第6話 事の成り行き
少し遅くなってしまい申し訳ありません。
ルリカの圧倒的勝利で終わった謎の襲撃は呆気なく幕を閉じてしまって、その一部始終を“魔道具”と呼ばれる一種のアイテムで見ていたギルド幹部たちは言葉を失っていた。
エルフというのはこの世界において非常に高い魔法適性と身体能力を備えている種であり、深い森の中でひっそりと暮らしている習性を持つため、冒険都市イタラのようなところには滅多に顔を出さないような者たちだ。
しかし、中には好奇心旺盛なエルフがいて冒険者を始め出す者たちもいる。これを世に“はぐれエルフ”というのだが、明らかに普通のエルフを超えるような戦闘力を誇るルリカに自身の目を疑い、こすり始めて目を真っ赤にする者も現れ始めた。
しかもルリカの実力を確かめるためにぶつけた冒険者たちは全員Bランクの者たちだ。Bランクの中でも依頼達成率が今のところ9割を超える限りなくAランクに近い優秀な者たちなのに、まるで赤子の手をひねるが如く瞬殺されてしまって面目丸つぶれもいいところだ。
提出された登録用紙にはメイン武器は弓と書いてあり、受付嬢の証言によると時空魔法の使い手でもある可能性も出て来たのに、それらを一切使わずに光属性魔法の“身体強化”だけで圧倒するなんて、15歳なんてありえない技量だ。
「……凄まじいな」
「……ギルドマスター、私の眼は遂に狂ってしまったのでしょうか。彼女には一切、本気という言葉が出てこないのですが」
「奇遇だな、俺もそう思っていたところだ……」
普段は無口のギルドマスターも呟き、いつも仲が悪いことで有名な男幹部と女幹部の意見が一致するほど事態は異質だった。“はぐれエルフ”なんて言葉が似合わないほどのバケモノが発見されたのだ。もはやルリカに与えるランクはAどころでは済まないのは確実だ。
「このギルド発足から初めてではないか?Aランク以上のバケモノが単独で出現したのは」
ギルドマスターのその言葉に全幹部が息を呑んだ。
「直ちにこの者―――ルリカをAランク冒険者として承認せよ。皆、死にたくなくば此奴の機嫌を損なうでないぞ」
沈黙が流れ、全幹部によってそれは可決されることになった。
★ ★ ★
ギルド地下訓練場から階段を昇って来たルリカをもてなしたのはその場にいた全冒険者とギルド職員からの畏怖の視線だ。
居心地が悪すぎるそこにルリカは長らく耐え切れそうもなかった。
「いや~、先ほどは見事だったぞ、新入り」
ルリカと距離を取っていた冒険者たちをかき分けて出て来た巨漢は明らかにルリカを睥睨していた。その顔には気持ち悪いほどのにやついた顔が張り付いていた。
「まさかあそこまでやるとはな。まあ、“はぐれエルフ”にしてはいい方なんじゃないか?」
ねっとりと纏わりつくような視線で見られたルリカは鳥肌が立ち始めて、自身でも気が付かないほどの速度で戦闘モードに豹変していた。
「へえ?新入りのくせに生意気だな。少しだけお灸をすえてやろうか!」
巨漢はルリカの鋭い研ぎ澄まされた視線にも動じず、腰に差していた直剣を抜き放った。武人のオーラなどまるで感じないような素人にしか見えないのに、“技術”を身に付けたルリカに挑むなんて勇敢なのか、ただの馬鹿なのか区別がつかない。
「………すぅ」
ルリカは小さく息を吐いて完全に戦闘モードに入った。レベル1にしては多すぎる魔力がルリカを包み込んでいく。息をするかの如く発動された“身体強化”はルリカの放つプレッシャーをさらに強くする。
あまりの殺気に後ずさっていく冒険者が後を絶たないというのに巨漢だけは気持ち悪い微笑を浮かべて直剣を構えている。
「やめんかたわけがッ!!!」
一触即発の時、ギルド内に耳をつんざくような怒鳴り声が響いた。
流石のルリカでも戦闘モードを半分ほど解除して声の主の方へと視線を向けるしかなかった。
この場に突如として現れた声の主は、全身を漆黒のフルプレートで覆った対峙していた巨漢を凌ぐほどの大男。身長2メートル30センチは優に超すフルプレートはルリカと巨漢を睥睨していた。
「……ああ!?テメエ、何様のつもりだッ!?」
巨漢が吠える。しかしフルプレートは微動だにせず腕を組んだまま睥睨し続けている。そして、背中に携えている大剣は見るからに業物だった。
「おいおい、何でこんなところにいるんだ!?ありゃあ、“漆黒の騎士”じゃないか!?」
「AAAランク冒険者がどうしてこんなところに!?」
周囲の冒険者たちが次々とフルプレートの正体に気付き始めた頃には二階からギルド関係者がぞろぞろと表情を青褪めつつ現れ始めた。恐らく、尋常ではないほどの緊急事態なのだろう。
「……はあ、決闘の次はこれかぁ」
ルリカは深い溜め息を吐いて“身体強化”を解除して、事の成り行きを傍観し始めるのであった。
次回もギルドでの話になる予定です。
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