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少女の素性

頭巾を頭から外すと中から現れたのは、淡い金髪に白い肌の美少女だった。川村は懐からミニサイズにしたテントを取り出し、それを魔法で巨大化させる。

物質の縮小化と巨大化はスカルーボから習い受けた、川村ができる唯一の魔法なのだ。

元通りの大きさに戻したテントの中に滝川はお姫様抱っこで少女を運び込み、枕を頭に当てて布団を被せて寝かせておく。

その前に脈を測り心音を聞いてみたが異常は見られない。外傷もないためモンスターなどに襲われたわけはないらしい。そこから滝川と川村は空腹もしくは疲労で倒れたのだろうと憶測し、近場にある水辺で水を、元来た道をほんの少し戻って桃をとってきて、食べやすい大きさに斬り、皿に盛りつけておく。

その後は交互に敵が襲ってこないかどうかテント外の監視をしつつ、彼女の回復を待つ。

それから何時間が経過しただろうか。空が夕焼けになった頃、少女は薄らと黒い瞳を開けた。


「ここは……?」

「目が覚めたようだね。よかった」


彼女が目を覚ましたことに、滝川と川村は心から安堵する。そして不安の色を見せる彼女に自己紹介をして敵意がないこと、旅の目的、倒れている彼女を運んだことを伝えた。

二人の話を大人しく聞いていた彼女だが、話が終わるとぺこりと頭を下げて。


「滝川さん、川村さん。

危ない所を助けていただき、本当にありがとうございます。

あの……私にできることがありましたら、なんでも言ってください。

助けていただいた恩を返したいのです」

「お礼なんていいよ。困っている人を助けるのは人として当然だからね」

「でも!」

「君の笑顔が見られるだけで、ボクは他に何もいらないよ」


少女の瞳から流れた涙を指で拭き取り、優しい笑顔を見せる。滝川の優しさに心打たれたのか再び泣き出す彼女に、今度は川村がハンカチを差し出す。それを受け取っても暫くは泣いていた彼女だったが、やがて泣き止み立ち上がると、優雅な動作で一礼して自己紹介をする。


「私はラシック王国元王女、メープル=ラシックと申します」

「王女様とは知らなかったでござる。お許しくだされ!」


彼女が王女と知るや否や、川村はいきなり土下座をして謝罪した。一国の女王を名乗る相手に対等な態度をとったことが礼儀を重んじる彼にとっては許せなかったのだ。

けれどメープルは怒るどころか微笑を浮かべ。


「どうか頭を上げてください。私はこのような恰好ですから気づかないのも無理はありません。それに今は王女ですらないのですから」

「王女じゃない? どういうこと?」

「滝川殿、王女様に対して頭が高いでござるよ。敬語を使うでござる」

「美しいボクは権力さえも超越するのさ」

「自惚れもここまでくると手の施しようがないでござる!」

「ありがとう。よく言われるよ」


二人のやりとりが面白かったのだろうか彼女は何も言わずに眺めていたが、彼らの口喧嘩が終わると滝川の疑問に答えた。


「滝川さん、あなたは先ほど私が王女ではないことに疑問を持っていましたね。その訳は、私の住む国ラシック王国が魔王軍の四銃士の一人である紅騎士サラマンデスに乗っ取られてしまったからなのです」

「乗っ取られた!?」

「サラマンデスにでござるか!?」


女王は頷き、これまでのいきさつを語って聞かせた。

平和に暮らしていたラシック王国に魔王軍のサラマンデスが強襲をかけてきた。

世界の支配者である魔王とラシック王国は友好的な関係を築いており、怒りを買った覚えはなかった。

襲撃に遭った影響で兵士の半数近くを殺害され、残った兵士は恐怖などもあってかサラマンデス側についたこと。サラマンデスを説得しようと試みたメープルの両親、即ち王と妃は殺害され、彼女も国を渡すように迫られ、両親の遺体の冷凍保存と国民を戦争に巻き込まないことを条件に国を渡して逃げてきたこと。それらを一気に話し終えると、彼女はこれまでの疲れもあってか布団に倒れ込む。毛布を握る彼女の指先は恐怖を思い出して震えていた。


「私は国を売った情けない王女と言われるかもしれません……

ですが、私は必ず国を、国民をサラマンデスさんの手から取り戻してみせます!」


メープルの話を聞いて滝川の心に一つの決心が生まれた。

彼女を助けたい。

ラシック王国は旅の目的地でもあるし、支配されている状況下ではスカルーボに会ってロディを蘇生してもらうのも難しいかもしれない。

それに、両親を殺されたと言う点はボクと同じだ。

生来の困っている人を見捨てておけない正義感に加え、自分と同じ境遇である彼女を見捨てることは出来なかった。

気が付いたら、無意識のうちに彼女は口を動かして、こんなことを言っていた。


「大丈夫。ボク達が必ず君の国を救ってみせる!」







メープルが寝静まったのを確認して、川村達は外で寝転がって満天の星空を眺めながら会話をする。


「大見得を切って大丈夫でござったか」

「当たり前だよ、ボクに不可能はないからね」

「お主はラシック王国の軍が何人いるか知らないからそういう無謀な発言ができるのでござるよ」

「何人ぐらいなの? 一〇〇人ぐらい?」

「五〇〇〇人でござる」

「ご……」


予想していた数字を遥かに上回る人数が川村の口から飛び出したので、滝川はこめかみに冷や汗をかく。


「まあ、これは紅騎士に征服される前の情報でござるがな。拙者もスカルーボ殿に弟子入りしてあの国で暮らしていたからそれぐらいはわかるでござる。もっとも先ほどのメープル殿の話だと半数は殺害されたようでござるから現在は三〇〇〇人ほどでござろうか。

それでも拙者ら二人で突撃するのは無謀過ぎる数字でござるがな。

どうでござるか、途方もない数字を聞いてもなお、お主は拙者と突撃するでござるか」

「じゃあボクらはどうすればいいのかな」


川村は悪戯猫のようなニンマリとした、可愛らしくも小悪魔の如き悪意の滲み出た笑みを浮かべて答えを告げた。


「紅騎士の軍勢に対抗できる仲間を集めるのでござる。拙者に心当たりがあるから、明日にでも出発するでござるよ」

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