急転直下
今の所更新の予定はありません。
フォルダ整理のため、完成したところまでの投稿になります。
母さんが働けと泣き喚き、父さんが事あるごとにぶん殴ってくるので俺は逃げるように外へ出た。
久々のシャバだ。排気ガスが一杯で凄く気持ち悪い空気だ。
空気清浄機で常にクリーンな空気で満たされている俺の部屋に早速帰りたい。
だが、今家に帰っては俺の命が危ない。父さんが50手前で職を失い、うちの家計は今火の車。
老後用の貯金を切り崩して難とか生活している状況だが、母さんが相当ヒステリーになっている。
正気じゃない。目の下には濃い隈ができている。すっかり老け込んで顔もしわくちゃだ。
顔を合わせる度に働かない俺を親の敵のような目で見てくる。そのうち包丁で刺されそうだ。
働かないなら口減らしだー、とか言ってな。
父さんも父さんだ。
自分の就活が上手くいかないからって可愛い息子を殴る事ないじゃないか。
最初は頭を殴るくらいだったが最近暴力がエスカレートしてきている気がする。
このままじゃサンドバッグになること請け合いだ。
だから俺は就活をする体で家を出る。
ハロージョブへと行くと嘘を言って家を出てきた。
後はどこかで時間を潰して帰ればいいだろう。
引きこもりにとってシャバとは魔界の瘴気と同義だ。
一歩歩くごとにHPが削られるようなそんな感覚を覚える。
つらいよー、帰りたいよー。ベッドでHP回復しないと死んじゃうよー。
ポツ。ポツ。
不意に顔に何か冷たい物が当たった。雨だった。
慌てて家を出てきたから外の天気を確認する暇も無かった。
空を見上げれば灰色の曇天。黒い雲は重く垂れ下がっていて非常に圧迫感を覚える。
あ~外に出るんじゃなかった。
……ああ、なんて俺は不幸なんだ。
俺は人よりちょっと早起きが苦手で、趣味に時間を掛けたい人間なのになんで皆いじめるんだ。
俺の天職はニート。そんな事は俺が一番よく分かっている。
中卒、メタボ、ブサイク、資格なし。そんな俺が働けるわけがない。
と、いうより死んでも働きたくない。
父さんが再就職するまでの辛抱だ。挫けず頑張ろう。
さし当たって今日は何をするか。
よし、雨が今にも本降りになりそうなので近所のゲーセンへと駆け込もう。
そしたら格ゲーのコンボ練習でも頑張るか。
俺がゲーセンの方へと足を向けたその矢先だった。
ビガッ!
強い稲光で視界が真っ白になる。
そして、その直後、
ドオオオオオオン!
と空気を振るわす爆音が辺り一面に轟いた。
光と音のタイムラグは殆ど無かった。
雷は相当近い。
やばい! まだ俺は死にたくない。
これでも俺はまだ二十代なんだ。
俺は必死に重い体を引きずって走る。
走る度に贅肉がぶるんぶるんと上下に揺れて非常に走りにくい。
俺は必死に走るが走れた距離はたった十メートル。
引きこもり期間に相当体力と筋力が落ちていたらしい。
これだけの短距離でもう息はあがって横っ腹が痛い。
そしてそれに追い打ちを掛けるようにもう一度稲光が放たれる。
まるで狙い澄ました槍のように地表の標的に向かって真っ直ぐ雷は突き抜ける。
その一部始終を俺は見ることが出来なかった。
代わりに全身に膨大な熱を感じた。
熱い、とわずか一瞬思ってそのまま意識が消し飛んだ。
□■□■
「何でスケルトンなんだよぅ! 最弱モンスター候補筆頭じゃないか!」
俺が意識を取り戻したのは石造りの広間の中でのことだった。
目の前には紫色の太った男がいて、偉そうに玉座にふんぞり返っている。
太った男には頭から角が生えている。人間ではなさそうだ。
そしてその横にいるのはこれまた紫色の爺さん。肉男と同様、頭に角が生えている。
しかし、コッチは骨と皮しかないやせっぽちだ。
俺はあまりの事態に絶叫する…………が、絶叫したはずなのに何故か声が出なかった。
「バカマ=ルダシさま。恐らく創世力をケチりすぎたためだと思われます。召喚される魔物は使用した創世力の量に応じて召喚される魔物がランダムに決まるのですぞ。先程の使用量ではこの召喚は妥当な結果だと思われますが」
「ケチっていない。希少な創世力を10も使って作ったんだぞ!」
「それが少ないと言っているのです。むしろ、それっぽっちの量で召喚できたことが奇跡かと。モンスター召喚とは異世界から魔物を呼び寄せる秘技。同じ魔物でも強さが異なることは多々あります。そしてその個体差分だけ必要な創世力が上乗せされる形となります。その逆もまた然りです。しかし、10ポイントで呼べる魔物となるとさぞ召喚されたモンスターは無能だったんでしょうなぁ」
……あれ?
今そこはかとなく俺バカにされた?
「お前もお前だ! 何で俺のサポートが老いぼれジジイなんだよ。カワイコちゃんが良かったのに!」
「そのカワイコちゃんに騙されて創世力を根こそぎ奪い取られてしまったのはどこの誰ですか?」
「うるさいうるさぁい! 僕が困ってるんだ。何とかするのがお前の仕事だろ。老いぼれ! あと、そこのお前もだ。俺のダンジョンに召喚されたんだからお前は僕の下部だ。休まずキリキリ働けよ」
状況は分からないが。良くない状況に陥っていることは間違いない。
働く事を強要される。俺が一番嫌なことだ。
そもそもここはどこなんだよ。悪い夢でもみてんのか?
そんな事を思った矢先だった。
【アラート! アラート! ダンジョンに侵入者が現れました。直ちに迎撃態勢に移行して下さい】
大音量が石造りの大広間の中に響いた。
……な、何が起こってるんだよ。
狼狽える俺に容赦なく肉ダルマは指を突きつけてこういう。
「おい、スケルトン。侵入者を蹴散らしてこい!」
「バカマ=ルダシ様。それは少々酷かと。スケルトンは最弱の魔物。多勢に無勢では勝ち目がないかと。おまけに召喚されたばかりでまだレベル1の状態ですぞ」
「じゃあ、どうすんだよ! このダンジョンにはそいつしか魔物がいないんだぞ!」
「はい。ですから何もせずにこのゲームからの投降をお勧めします。さすれば命までは取られないかと」
「嫌だ! 嫌だ! 嫌だ! 僕が最強のダンジョンマスターになるんだ。そして可愛い女の子を一杯集めてエッチなことをするんだ!」
「そんな下らない夢でしたら捨ててしまった方が吉かと。命には代えられません」
喚く肉まんじゅう。諭す紫ジジイ。呆然とする俺。
この空間は間違いなくカオスだった。
恐らくこの場で一番偉いであろう紫肉野郎は最早喚くだけの置物だ。
何の決定も下さないし命令の変更もしない。
俺に侵入者を倒せと命令してくるだけだ。
そして俺はそれをひたすら聞き流している。
ジジイは紫肉玉に諦めましょうと諭し続けることしかしない。
そしてその説得を泣きながら拒否してパープルミートボールは俺に何とかしろと言ってくる。
この永久ループ。
そして事態は進展しないまま、外からの来客を迎えることになる。