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 「き、君はエリザちゃん。よ、ようやく僕の想いが伝わったんだね」


 紫肉マンが嬉しそうな声をあげた。来客に反応してのこの反応だ。くぐもった声が何とも気持ち悪い。

 そこで完全に自分の事を棚に上げていることに気づく。

 人の振り見て何とかと言うが、前世の俺のメタボマンだったわけだし同じような物だったのだろうか。

 以後食生活には気をつけよう。太っているのは醜い。

 今の俺は骨しかないし骨の隙間から向こう側が見えてしまう程肉がない。

 内臓もないからものが食べられるかわかんないんだけどね。


 「このダンジョン、トラップが一つもないしモンスターだって一体もいなかったわよ。本当にやる気があるのかしら。あまりに歯ごたえなさ過ぎてモンスターを呼ぶ必要すらなかったわ」


 侵入者は言った。

 見たところ十代半ばくらいの少女だ。紫ブタがエリザちゃんと嬉しそうに反応するのも分かる。

 多分、日本にもめったにいないレベルの美少女だ。

 艶やかな金色の髪。瞳も同色だが、こちらは僅かに朱を帯び吸い込まれそうなほど透き通っている。

 そこまでだったら普通の人間だが、少女は紫ブタマンと同様に角を持っている。

 この少女も人間じゃないってはっきり分かるんだね。

 紫肉団子の角は薄汚れたような茶色だが、目の前の少女の角はプラチナだ。

 そして金の鱗に覆われた長い尻尾。

 根元が太く先端にかけて徐々に細くなるワニなどの爬虫類を想わせるそれだ。

 太く長い尻尾は気儘に宙で遊んでいる。


 「どうするの? 戦うの? 降伏するの? 戦うならば容赦はしないわよ」


 「エ、エリザちゃんと戦うなんて僕にはできないよ。そうだ、エリザちゃん僕のハーレムに入らない甲かい? そしたら戦わなくてすんで一石二鳥だ」


 「……ほんとバカ丸出し。まともに相手にするのは疲れるわね。立場すら分かっていない」


 「エリザちゃん。ぼ、僕の名前やっぱり覚えててくれたんだね」


 「……はぁ。で、どうするの? 降伏するなら早くして頂戴。あんまり愚図だとこっちから仕掛けるわよ」


 「……ああ、運命はなんて残酷なんだ。愛する二人に戦いを強いるなんて。こうなれば仕方が無い。戦って屈服させるまでだ。行け! スケルトン!」


 誰が命令聞くかバーカ!

 俺にとっちゃどちらも見知らぬ他人だ。

 どちらも他人ならば紫肉まんじゅうよりも美少女の肩を持つのが普通だろう。 


 「……来ないわね。他の魔物を呼んだら?」


 呆れたように竜少女は言う。


 「いたらそうしているよ! リエラの奴に創世力だまし取られたんだ」


 「……まぁ、あの女のやりそうな事ね。一番弱そうな奴を真っ先に潰しに来た私が言うのもあれだけど。でも、スケルトンしかいないって何だか憐れみすらも覚えてきたわ。だったらせめてそのスケルトンを『四天王』の一角に任命しなさいよ。そうすれば少しはマシになるはずよ」


 「嫌だ! 僕の四天王は美少女モンスターにするって決めてるんだ。スケルトンなんて入れてたまる

か」


 「そう、ならいいわ。来なさい! ビャッコ、セイリュウ、スザク、ゲンブ」

  

 少女は指をパチンと鳴らした。

 すると宙に大渦が現れ、その中から四体のモンスターが出現する。

 鋭い牙を持った大虎に、東洋風の長い竜、燃えさかる獄鳥に堅牢な岩の鎧を持った亀。

 どれもサイズが大きく、十メートル程の大きさがある。


 俺はすくみ上がった。

 膀胱があったら俺も肉まみれ紫男と同様に漏らしていたと思う。


 これ、なんて怪獣大戦争ですか。


 「お呼びですか。マスター」


 白い虎が言った。どうやら言語も解するらしい。

 流石アタリモンスターは違うな。俺がハズレだというのも頷ける。

 俺、骨だけだしね。肉がない分材料的には普通の人間以下の価値しかない。 


 「……さぁ、まだやる?」


 竜の少女は言う。

 しかし、紫の肉塊は失神しており既に言葉を発することが出来る状態ではなかった。


 「さて、ダンジョンコアはどこにあるのかしら?」


 少女がため息交じりに呟くと、紫ジジイがその前へと躍り出た。

 そして平身低頭土下座をする。


 「そ、それでしたらあちらに。ですからバカマ=ルダシ様の命だけはどうか!」

 

 「いいの? あんた、相談役のサポートモンスターでしょ。まさか、四天王と同様にマスターと一蓮托生な命である事を忘れているんじゃないでしょうね?」


 「勿論覚えておりますとも。ダンジョン運営に関するあらゆる知識がなくてはサポート役は務まりませぬ。ダンジョン四天王やマスターのサポートモンスターはダンジョンコアに己の命を預け制約を立てるのです。よって、四天王やサポートモンスターはダンジョンマスターが死ぬかダンジョンコアが破壊されれば消滅してしまいます」


 「わかってるんじゃない。だったらどうして?」 


 「バカマ=ルダシ様は確かに到らないダンジョンマスターでした。とてもとても尊敬できるお人ではありません。ですが、私は存外バカマ=ルダシ様のことが存外好きだったようなのですよ。バカな息子をみているようで、少々甘やかしてしまったこともありましたが」


 涙ながらに老人は語る。その真剣な顔つきには滲み出る愛情が表れていた。


 「そ、そこまで言うなら殺すのも忍びないし、コアを破壊するだけにしておいてあげる。私の優しさに感謝しなさいよね」


 「ありがとうございます。ありがとうございます」


 「で、ダンジョンコアはどこにあるの?」


 「あちらになります」


 老人は広間の奥の細い通路を指さした後、歩き始める。

 少女は老人の後を付いていく。俺も何となく後ろに付き従う。 

 この広間であの怪獣達に一人囲まれ続けるのは死んでもご免だったからだ。


 歩いて向かった先には大きなクリスタルが鎮座していた。

 高さ一メートルほど。幅は50センチ。怪しげな紫の光を僅かに帯びたそれは誰かに支えられることもなく宙に浮かんでいる。 


 少女はその前に立つと、ぐっと拳を握ってそれを真っ直ぐ前へと突きだした。


 ピシ、ピシピシ。


 クリスタルに罅が走った。

 そこへ追い打ちを掛けるように少女の拳が再び叩き込まれる。


 すると、クリスタルは破砕して飛び散った。

 飛び散ったと同時、紫ジジイの体が白い光に包まれた。

 そして、その白い光とまるで同化するように紫ジジイの体は次第に透けていった。


 「バカマ=ルダシ様。このジジイ無き後もどうかご達者で」


 重い言葉を残して満足そうに紫ジジイは消えた。

 残されたのは俺と少女。


 さて、これから俺はどうなるんだろう。事態は急転直下の連続だ。


 

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