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川村の不安

滝川達が城の兵士達の配置を調べると言って連絡をしてから一日が経過した。彼女らの連絡を待っていた川村とミルフィーユは連絡が来ないことに不自然さを感じていた。

川村は落ち着かない様子で辺りを歩き回りながら、インカムを付けて腰を椅子に腰を下ろしているミルフィーユに疑問をぶつけた。


「ミルフィーユ殿、滝川殿達はなぜ一日経っても連絡を拙者らにしないのでござろうか」

「君も落ち着きがないね。一日連絡が来なかったぐらいで慌てることはないんじゃない? 大方、城の情報収集に時間がかかっているか、あるいは失敗して捕まったかのどちらかだよ」

「後者だとしたら、拙者達が助けに行かなくてはいけないでござるな」


けれどミルフィーユは川村の考えに難色を示した。

仮に捕まっていたとして自分達が救出に行き、三千人の兵士や魔王軍の幹部を相手に彼女達を助けられるとは思えない。

スターと一緒に行けば非常に心強いが、彼まで助けに向かうと道場には誰も人がいなくなる。

ミルフィーユは街で最近になって魔王軍配下の人物が多数の部下を率い、対抗する勢力の情報を集めるべく世界各地を嗅ぎ回っているとの噂を聞いた。

万が一、スター道場の存在を知られ自分達が滝川を救出に向かっている間に道場が占領されてしまう可能性もある。

スター道場の地下にはスター曰く「人間を爆発的に強くするエネルギー」を蓄えた貯蔵庫があるらしく、それを使用し所属している弟子達の力を高めているとのことだった。

彼女がスターから聞いた話によるとエネルギーは無色無臭の液体で、弟子達が食べるものに混ぜて少しずつ与えているとのことだった。

地下に行けるのは特別パスを持ったスターだけであり、それ以外の人間は入ることを許されていない。

その為ミルフィーユは話を聞いた範囲でしか情報を知らないが、スターがそれ以上は教えてくれないこともあってか気がかりになっていた。

もし仮に道場を占領され、スターがパスを渡してしまえば敵はエネルギーを摂取し放題になり、恐ろしく強力な軍隊が誕生してしまうだろう。

そうならないように自分達は待機しておいた方が良いと言うのだ。

彼女の考えも一理あったので滝川はソファに勢いよく腰を下ろしてため息を吐き出す。

そんな彼にミルフィーユは。


「彼女らに加勢したい気持ちはわかるけど、これが一番安全で確実な方法なんだから、今は連絡が来るまで耐えるしかないよ」

「……そうでござるな」

「でも、こうして何もせずに連絡を待つのも退屈だね。

そうだ、トランプでもしない?」

「拙者は遠慮するでござる!」


何故か少し強い口調で拒否する川村にミルフィーユは肩をすくめる。

その時、彼らのいる部屋のドアが開いてスターが入ってきた。


「君達、滝川ちゃん達から連絡は来た? え、まだ来ていない?

それなら一緒にテレビでも観よう。丁度プロレス中継が始まるところなんだ」


スターは二人の意見を聞かずテレビのスイッチを入れ、チャンネルをプロレス中継に合わせた。

そして川村の隣に腰を下ろし、彼の肩に手を回す。

番組が開始され、彼らの目に飛び込んできたのはラシック城内に作られたリングで睨み合う、滝川とシャドウの姿だった。

三人にとってまるで予想しないで出来事だったので全員驚愕したのだが、その中でも一番反応が大きかったのは川村だった。

彼は滝川がリングに上がってプロレスをするということも信じられなかったのであるが、それ以上に驚いたのがシャドウがテレビ画面に映っているという事実であった。

彼の姿を確認した川村の行動は速かった。素早く起き上がると壁に立ててあった斬心刀を手に取り、外へ出ようとする。


「川村君、何処へ行くつもりかね」

「決まっているでござろう! 敵討ちでござる!

