彼女は静かにうなずいた。




「どこに行きたいの」と彼女に聞く。




「空港まで」と彼女は短く答える。




石垣島空港は車で行けば30分くらいの距離だ。




「送ろうか」




「でも、それは悪いし」




「いいよ、どうせ濡れてるんだから車取ってくるよ」




「でも、いい」




彼女はうつむいて答えた。




暫くの沈黙。




「空港に何で行きたいの?」




おせっかいと思いながらも、僕は聞いた。




「帰ってくる」小さな声で彼女は答える。




詳しいことを詮索するのは無しにして、




「送るよ、どうせ濡れてるし、いつまでもここにいても仕方ないから」




そう、僕は話した。




不思議と下心など何もない。




「いいの?」と彼女。




「よし決まった」と僕。




急いでオンボロのレガシーワゴンを取りに行く。




もう15年前の車だ。




それでも、ちゃんと走る。




ボクサーエンジン。




燃費は悪いけど、技術者のハートが込められた車だ。




二人で空港に向かう。




島の小さな空港なので、渋滞はない。




カーラジオからローカルな島歌が聞こえてくる。




日本語なのに言葉がよく分からない。




「何時までに空港に行けばいい?」




「4時35分」彼女は答える。




激しい雨をくぐってアクセルを踏む。




あと15分しかない。




車はほとんど走ってない。




さらにアクセルをぐっと踏む。




スピードメーターは120kmをさしている。




レガシーは燃費は悪いが速い。




しかし、視界が悪いし、路面が濡れているのでかなり危険だ。




スピンしないようにハンドルを切りながら、




なんとか彼女の言った時間に間に合った。




なんで、そんなに無理してまで空港に行くのか




まだ理由を聞いていなかった。




彼女は沈黙したままで助手席に座っている。




カーラジオからはスローな島歌が静かに流れている。




「何とか間に合ったね」と僕。




「ありがとう」とポニーテールの彼女は答える。




そして、彼女は車を降りてダッシュ。




空港の到着ゲートに吸い込まれていった。




東京発のジェットが着陸する。




しばらくすると到着ゲートがにぎやかになる。




僕は他に行く予定もなかったので、




車を止めてカーラジオで島歌を聴いていた。




にぎやかな人の波。




やがて、到着ゲートは静かになる。




遠くで見ると、彼女は待合室のベンチで




一人座っている。




1時間くらい経ったろうか、




彼女がゆっくりと、うつむきかげんで待合室から出てきた。




待ってる人がこなかったのだろう…。




うなだれている彼女にもう一度声をかけた。




誰を待っていたのかは聞かない。




どしゃぶりの夕立は見事に晴れ上がり、




抜けるような青空にかわっている。




「どこかに送ろうか?」彼女に言った。




ほんの少し時間をかけて、




ありがとう




でも、自分の足で行くわ」と彼女が言った。




晴れ渡った沖縄の空の下、




彼女は少し上を向いて、歩きはじめた。




後姿のポニーテールに黄色いバンダナが揺れていた。









逢いたい

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