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川村の師匠、登場!!

滝川と川村は新たにメープルという仲間を加え、ラシック王国をサラマンデスの支配から解き放ちロディを蘇らせるべく旅を再開した。


「川村君、今度の目的地はどこなのかな」

「拙者の師匠の道場でござる」

「師匠? 君の?」


滝川は川村はこれまで独力でモンスターを倒せるほどの強さを身に着けたと思っていただけに彼に師匠がいるという事実に驚きを隠せなかった。


「師匠は君と同じで獣人なの?」

「違うでござるな。師匠はお主と変わらぬ人間の姿をしているでござる」

「なんというお名前の方なのですか」

「スター=アーナツメルツ殿と言う方でござるが、メープル殿は聞いたことがないでござるか」

「スター=アーナツメルツ! 昔、スター=アーナツメルツと言う数多くの英雄を育て上げた闘いの神様と謳われる伝説の格闘家がいるということを本で読んだことがありますが、川村さんがその方に教えを受けていたなんて感激です!」


瞳をキラキラと輝かせ尊敬の念を抱くメープルに川村は苦笑いをした。

彼女の言う通りスターは自分達一三人に修行を着けて世界を守れるほどの力を与えてくれた男ではある。

彼が闘いに関しては右に出るものは未来永劫現れないと言われるほどの人智を超えた天才であることは間違いないであろう。

けれど人間としては必ずしも尊敬できる人物とは言えず、それどころかできれば会いたくない人に分類される男だった。それでもこうして彼の元へ足を進めているのは人格に問題だらけだったとしても確かな指導力があるからに他ならない。

本来の目的地であるラシック王国からはどんどん離れ、来た道を戻る羽目になっているのだが多少遠回りになったとしても、王国を救いロディを蘇生できる可能性が高い選択肢を選ぶべきだと考えたのだ。

足を進め師匠の道場へ近づくにつれ、トラウマと呼んでも過言ではないほどの過去が蘇り、自らの呼吸が荒くなるのを感じずにはいられなかった。


「どうしたの? なんだか顔色が悪いみたいだけど」

「何でもないでござるよ」


川村は苦笑いをして誤魔化したが、心の中は不安で仕方がなかった。

初めて出会った日に自分が女顔で悩んでいるということを見抜くほど察しの良い滝川のことだ。きっと自分の気持ちを見抜いているに違いない。それでも詮索してこないのは拙者の身を案じてのことなのだろうか。心の中で考えている内に、とうとうその建物に到着してしまった。

川村は二人に気づかれないように小さくため息をついて言った。


「お主ら、ここが拙者の師匠、スター殿の道場でござる!」


スターの道場は寺院のような如何にもな建物ではなく、滝川の世界には都会ならどこにでもありそうな高層ビルだった。

山の頂にそびえ立っている巨大ビルを眺め、滝川は耐震性が心配になったが、いつまでも見上げている訳にもいかないので、川村の案内でまずは中へ入ってみることにした。

入り口は自動ドアで彼らが近づくとスーッと静かな音を立てて開いた。


「うわぁ……!」

中に入った滝川はその光景に圧倒される。三十五階建ての道場の一階は受付になっているのだが、その受付場は床はピカピカの大理石で作られており、天井からは温かい照明の光が優しく彼女を包み込む。

まるで受付場というよりはホテルのロビーのようだ。


「凄いね! ここが道場だって言ってもきっと誰も信じないよ!」

「師匠はお洒落好きでござるから、従来の道場のような旧式の建物ではく、自動ドア、エレベーター、冷暖房付きの近代的な道場にしたのでござるよ」


受付を済ませた川村は二人を連れてエレベーターに乗り込む。そのエレベーターの中は普通サイズの三倍はあり、壁や天井、床にボタンに至るまで全て黄金で作られていた。


「師匠はこのビルの最上階にいるのでござる」

「これほど派手なエレベーターは私の国でもありません……」


ど派手過ぎるエレベーターの内装に、流石にメープルも冷や汗をかいて引きつった笑みを浮かべている。

エレベーターは止まることなくどんどん上昇していく。


「川村君の師匠がどんな人なのか楽しみだね。まあ、ボクより美しい存在はこの世にいないけど」


何処から取り出したのか不明のバラを口に咥えて目を瞑り、ニヒルな笑みを浮かべてポーズを決める滝川と嬉しそうに拍手をするメープルの二人を横目で見て、川村は大きなため息を吐き出した。

