炎帝について。
炎帝は、生まれるとすぐに天に駆け上がった。本能に基づき、食事をするためである。
鳥や羽虫を食うためではない。彼の腹を満たしたのは、もっと大きくて温かみのあるメニューである。
炎帝が食らったのは、太陽。空に輝く巨大な恒星。炎帝はそれを丸のみにした。
当然、空は暗くなり、地上は凍った。人間は死んだ。動植物もすべて死んだ。
欲を満たした炎帝は、ゆっくりと地上を見下ろす。そこで、この世に生を受けて最初の感情が彼の中に発生した。
それは孤独感である。自分以外の生命体が一切いない。なんという恐怖だろうか。
炎帝はいくつかの凍った都市をドームで囲み、中を温めた。そして十分生命が生息しきれる気温になったところで、そこにお手製の「人間」を放り込んだ。
旧人類のようにやわではない、厳しい環境下でも生存できる、頑丈な人間である。炎帝はその新人類を六種類設計した。
武術型。
奇術型。
魔術型。
呪術型。
幻術型。
神術型。
以上、6種である。
それぞれには特有の肉体的性質を与え、それを用いて使用可能になる技術体系の基礎を教え込んだ。
技術を与えられた人間たちは炎帝庇護のもと、それらの技術を研鑽することで、太陽が天にあった時代の繁栄を目指した。
そうして、新時代の人間の生活は次第に豊かになっていった。
しかし、彼らには旧世代の人間が所持していたとある「モノ」が、使用できなかった。
それは、「火」である。
炎帝は人間の発展を支えるため、多くの助け舟を出したが、唯一、火の発生のさせ方と使用方法についての知識だけは与えようとしなかったのだ。
時は流れ、新たな世代の人間たちの社会が生まれた。経済が生まれると、同じ技術を持つもの同士が集まることで企業ができ、そこから六つの財閥が生まれた。これらは六大財閥、または六大企業と呼ばれた。炎帝は民衆が成熟するのに並行して、炎帝府を樹立すると、行政、立法、司法の制度を整えた。
人間は再び文明を取り戻した。人々は幸せになった。
しかし。
いまだ、火に関する技術は、炎帝が独占している。
人間たちは研究し続ける。
いつか自由に火を使える未来を夢見て。