滝川の焦り
「ミルフィーユも仲間になったし、早速ラシック王国を取り戻しに行こう!」
メープルと決闘でボロボロになったミルフィーユと川村の前で滝川は握った右の拳を高々と空へと突き上げた。しかし三人の反応は薄い。
「フッ、君達はわからないようだね。こういう時はボクと同じように腕を上げて『オーッ』と言えばいいのさ」
「いえ……それはわかるのですが」
おずおずと切り出すメープルに川村が続けた。
「何の策も持たずに敵地へ突入するなんて自殺行為でござるよ」
「彼の言う通り。弱い癖に言うことだけは一丁前なんだね、君も」
三人は自分達の戦力と相手の実力を秤にかけて、今の自分達が不利な状況に置かれているのかを理解していた。人数がたった四人しかいない上に四人中二人は何の格闘技術も持たない素人である。如何に川村とミルフィーユが達人と言えども三〇〇〇を優に超える大軍相手では無謀としか思えなかった。
「滝川殿、折角スター殿の道場に来たのでござるからここは修行を重ねて力を付けてからの方が賢明でござるよ」
「修行なんかしていたらラシック王国を救うのに何年かかるかわからないだろう。それにボクは美しくて強いから何の問題もないよ」
いつも通りの滝川の回答に三人は顔を見合わせため息を吐く。
その様子に滝川はある提案をした。
「そんなに心配なのなら今回は突撃は控えることにするよ。
だけど敵の情報を知るのは作戦を立てる意味でも今後は大切になってくる。だから情報収集をしてくるよ」
「お一人でですか? 私も付いていきます!滝川さんお一人では心細いでしょうから……」
「メープル殿が情報調査をするのであれば、お主らは変装した方が良いでござるな」
「変装すれば捕まる確率も減るからね。私が手伝ってあげるよ☆」
幸いなことにお洒落好きのスターが道場に様々なサイズの服を取り揃えていたので、衣装を用意するのにはそれほど手間はかからなかった。
ミルフィーユが選んだ服装に着替え終わった二人は更衣室から出てきた。彼女達は二人とも肘や膝なのが擦り切れたボロボロの服を着ている。
「これでは美しいボクの魅力が半減しちゃうじゃないか」
「目立たない恰好をして正体を隠すのが変装なんだから当たり前だよ」
「それはそうだけど……」
「メープルは文句ひとつ言わずに着こなしているのに、君は文句ばかりだね。これではどちらが年上かわからないよ」
そう言われては流石の滝川も返す言葉がない。
唇をギリギリと噛みしめミルフィーユを睨みつけるしかなかった。
仮にここで言い返そうものなら年上として馬鹿にされるのは明らかだったからだ。
「君達楽しそうだけど、ファッションショーでもするつもりなのかな」
「スター殿!」
「暇だったからちょっとお洒落でもしようと思ってここに寄ってみたら君達を発見してね。それで、何をしているの?」
川村とミルフィーユから話を聞いたスターは難しい顔をして腕組みをした。
「本当にするつもりなの? 私としては心配だからあまり勧めたくないのだけれど……」
「あなたが何と言おうとボクの気持ちは変わらない」
だが、スターがそう言っても滝川の決意は揺るがなかった。
実は彼女の心の奥底には焦りが生まれていたのだ。スター道場には川村やミルフィーユなどの手練れが多く存在する。
対する自分はと言うと戦力でも知力でも全くメープルの力になれるとは思ってはいなかった。
これまでの旅でもロディに川村と助けられっぱなしであった為に、次第に自分は役に立たない無力な存在と僅かに思うようになってきたのだ。
メープルは自分と同じように両親を殺され悲しんでいる。
同じ境遇である彼女は何としても助けてあげたい。力になりたい。
そして彼女の役に立つことで自分は無力な存在であるというマイナスの思い込みを払拭したいという考えがあったのだ。
滝川は口にこそ出さなかったものの、その瞳でもって熱意をスターに訴えた。スターは彼女の眼差しからその気持ちの強さを察し、その想いを尊重することにした。
「君がそこまで言うなら止めないよ。でも万が一のことがあっては危険だから私の執事をお供に付けてあげよう」
スターが指を鳴らして少し経つと、彼らの元に一人の少年がやってきた。
オリーブ色のオールバックにアンテナの付いたヘッドホンを耳にかけ、巨大な赤い蝶ネクタイと純白のスーツに同じ色の靴というド派手な格好をしている。
「紹介しよう。私の執事を務めているラグ君だ! 可愛いだろう?」
ラグと呼ばれた少年は丁寧にお辞儀をして。
「滝川様とメープル様。未熟者ですがお二人を一生懸命サポートしますので、どうぞよろしくお願い致します」
「君の態度は心地がいいね。気に入ったよ。これからよろしく頼くね」
「はい! 滝川様!」
瞳をキラキラと輝かせて素直に喜びを表現するラグの態度を滝川はとても気に入り、ラグをお供として加えた二人はラシック王国へと急いだ。




