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扉の先には

「太陽よ!ボクは日焼けしたくない!」


灼熱の砂漠の中心で天へ向かって叫び声をあげる一人の少女。


彼女の名前は滝川麗たきがわれい


ほんの二時間前までは平和な日本で青春を過ごしていた、高校二年の女の子だった。


フランス人の母親から受け継いだ透き通るほど白い肌に艶やかな金色のロングヘアと切れ長の青い瞳。高身長で中世風の青い軍服を模したコスプレ衣装を着ているその姿は、少女漫画に登場する男装の麗人そのものだった。


滝川は現在、広大な砂漠の中を彷徨っている。


幼馴染の佐藤少年とお化け屋敷に来て迷い込み、彼女はお化け屋敷の中にあった光る扉を潜り抜けた。


すると光の扉はどういう訳か砂漠に繋がっていたのだ。


扉はすぐに粒子となって消えてしまったので、自力で帰るしかない。


想いのたけを太陽に向かって叫んだら、気持ちが僅かに楽になった。


そのときである。


遠くに集団らしき人影を発見した。


(あの一団に気づいてもらえれば助かる!)


一縷の望みをかけ、ありったけの力で叫んだ。


「そこにいる人々よ! 砂漠で遭難した哀れなボクを助けてくれ!」


声に気づいたのだろう。


集団が少しずつ接近してくる。


けれど滝川は知らない。


その集団がオークの群れであったことを。


「おい。人間が手を振っているぞ。自分から居場所を教えるとはバカな奴だ」


白いモヒカンが特徴のオークのリーダーは、意地の悪い笑みを浮かべた。


彼らは砂漠で遭難した人間から略奪をして生きている。


つまり滝川は恰好の鴨なのだ。


大きな足音を立て獲物との距離を詰め、仲間と協力して彼女を円で取り囲んだ。


滝川も彼らの明らかに人間と異なる姿を目の当たりにしてやっと、彼らがオークでここが異世界であることを悟った。


「君達、ボクを取り囲むとは手荒だね。そこまでしてボクのサインが欲しいのかな」


「お前のサインなど誰が貰うか。命が惜しければ金目のものを置いていけ」


「今は何も持っていないんだ」


「それではお前の肉でも頂くか。お前達、始末しろ」


一斉に九体のオークが武器を手に取り襲い掛かる。


彼女はオーク達の手に連続蹴りを見舞って全員の武器を落とす。


足のリーチが長いからこそできる芸当だ。


「テメェ!」


思わぬ抵抗に怒りを示し大斧を振り上げるリーダー。


それを華麗なステップで躱すと真上に跳躍。


リーダーの頭部に踵落としがめり込み、彼はそのままKO。


「さらばだ諸君! 命は大切にするんだよ」


気障な台詞を吐いて呆気にとられるオーク達を他所にその場を去る。


滝川は街を目指し歩き続ける。




辛くもオークから逃れた滝川だったが気力も体力もつきかけていた。


水も食べ物も摂らずに歩き続けて早二日。


平和な日本で暮らしてきた彼女には、あまりにも過酷な環境。


それでも歩みを止めなかったのは元の世界に帰って、愛するパパとママ、佐藤に会いたかったからだ。


「水……水を……」


声を振り絞って水を求めるも、通る人はおらず。


生えているサボテンに噛みつき水分を得ようとするも、刺で口を切って血が砂の上に落ちるだけ。


食べ物を求めても辺りには砂とサボテン以外は何もない。


「サボテン君。君には悪いが少し傍で休ませてくれないか。もう一歩も動けないんだよ」


自嘲的に笑ってサボテンの傍に腰を下ろす。


「助けはこない。ボクはこのまま死ぬのだ。こんなに美しいボクを見捨てるなんて、天は残酷だね」


髪は汗でベタ付き、服や顔は埃だらけ。


それでも彼女は自らの美しさに対する誇りを失ってはいなかった。


「せめて最後にお風呂に入りたかった……」


するとその願いが通じたのだろうか。


空に黒雲がたちこめ、砂漠に雨が降り出した。


半ば気を失っていた彼女は自分の身体が濡れる感触に青い瞳を開ける。


「ああ、天の恵み。冷たいけれどありがたい」


雨はその後も降り続け小さな池というオアシスを誕生させた。


滝川は四つん這いで池の水を飲む。


ついでに埃だらけの顔も洗うと、彼女の顔に生気が蘇る。


ふと先を見ると、僅か一キロほど先に森が広がっていた。


何もない砂漠と森では、川も木も果物もある森が遥かにマシである。


彼女はすっかり元気を取り戻し森へ入っていく。


