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裏の裏

深夜に目が覚めた滝川達三人は、そっと宿を抜け出して古井戸へ向かう。

辺りを確認して誰もいないことを確かめると、彼らは古井戸を覗き込む。中に水は入っておらず下へ降りられるように足場が設けられていた。

滝川の合図により、彼らは人に見つからないよう細心の注意を払いながら古井戸の中に入っていき、一歩一歩階段を降りていく。全て降りた後に広がっていたのはトンネルを思わせる通路だった。作られてからだいぶ時間が経過しているのだろうか、壁には所々コケが生えている。

メープルは前を歩く二人より少し遅めに歩き、壁に触れて感嘆した。


「まさか井戸の中がこんな空間になっていたなんて驚きですね」

「広くて通りやすい作りになっていますね。でも、この通路は一体誰が何の為に作ったのでしょう? 城に何かあった時の脱出用なら異世界の言葉で場所を示したりしないはずですし……滝川様はどう思われます?」

「ボクはこの通路は城を誰かに奪われた時の為の反撃用に作ったんだと思う」

「反撃用、ですか?」


メープルが滝川の言った言葉をおうむ返しにすると彼女は頷き。


「そうでなければ皆にもわかるような言葉で書くはずだよ。

あくまでボクの推測ではあるけれど、この通路を作った人物は今回のような事態が起きることを、何らかの力を使って見越していた。

そして予想通りの出来事が起きても対処できるようにこの通路を作ったんだよ。

通路の場所を赤い文字で、それも日本語で書いたのもきっと場所が特定されたくなかったんだよ」


滝川の憶測を聞いたラグは腕を組んで歩みを進めながらも、府に落ちない顔をした。彼の表情を横目で見た滝川は何となく訊ねてみた。


「どうかしたのかな」

「もし滝川様の仮説が真実だとするならば気になることが二つあるのです」

「二つ?」

「まず一つは、この通路の生みの親はどうやって今回の事態を予測できたのか。そして二つ目は、なぜ異世界の言語である日本語で字を書くことができたのか……」


すると滝川はラグよりも先に歩みを進め、歩きながらその疑問に答えた。


「予測は予知能力を使えば容易にできるし、日本語で字を書けたのも、ボクと同じ異世界人で日本の出身か日本に留学経験があると考えれば説明が付く」

「ですが、この世界で予知能力を使える人間は極めて稀です。

この通路の状態からして数百年前に立てられたものとは考えにくい。

そうなると隠し通路はこの百年以内に立てられたものと考えるのが妥当でしょう」

「ラグ君、この世界に予知能力者が現れるのってそんなに珍しいことなの?」

「ええ、そりゃあもう。予知能力者が出現すれば世界がひっくり返るほどの偉業を成し遂げるでしょう。でも、それがどうかしたのです?」

「川村君から聞いた話だけど、先代魔王と闘ったカイザー軍の一人にソフィアって子がいたみたいだね。彼女は未来予知を使えたって川村君が言っていた。そしてボクのおじいちゃんは、この世界から見ると異世界人で、日本での留学経験があるから日本語の読み書きができるんだ。

そして、おじいちゃんとソフィアは上司と部下の関係。

つまり、ソフィアが未来を予知して隠し通路を設計し、出口の文字はおじいちゃんが書き記した……と考えるのは少し突飛な発想かな?」

「いえ。案外、それが歴史の真実かもしれません。今の仮説で考える全ての点で辻褄が合いますから。もっとも、確認する術はありませんが……」

「真実かどうか分からなくても、そうかもしれないと考えることでボクには希望が生まれたよ。もしこの道が本当におじいちゃん達が作ったものだったとしたら、ボクは期待に応えてみせる!」


拳を強く握りしめ鼻息荒く決意を固める彼女に、ラグとメープルは賞賛の拍手を送る。出口はもうすぐだ。


行き止まりの壁に辿り着いた三人は壁をスライドさせると、地図と同じように城の内部へと侵入できた。

深夜ではあるが宴でもしているのか、通路の先にはシャンデリアの明かりが煌々と灯っている。

ナルシスト美少女と少年執事、姫のトリオは兵士達に見つからないように階段を駆け上がりながら、城の作戦を司る参謀の部屋へと向かう。

部屋に侵入し参謀に催眠術をかけて拉致し、兵士の数や兵器の配置などを聞き出す算段なのだ。

ホテルのような大広間の階段を駆け上がり、同じような部屋ばかりが並ぶ場所へとたどり着いた。左右に全く同色同型の扉が並んでいるが、予め地図を持ってきた滝川達は迷うことなく参謀室を発見。

ラグとメープルが周囲に兵が現れないか警戒を強め、ドアノブを握って扉を開けて中へと突入する。

相手は文官であるため戦闘力は低い。自分とラグが二人がかりでかかればあっという間に捕らえることができるはずだ。

ところが部屋へ入った彼らを待ち受けていたのは、白いオールバックの髪に金色の瞳、白い軍服に身を包んだ長身痩躯の男だった。


「参謀長に用でもあるのかな、少年少女諸君」

「そうだ。君に用がある、参謀長!」

「参謀長? 生憎だが俺は参謀長などではない」

「!?」

「俺の名はシャドウ=グレイ、魔王軍最高司令官を務めている男だ。

表の表札だけを見て参謀長がいると信じ安易に突入する無謀さ、所詮子供の策など猿知恵に過ぎん」


不気味で低い含み笑いをするシャドウに滝川は動揺を隠せないでいた。

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