この二人を連れてきて本当に大丈夫だったのだろうか。

師匠にあったらどんな顔をするのか、これから先が思いやられる。






「やあ! 川村君、久しぶりだねえ! また会えて嬉しいよ!」


最上階で滝川達を出迎えてくれたのは金髪碧眼の紳士だった。身長は一九〇センチ近くあり、高級感の漂う茶色の三つ揃えのスーツを着こなし、赤いネクタイを締めている。顔には張り付いたような陽気な笑みを浮かべている。


「スター殿、拙者も会えて嬉しいでござるよ」

「ええっ!?」


滝川とメープルは驚愕した。如何にも経営者のような雰囲気を出していただけにとても武術をしている人間とは思えなかったからだ。

それを聞いた彼は高笑いをして。


「君達が驚くのも無理はないね! 私はいつも本当に格闘技をしているのかと疑われることが多い! でもそんなことは気にしない! 他人の評価なんて気にするほど私は暇じゃない! おっと、川村君がきたんだ、いつもの川村分補給を忘れていた!」

「川村分補給?」


何を言っているのかわからず首を傾げるメープルと滝川にウィンクをすると、いきなり川村をぎゅっと抱きしめ、抱え上げた。


「これが川村分補給だよ! 私は彼が来るたびにこうしているんだ。

彼は可愛いからね。おまけにいい匂いだ」

「スター殿、放すでござるよ」

「もう少し待って。癒されたいから」

「お主、何をしているでござるか!?拙者は男でござるよ」

「私はね、可愛い子は男の子でも女の子でも大好きだよ!」


暫くの間、川村はスターにされるがままになっていたが、ようやく解放されて地面にぺたりと腰を下ろした。その顔は憔悴しきっている。


「ところで君達は弟子入り希望者かな」


川村から視線を逸らして今度はメープルと滝川に目を移した。

まさか自分達もあのようなことをされるのではないだろうか。

二人は背筋に冷たいものを感じながらも、次に彼がどのような行動をするのか警戒していた。

彼はデスクに向かうと置いてある巨大な透明の箱に入っているゴルフボールほどもある飴玉を右手で二個掴んで取り出すと、二人に近づき、それぞれ一個ずつ滝川とメープルに飴玉を渡した。


「川村君と一緒に来たということは何か私に重大な用があって訊ねてきたに違いない。その理由はこれから話してもらうけど、その前にこのキャンディーを食べてごらん。とっても美味しいから!」