その様子を上空から眺めている一人の男がいた。


緑の瞳に青白い肌。


背中に生えた一対の蝙蝠の如き翼。


龍を模した赤い甲冑姿は騎士を彷彿とさせる。


男は滝川が森へ入ったのを確認し、一人呟く。


「あの者はこの世界の人間ではない。我が主に報告せねば!」





「さっさと入れ!」


滝川は背中を蹴飛ばされ、牢屋に強引に入れられた。


「ボクはこんなところに入るべき人間じゃない!」


「文句を言うな」


「嫌だ! ここから出してくれ!」


だが非情な保安官は滝川の訴えを無視して去っていく。


一人残された彼女は、暗闇の中泣き崩れることしかできない。


なぜこんなことになったのか。


話は三時間前に遡る――




「なんて清々しい空気だろう。砂漠とは大違いだ」


砂埃のない新鮮な森の空気の気持ちよさに感動しながら、滝川は森を歩く。


真っ直ぐの道は綺麗に整備されておりとても歩きやすい。


(ちゃんとした道があるのだからこの先には人が住んでいるはずだ)


確信した滝川は食事を恵んでもらうべく自然と足取りも早くなる。


暫く歩くとりんごの木の下で一生懸命背伸びをしている女の子を発見する。


五歳ぐらいで赤い頭巾と眼鏡が特徴の可愛らしい子だ。


手には沢山の果物が入ったカゴを持っている。


その様子からするとリンゴを取りたいらしい。


「君! どうかしたのかな」


「リンゴをとって病気のお母さんにあげたいの。でも届かなくて」


「ボクに任せて」


滝川は木にぶら下がったリンゴを掴むと、それをもぎとり少女に渡す。


「どうぞ」


「お姉ちゃん、ありがとう!」


「君が喜んでくれてよかったよ。じゃあ、お母さんをお大事にね」


「うん!」


女の子は頷き、嬉しそうに小さな足で駆けていく。


それから数分が経ったとき、遠くから悲鳴が聞こえてきた。


悲鳴は紛れもなく先ほど出会った少女の声だ。


嫌な予感がした滝川は声がした場所まで急いだ。


すると案の定、緑色のゴブリンが少女の行く手を塞いでいた。


「小娘、その果物を渡しな」


「これはお母さんにあげる果物なの、だからダメっ!」


目に涙を溜めて身体を震わせながらも、彼女は自分の意思を伝える。


だが醜悪なゴブリン達は彼女の意思を無視して強引にカゴをひったくり、果物を奪う。


「返して!」


「うるせぇ!」


幼女は水たまりに突き飛ばされ服を泥で汚される。


息を切らせてその場に辿り着いた滝川はその光景を目の当たりにして、ワナワナと拳を震わせる。


そして、女の子とゴブリン達との間に割って入る。


「その子の果物を返せッ」


唸りを生じた右の鉄拳がりんごを持った小鬼に命中する――


と思いきやそれはあっさりと躱され、逆にボディーブローを見舞われる。


「……ッ!」


声にならない声を上げ腹を抑える彼女を肘打ちで地面に倒し仲間と共に彼女を滅多蹴りにする。


「お姉ちゃん!」


少女が心配して駆け寄ろうとするが、滝川は強い口調で。


「近づいちゃだめだ、ボクはいいから君は早くお母さんの所へ!」


「でも――」


「早く!」


滝川に促されるままに少女は逃げる。


「獲物をそう簡単に見逃すかよ」


逃げる少女を追いかけようと一体のゴブリンが足を踏み出す。


けれどその足を滝川が必死で掴んで離さない。


「しぶとい奴だ。さっさと離しやがれ!」


「お断りだね。君を彼女の元へ行かすものか!彼女の笑顔はボクが守る!」


「くたばりぞこないがカッコつけやがって。生意気だ」


ゴブリン達はこん棒で滝川を殴りつけた。


鈍い痛みが体を貫き、皮膚が裂け、流れる血が服を真紅に染める。


口から血を吐き、服を汚され、激痛を味わいながらも、滝川は決してゴブリンの足を離さない。


「見ず知らずの赤の他人の為に痛い目に遭うとはモノ好きだ」


攻撃を続けながら嘲笑うゴブリン達。


彼らの言葉に滝川の青い瞳が輝く。


「あんなに小さな子が一生懸命になって集めた果物を平気で横取りする、君達の腐った性根がボクは大嫌いだ!」


「何を言おうがただの負け犬の遠吠えに過ぎない。いい加減にくたばりやがれ!」


止めの一撃を与えるべく他の者と比べて体格が一回り大きいリーダーが、こん棒を振り上げた。

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