裏切り者のシャドウだけは拙者がこの手で!」

「それは、ソフィアちゃんを殺されたからだね」


スターは足を組んで落ち着いた口調で川村に問いただした。


「当たり前でござろう! ソフィア殿だけではござらぬ、あの男は拙者の大切な友を大勢殺した大悪党でござる! その上、今度は滝川殿の命までも奪おうとしているのでござるよ! あの男だけは相打ちになってでも、拙者が殺めねば!」


語気を強める川村にスターは穏やかな声で言う。


「今の君は怒りと怨みで満ちている。それではシャドウ君には勝てない」

「お言葉でござるがスター殿、滝川殿は闘い慣れていないでござる。

シャドウと闘えば命を落としてしまうでござるよ」


以前のサラマンデスとの闘いを見ている川村にとっては不安だった。

滝川は一般人と比べるとプロ級と言えるほど戦闘力は高い。

しかしそれはあくまで一般レベルの話であり、川村達、超人レベルと比較するとまだまだ未熟な面がある。

実際にサラマンデスと闘っていた滝川は押され気味で、川村が加勢しなければ殺されていただろう。ましてや今回の相手はシャドウである。

シャドウは長い歴史を誇るスター道場の中でも三本の指に入るほどの実力者で、彼がまだ仲間としてスター道場に所属していた頃に川村は幾度も決闘をしたが結果として一度も勝利することはできなかった。

滝川が闘っていた紅騎士は川村の目から見て自分と互角かそれ以下の相手に映っていた。紅騎士はロディを倒したが、ロディは伝説と称される英雄達の中での実力の序列は最下位であり、特殊能力も持っていない。

サラマンデスが自分と同等の実力者だったとするならば、ロディが敗北するのは当然の結果と川村は考えていた。

ロディは非力を卓越した武器の腕でカバーしているのでサラマンデスと善戦できるが、滝川は見たところ接近の格闘術しか武器がない。

これでは剣や魔法を使えるサラマンデスと勝負になるはずがない。

それは川村が初めて彼女と出会った時のボロボロの姿から推測できた。

サラマンデスでさえそうであれば、彼より何倍も強いシャドウと勝負になるはずがない。

川村は個人的な敵討ちの他にそのような考えもあり、滝川の助太刀に向かおうとした。けれどスターはそれを制止し、更に言葉を続ける。


「確かにその可能性はある。だが、今回の件は彼女自身が言い出した結果だよ。自分で決めて選択したのだから自業自得と言う他ないし、それで周囲を巻き込んだということは、それなりの責任をとってもらわねば」

「スター殿……」


今回の件はスターの発言通り滝川が言い出したことであり、提案して実行した以上、失敗した場合はそれなりに責任をとってもらう必要はあった。シャドウに見つかり、こうしてリングに上がっているというのは誰が見ても侵入が失敗したことは明らかだった。

ここで自分が助けに行けば、滝川はこの先自分が失敗しても誰かが助けに来てくれると言う楽天的かつ甘い考えを持つ羽目になる。

それでは英雄にはなれないので、ここは厳しく接しなければならない。

テレビに表示された滝川が敗北した条件は『牢屋に入ること』とある。

シャドウはスターに絶対的な忠誠心を誓っていた。師の為なら平気で汚れ役を厭わないほどに忠誠を誓う姿にスターも絶大な信頼を置いていた。

二人は強い絆で結ばれている。そんな彼がなぜスターを裏切り魔王軍にいるのか川村にはわからなかったが、敵対はしてもスターの「約束を破ってはいけない」という教えに背く男ではないので、命は奪わないだろうが、滝川は地獄を味わう羽目になる。

最悪、シャドウにその気はなくとも滝川がシャドウの繰り出す技に耐え切れず惨殺される可能性だって考えられるのだ。

川村はスターの隣に腰を下ろし、食い入るように画面を見つめる。

勝てとは言わない。ただ生きてほしいという祈りを込めて。

試合開始はもうすぐだ。

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