勧められるがまま、彼女達はキャンディーを口に入れて、ゴロゴロと転がす。


「ゆっくり舐めていいからね。おっと! 大事なお客さんなのに水も用意せずに済まなかったね。

まずはそこのソファに腰かけて!お水はすぐに執事に持ってきてもらうから!」



ソファに腰かけた川村、滝川、メープルの三人はスターと向き合った。


「それで、私の所へ来たのは何故なのか教えてくれないかな」


彼の問いかけに三人はこれまでの顛末を話した。


「成程、ロディ君は戦死したのか……彼は少し無鉄砲だったけど良い教え子だった。

彼を生き返らせる為に、そしてメープルちゃんの国をサラマンデスとかいう魔王の手先から取り戻す為に私と弟子の力を貸してほしいと言うんだね」

「スター殿、この通りでござる! 拙者達に力を貸してくれないだろうか」

「お願いします!」

「ボクからもお願いするよ。ロディはボクにとってこの世界で初めてできた友達で命の恩人なんだ!」

「そこまで言うならわかったよ。ロディ君も川村君も私の教え子だし、こうしてわざわざ遠くから来てくれたのだから、師匠としてできる限りのことはしてあげよう」


スターは立ち上がり、机の引き出しの中から百科事典ほどの分厚い本を取り出してきて、電話と一緒に川村達のいる机に置いた。


「この本はなんだい?」

「これは弟子のデータファイルだよ。私がこれまでに教えた弟子達の個人情報や電話番号が全て掲載されている。これを使って君達に協力してくれそうな弟子を探してみるよ」


早速スターは電話帳のページを捲り、一人ずつ順番に電話をかけ始める。


「もしもし。スター流創始者にしてスター道場の師範を務めるスター=アーナツメルツですが、教え子の〇〇はおりますでしょうか。

久々に電話をかけて真に申し訳ないのですが、少し協力してほしいことがありまして……」


ところが協力者を探すのは難航した。

何しろ彼が特別可愛がっていた川村を含む一三人の弟子は、裏切り者と封印された男、そして川村を除いて全員死亡していたからだ。

それ以前やその後に育てた弟子達も音信不通や病死している者ばかりだった。

彼は電話をかけた弟子達を赤ペンで一人ずつ名前を消していく。

三分の二に電話をかけ終わった彼は額に手を当てて深刻な顔をする。


「参ったねぇ。これまでで一人も協力してくれる人がいないとは……

こうなったらアレしかないようだね」


スターの発したアレという単語に真っ先に反応したのは川村だ。

瞳の瞳孔が縮んでおり、額には汗が浮かんでいる。

滝川は川村の様子にスターがただ事でない何かを考えていることを察した。そうでなければ冷静沈着な川村がこれほどまでに動揺することなどないからだ。


「お主、まさかアレをするつもりではござるか!?」

「おや。君には私が何を考えているのか察しがついたのかね」

「この状況でお主が考えそうなことは一つしかないでござるからな」

「何だと思う?」

「……あの男の封印を解く気でござろう」

「ピンポン、ピンポン! 大正解♪」

「お主、気は確かでござるか!

拙者達がどれほど苦労してあの男を封印したか、お主もよく知っているでござろう」


二人との間で交わされるやりとりに滝川とメープルは呆然として見守ることしかできない。

声を荒げ、目を吊り上げ、明らかに怒りを見せる川村とは対照的にスターは涼しい顔で告げた。


「あの時のことはよく覚えているし、片時も忘れたことだってない。

でもね、弟子達が協力してくれない事実があるのだから、彼を復活させた方が手っ取り早くていいじゃないか」

「今の言葉を戦死した仲間が聞いたら、自分達の苦労を水の泡にするつもりかと怒るでござろうな!」

「君達が協力してほしいと言っているから私もできる限り協力をしてあげようとしているのに、その言い方はないんじゃないかな」

「拙者は今の言葉を撤回する気はないでござる。誰が何と言おうと、あの男を蘇らせるのだけは拙者は反対するでござる!」


封印されし謎の男の封印を解くか否かで川村とスターは真っ向から対立することとなった。


「封印を解いた方がいい。そうすれば我々の勝ちは揺るがないのだから」

「ダメでござる。あの男の封印を解いたら最後、世界が滅びるでござる」

「それはわからないよ。流石の彼でも師匠である私の言うことは聞くはずだ」

「カイザー殿ならいざ知らず、お主の言うことを聞くとは到底思えないでござるよ」

「大丈夫だよ。彼は強い者の言うことなら何でも聞くから」

「ただ強いだけでは駄目でござるな。心も優れていなければ」

「君は私が人間として優れていないと言いたいのかね」


テーブルを挟んで向かい合う二人の間に静かな火花が散る。

メープルと滝川は彼らが何を話しているのかあまり状況が掴めずに困惑していた。

それにスターとここで対立してしまえば貴重な協力者を失う可能性も出てくる。

そう考えた滝川は単刀直入に疑問をぶつけてみた。


「君達の言うあの男という人がどういう人物で、どうして封印されたのかボク達は全く知らないから話が把握できないんだ。ボク達にもわかるように彼のことを教えてくれないかな」

「どうやら川村君は彼のことを君達に全く教えなかったようだねえ」

「拙者にとってあの男は恐怖以外の何物でもないでござらぬからな」

「宜しい。では川村君に代わって私が話してあげるとしよう。

あの男のことを」


スターは前屈みになり手を組むと、そのキラキラと輝く青い瞳で滝川とメープルを見つめ、ゆっくりとした口調で封印された男について語り出そうとした、その時である。


「会長さん、ただいま!」


勢いよくドアが開いて入ってきたのは、鮮やかな瞳に艶のあるツインテールの栗色の髪、黄色い中華風の服に身を包んだ小柄な美少女だった。彼女を見たスターは微笑み。


「お帰り、ミルフィーユちゃん。丁度良いところに来たねえ。

実は君に協力してもらいたいことがあるんだ」

「協力してほしいこと?

