第8話 北方ダンジョン
今回はほとんど説明みたいなものですみません。
翌朝、一昨日から続く疲労のせいか、昼頃に目を覚ましたルリカはギルドに寄ってから早速地下ダンジョンに向かうことにした。旅の費用を稼ぐにはダンジョンで大量にモンスターを討伐して換金する他ない。
AAランクという肩書がルリカという存在を畏怖の対象にしてしまい、昨日の勧誘も全て蹴った為か皆距離を置いていた。
しかしルリカはむしろ気にすることなく、地下ダンジョンへ向かった。受付嬢からは地下ダンジョンの危険性を十分に説明を受けたので今現在ルリカが行けそうなのは北方ダンジョンだった。初心者向けでモンスター数も大したことはないので矢の数も20本程度の今、魔法以外の攻撃手段がないルリカにとっては練習がてらいい場所と言えた。
盗賊から譲り受けた(漁った)銀貨や銅貨も少ないのでできる限り大量のモンスターを討伐しなければならないのだが、初日ということもありそこを選んだのだ。
ルリカの今の体調は昨夜寝すぎとも言える程寝たので全快まで至っていた。
「すごい気持ち悪い………」
ルリカは既に北方ダンジョン前まで来ていた。
北方ダンジョン入口は巨大で不気味な髑髏の口を通るようで寒気がした。ルリカ以外の冒険者たちは何とも思っていないのかぞろぞろと中へと入っていく。少し正気を疑ったルリカであった。
覚悟を決めてダンジョン内へと入ったルリカだが、予想外の光景に目を疑った。
ダンジョン内はピラミッドのように巨石を何重にも積み重ねたような感じで且つ石自体が光を発していた。故にダンジョン内は見通しが良くモンスターを発見しやすい。これが初心者向けと呼ばれる所以なのだろう。
ルリカは軽い足取りでダンジョン奥地へと向かう。
★ ★ ★
数分ほど歩いたところでアルカはモンスターらしき気配を捉えた。
右手に火を生み出して拳に纏わせる。消耗品の矢が少ない以上、徒手格闘でモンスターを倒すしかないのだが、魔法によって強化したパンチならある程度はダメージを与えられるだろうと踏んだルリカ。
拳に纏わせた火は螺旋を描きながらルリカの腕に蛇のように絡みつく。
「……スライム?」
現れたのは緑色の高さ1メートルほどのスライムだった。まるでアメーバのように流動しながらこちらにゆっくりと近づいてくる。
スライムの体内で細胞の中にある核のようなものが動き続けていた。ギルドで説明を受けた“魔石”と呼ばれるモンスターの体内のどこかにあるとされるものだ。
“魔石”は大きさ、透明度などの要素が高ければ高いほど質があがる。それに加え、モンスターにとっては心臓のようなものであり、急所の一つだ。稀に“魔石”を残してモンスターが消滅する時もあるのだが、“魔石”は魔力を込めることで“魔道具”の利用に役立つ。
「……ッ」
大した圧力もないスライムだが、ルリカは決して油断しない。慢心が生むのは自己の破滅であると師匠から叩き込まれたからだ。手加減はするが、油断は決してしない。
駆け出したルリカは右手に纏わせている火の勢いを強めてスライムに真上から拳を振り降ろした。
『―――――――――!!!』
言葉に出来ない奇声を上げてスライムは蒸発した。生物が焼ける匂いが刺激臭となってルリカの鼻を刺激するが、目的の物を手に入れたのでルリカはそれほど気にしていなかった。
「よし、“魔石”ゲット」
スライムは非常に簡単に弱点が分かるモンスターだ。おまけに“魔石”以外はほぼ液状だ。ただでさえ常識の範囲外のルリカの魔法適性と魔力で生み出された火は一瞬でスライムを蒸発させる威力を持つ。
蒸発した仲間の匂いに釣られてか、他のスライムたちが続々とルリカの近くに迫って来るのが気配察知で分かった。
「団体様かよ。まあ、都合がいいから良しとしよう」
ルリカはスライムからドロップした黒い“魔石”を“異空間倉庫”に放り込むと両手に火を纏わせて全力で駆け出した。
★ ★ ★
数時間後――――
ルリカは満面の笑みでダンジョンを出た。
日が暮れる頃までスライム狩りをしていたのだが、その成果たるや圧倒的の一言に尽きた。初心者向けの北方ダンジョン内には勝手に湧いて出るはずのスライムは今や数体を残してルリカに狩りつくされてしまったのだ。
“異空間倉庫”には数百にも及ぶ黒い“魔石”が放り込まれていた。その一つを手にもってこれから行う作業に胸を高鳴らせていたルリカであった。
そう、換金である。
“魔石”はこの世界において生活必需品と化しているものの一つだ。ありすぎて困ることなど何一つない。
実験用に30個ほど残し全てギルドで換金してもらったのだが、換金専門窓口で数百に及ぶ“魔石”を出したときに驚愕のあまり血の気を引いてしまっていた受付嬢の表情が未だ脳裏にこびり付いてしまっているのは言うまでもない。
ちなみに換金してもらった結果、銀貨ד魔石”の数だった。この世界における通貨の価値など分からないが、露店で売っている果物が銀貨一枚か二枚程度であると考えて日本円で銀貨は100円程度だろう。
自室に戻ってくる前に雑貨屋で矢を数十本買ってきたルリカは早速作業を開始した。矢の先端に取り付けられている鏃を取り払う。そして“魔石”を短剣で先端を尖らせていく。
鏃の形に整えられた“魔石”を細い紐で矢に固定する。
“魔石”には魔力を蓄えるという性質があり、誰にでもそれに魔力を込めることは可能だった。それに加え、あらかじめ設定して置いた魔法を自動的に発動できるという性質もある。
ルリカはならばと思い、あることを思いついたのだ。“魔石”には魔力を蓄える性質があるならば、魔法を一々自分の体内にある魔力を使わなくてもいいのではないか、と。
戦闘中、魔法を使うのに一々時間は取っていられない。それに魔法発動にはイメージが必要でそんなことを呑気にやっていられるほど戦場は甘くない。
ならば最初から“魔石”に必要な分だけ魔力を蓄えておき、魔法を込めておく。つまり放った瞬間に自動的に魔法を発動させるようにしたいのだ。“魔道具”は“魔石”に込められた魔法を自動的に発動するものだ。ならば矢でも同じことができるだろうと考えたのだ。
放った瞬間に魔法が発動する矢などこの世界の一般常識ではまず考えられないことなのだが、地球出身のルリカではこその案だった。
次回は実験という名の無双回となる予定です。
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