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滝川の美学!

「ボクの正体?」

「左様」

「教えられるものなら教えてもらいたいものだね」


滝川はフッとキザな笑みを浮かべるとシャドウの顔面に蹴りを見舞って後退させると、自らは後方のロープに飛んで反動で高く舞い上がり、上空から彼の脳天目がけて手刀を打ち込む。しかし彼は腕を交差させることにより防ぐ。滝川はガードを崩そうと汗を流し歯を食いしばりながらも手刀に全身の力を集中させる。シャドウもさせないと腕に力を込めたので、両者はリング中央で膠着状態となった。

そのままの姿勢のままシャドウは妖しく金色の目を光らせ、滝川に行った。


「お前はカイザーの子孫であろう」

「どうしてそれが分かったのかな」

「一つはお前の素人離れした動きだ。格闘技の素人が俺を相手にこうまで渡り合えるものではない。それにお前の動きはスター流の流れを汲んでいる。お前は過去にカイザーから手ほどきを受けたことがあるのではないかな」

「だったらどうするのかな?」

「そうだとしても俺の使命は変わらない。お前を倒し、牢獄へブチこむ」


空いた掌で腹を目がけて殴ってくる滝川の拳を左腕で上の手刀を受け止めつつ、右手でキャッチし、怪力にモノを言わせてロープに放り投げる。だが滝川は再度ロープを利用して舞い上がると、踵落としを敢行。それを間合いを外して威力を分散させると、彼女の甲板にお返しとばかりに水平打ちを当ててマットへダウンさせる。

だが、滝川は彼の踏みつけによる追撃を寸前のところで回避し、間合いをとった。


「君はさっき一つ目と言ったけれど、ボクがお爺ちゃんの孫であると見抜いたのにはまだ何か理由があると思っていいのかな」

「無論だ。では、謎解きに戻るとしよう。

二つ目は血の味だ。お前の血の味はカイザーの味が濃かった。

俺はこれまで闘った者の血の味は決して忘れぬのでな。

奴の味がするお前は子孫ではないかと思ったのだ。

だが、俺が奴の子孫であると見抜いた最大の要因は動きでも血の味でも無い!」


彼はここで猛牛の如く強烈なタックルを滝川に浴びせると、続けざまに彼女の頬に肘鉄を食らわせる。思わぬ奇襲にモロに受けた滝川は口から真っ赤な鮮血を吐き出すものの、すぐにパンチを繰り出し反撃する。

しかしシャドウは拳を屈んで躱し、ガラ空きとなった腹に拳をめり込ませる。


「かはッ……!」


少女であろうとも一切の容赦をしないシャドウの本気の拳は、我慢強い滝川が呻き声を漏らし、体をくの字に曲げるほどの威力があった。


「ぐ……あああああッ」


腹を両手で抑え、目を大きく見開き顔中から血の気が引いていくのを見たシャドウは会話を再開。


「俺がお前をカイザーの子孫だと見抜いた最大の要因、それは――

友情に熱すぎるその性格だーッ!」


掌を握り合わせることによりハンマーを生み出したシャドウは、隙だらけとなった彼女の背に強烈な一撃を浴びせる。振り下ろされた鉄槌の前に滝川は両足から順にマットの上に倒れ伏す。


「滝川よ。祖父と孫、揃いも揃って友を思いやる実に下らぬ甘さの持ち主よ。

その甘さがあったからこそ、お前の祖父であるカイザーは先の闘いで俺の裏切りを見抜けず多くの仲間を失った。仲間を信じる? 仲間の為に命を張る? 全くもって理解できぬ」

「……それは、君に友達がいないからさ……ッ」


顔面から血を流し呼吸も荒くなりながらも、滝川は両腕に渾身の力を込め、乗せられたシャドウの右足をのけようと抵抗を試みる。

彼女の足掻きにシャドウは冷ややかに笑い見下しの視線を送る。


「仲間など俺には必要が無い。戦場では仲間を守る余裕など無いのでな。

足手まといの者がいても戦力が低下するのみ。何の足しにもならんよ」

「君にも心から分かり合える友達が出来れば、命を懸けても守りたくなるはずさ」

「フン、常に己の美しさを鼻にかけ傲慢な態度を取り続けているお前が仲間を語るとは笑止千万。その抵抗も見苦しい」


彼は滝川を軽蔑したかとでも言いたげな目で見下ろし、彼女の背中をグリグリと踏みつける。


「俺とお前の実力差は天地がひっくり返っても埋まることはないのだから、潔く諦めて牢獄へ入るがよい。さすれば、これ以上傷付かずに済む」

「今ここでボクが白旗を上げたら、ボクを信じて後を託したラグ君やメープルの想いを踏みにじることになる。それは、例えるならばバラに泥を塗るような――全く美しくない行為だ!

そんな卑怯な真似は、美しいボクには似合わないのさ!」

「口先だけは一丁前の小娘が。寝言は勝ってから言うが良い」


大きく足を上げ止めを刺そうとするシャドウに対し滝川は身体を反転させて仰向けになり、下ろされた彼の足を両手でキャッチし、それを捻り上げることによって体勢を崩させ、ダウンを奪うことに成功させる。

もう喋る力も無いと高を括っていたシャドウにとって、彼女の予想外の反撃は苛立つものがあった。


「小癪な。幸運が重なってたった1度俺からダウンを奪ったところで、お前に何ができると言うのだ。どの道、牢獄送りが僅かに伸びただけに過ぎん……」


だが滝川は彼の言葉が言い終わるよりも早く、全ての力を出してコーナーポストの最上段へと駆け上がるとクルリと彼に背を向け。


「ボクは最後の最後まで、絶対に諦めない!」


彼女は勢いを付けて空中で大きく弧を描いてムーンサルトプレスを炸裂させる。彼女が完璧な弧を描いて空中に舞うその姿はラグやメープルだけではなく、敵側である兵士達でさえもため息を漏らすほどの美しさを備えていた。シャドウは勝負を懸けた彼女に目を細めて。


「軽量級であるからこそできるムーンサルトプレスで勝負に出るか。

この技は超巨体を誇るお前の祖父では使いこなすことはできまい。

だがその程度の技で俺を倒せると思って貰っては思い上がりも甚だしい」


シャドウは両膝を揃えて落下してくる彼女の腹を串刺しにして悶絶させるとベアハッグに捉え、そこから彼女を逆さにして、鍛え上げられた脚力でもって天井に頭が付きそうになるほどの人間離れした跳躍を見せ、上空でパイルドライバーをかけ、超高速で落下していく。

轟音で放たれた一撃の威力は凄まじく、シャドウが技を解いた後も滝川の身体は倒立状態になっていたが、やがてぐらりと体が傾きリングに轟沈。白目を剥き、口から舌を出し完全に気を失っていた。

試合終了のゴングが鳴らされ、大きく腕を掲げ勝利を示したシャドウはラグとメープルにより介抱されている滝川を一瞥して告げた。


「滝川よ。約束は何の為にある?無論、守る為だ。

お前も戦士の端くれならば潔く己が指定した条件を飲み、牢獄へ入れ」


シャドウの言葉に滝川は無言で大粒の涙を流す。

その涙が試合に負けた悔しさか、友の期待を裏切ってしまった申し訳なさなのかは本人にしかわからない。

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