するする! 会長さんのお願いならなんでも聞いちゃうよ!

ところでそちらの人たちは誰なの?」


スターはミルフィーユに滝川達のことを話すと、彼女は喜んで協力を申し出た。


「ミルフィーユ=ガレットです! 会長さんの一〇〇八番目の弟子! よろしくね☆」


横ピースをして自己紹介をする彼女に、川村は怪訝そうな表情をする。


「お主、拙者達の目的はラシック王国を紅騎士から取り戻すことでござる。その為には三〇〇〇人もの王国の軍隊と闘わねばいけないのでござるよ。お主はそれをわかっているのでござるか?」

「勿論!」


自分の胸を勢いよく叩いた拍子に彼女は少しせき込んだ。

それを見て川村はますます顔中に不安を表す。


「スター殿。失礼な言い方でござるが、拙者から見てこの娘こはあまりにも頼りなさそうでござる」


ミルフィーユ=ガレットは童顔で背丈もあまり高いとは言えない。

猛者が大勢いるスター道場の門下生としてはかなりの小柄で、その幼い口調からも、川村からはお世辞にも頭が良いとは見えなかった。

するとガレットは思いきり頬をぷうっと膨らませ、川村を指差し。


「そこの君! 私をそんな風に決めつけるなんて失礼だよ!

そりゃあ君と比べると私はずっと年下で新入りかも。

でもだからと言って実力も見てないのに勝手に弱いと決めつけるのは心外だよ。大体そう言ったら君だって年齢は四百歳ぐらいかもしれないけど、外見は子供じゃない? 人のこと言える立場とは思えないよ!」

「……ッ!」


彼女の発言は的を射ていたので川村は言い返すことが出来なかった。


「私はこれでも二十三歳なんだよ」

「二十三!? どう見ても中学二年生ぐらいにしか見えないけど……」

「えへへ、よく言われるよ。ロリッ娘は正義だね☆」


可愛らしくウィンクをして再び横ピースを決めるミルフィーユ。

そんな彼女の態度にどうしても我慢できなかった川村は、斬心刀を引き抜き、その剣先を彼女の喉元に突きつけた。彼の瞳は鼠を襲う猫の如く鋭い殺気に満ち溢れていた。


「お主の軽い態度、許しておく訳にはいかぬでござる!」


ミルフィーユは恐れるどころか逆に侮蔑の視線を送り、口元に小さな笑みを浮かべて言った。


「無防備の相手に武器を使おうとするなんて、君って結構大人げないんだね」

「もう許せぬ! 覚悟するでござる!」

「待ちたまえ」


一戦触発の空気を制したのはスターだった。


「川村君、そんなに彼女の事が信用できないのなら、闘ってみる?」


師の言葉に少し冷静さを取り戻したのか、川村は刀を鞘に納め。


「望むところでござる」

「ミルフィーユちゃんはどうかな」

「あっちがOKだったらこっちもOKだよ」

「決まったね。じゃあ、バトルフィールドに移動しようか」


席を立ってエレベーターに向かって歩き始めるスター。

置いて行かれては困ると滝川とメープルも後に続き、その後ろから睨み合いをしながら川村とミルフィーユが付いていく。


「スターさん、封印された男の話はどうなったの?」

「アレはミルフィーユちゃんが来たから話す必要がなくなった。

それに私としても彼のことはあまり話したくないからね」

「そうなんだ……」


滝川はうまくはぐらかされたように感じたがスターも話したくないようなので無理に訊くのは良くないと考え、これ以上詮索しないことにした。

それにしてもミルフィーユが仮に仲間に加入したとして、川村と仲良くできるのだろうか。後ろを振り返り、無言の激しい睨み合いを続ける両者に滝川は冷や汗をかいた。

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