第5話 冒険者ギルド
少し遅くなりました。
冒険者ギルド内はかなり綺麗になっており、まるで新築のようだった。雰囲気もまあまあ良く、受付が銀行の窓口のような形式だったのが驚きだったが、ルリカは受付嬢に話しかけた。
「すみません、冒険者の登録をしたいのですが」
「はい、お客様のお名前と必要事項をお書きの上、銀貨二枚を登録料に頂きます」
すると受付嬢は目にも止まらぬ速さで用紙とペンを取り出してしまった。慣れというのは時に恐ろしいものだと理解したルリカだった。
用紙には名前と出身地、年齢、性別、メイン武器、他諸注意などが書かれていた。
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諸注意
この冒険都市内での損害等の一切を当ギルドは責任を負いません。全て自己責任とさせていただきます。
尚、冒険者同士の私闘は固く禁ずるものとする。ただし、ギルド関係者が立ち会う場合の正規の決闘は認めるものとするが、ギルドが提供する地下修練場でのみとする。
ランク審査は月に一度とし、一定以上の功績を残した者をギルド内で審査の後に実力検査をするものとする。ランクはDランク、Cランク、Bランク、Aランク、AAランク、AAAランク、Sランクとする。初登録者はギルドの審査を受け、ランクを決定する。尚、一つ上のランクの依頼までしか受けられない。
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ルリカは本来の名――—神崎陽太を伏せて、ルリカと記入し、年齢は15、性別は言わずもがな、メイン武器は弓を書いて受付嬢に銀貨二枚を添えて提出した。
「ルリカさんですね。では地下訓練場に早速向かってください。検査がありますので」
「分かりました」
ルリカは受付嬢の指示通り地下訓練場へと向かう。
「あ、あの」
「ん?どうかしましたか?」
「い、いえ、武器が弓と書いてあるのですけど、どこにあるのですか?」
「………?ここにありますけど」
ルリカは時空魔法で生み出した“異空間倉庫”から弓矢一式を取り出す。その途端、受付嬢は顔を見る見るうちに青褪めていき、変な冷や汗を掻き始めてしまった。
「あの、どうかしましたか?」
受付嬢の急変にルリカは心配そうな視線を送るが、受付嬢はどこかへと走り去ってしまった。周囲にいた冒険者も表情を青くしてルリカから数メートル以上も距離を取っていく。
わけのわからぬままルリカは最初の指示通り、地下訓練場へと向かった。
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冒険者ギルド地下訓練場―――
ルリカは受付嬢の指示通りそこにいたのだが、一向にギルド職員と思わしき人物が現れない。
「……まさか、時空魔法って超レアどころかチート級にヤバいやつだったのか?ちょっとまずいな。今更、手品とかで誤魔化せるかな……無理だな」
そう、ルリカの想像は正しかった。この世界において時空魔法とは限られた者しか扱えない稀有な種類であり、まともに使いこなす(アイテムボックス作成)だけでも途方もない時間と修練が必要な魔法だった。
今更誤魔化せないと察したルリカはただ待つことにした。その間、弓の弦を張り直すなど色々と時間を潰していたのだが、一向に現れない職員に痺れを切らしたルリカは地下修練場を後にしようとしたが、その時、数名の冒険者と思われる者たちが現れた。
皆、重装備で古代ギリシアの重装歩兵を思い浮かべた。男が二人、女が一人だったが、相当の手練れだと分かるほどのオーラを醸し出していた。戦闘モードに入った時のルリカと同じような鋭い視線で武器に手にしていた。
「……エルフか、お前ら気を抜くなよ?」
「「おうよ」」
リーダー格と思われる一際体格の大きな男が両手に握った大剣を振り上げつつ、ルリカに向かって突進してきた。突然襲い掛かって来た奴に慈悲などない、と判断したルリカは正当防衛を開始した。
極限まで研ぎ澄まされた刃のような鋭利な表情に急変したルリカは光属性魔法―――“身体強化”を発動した。目の前の奴らは明らかに昨日の盗賊団にいた片眼の男と同等レベル。ならば出し惜しみなど必要なかった。
全身を覆うように魔力が薄く包み込み、ルリカのレベルを無関係に現状、のステータスの二倍まで身体能力を向上させる。Dランク魔法で、昨日思いついただけの魔法だったが、案外すんなりと使えるようになった。
ルリカの急変と“身体強化”の魔法を前に一瞬、リーダー格以外の二人は怯えに似た表情を浮かべるが、すぐに立て直して突進を再開する。
ルリカは構わず振り降ろされる大剣の横を思いっきり叩きつけた。
「……ッ!?」
小柄なしかも自分よりも明らかに格下に見える(レベル的にも)少女に渾身の力を込めて振り降ろした大剣をいなされたと理解した瞬間、背筋を凍り付くような悪寒が奔った。本能に従い、エビ反りで間一髪、ルリカの放った目潰しを避けたリーダー格は息を吐く暇も与えられずに足を払われてその場に倒れ込む。
次にルリカは突進してくる男の方に向かって走り出してラリアットをかます。
「ぐへえッ!?」
奇妙な声を上げながら仰向けに倒された男に目もくれず、ルリカは短剣を持ったまま怯えてその場に立ち尽くす女の方へとゆっくり歩いていく。その眼には純粋な殺意が込められていた。
「……武器を捨てて下さい。これ以上はもう無意味でしょう」
「ハッ、そんなわけあるか!」
足を払われた直後に立ち上がってルリカを追ってきたリーダー格の男が背後で大剣を振り上げながら吠えた。しかしルリカは気配だけでそれを察し、リーダー格の腕の間に入って右拳を固める。回転した時に生じた遠心力と体重を全て乗せた渾身のアッパー。下顎に綺麗に決まったアッパーはリーダー格を浮かせるほどの威力を誇る。
意識を刈り取られたリーダー格は成すすべなく膝を付いてうつ伏せに倒れた。
“身体強化”を解除して、再び女性の方へと向き直る。
「これでもまだやりますか?」
リーダー格の男は完全に伸びてしまっており、しばらくは目を覚まさないだろう。もう一人の男は泡を吹いているが、手当を急げばどうにかなるだろう。
「……って、気絶してるし」
最後に残った女性は立ったまま気絶しており、白目を向いていた。
ルリカの持つ“技術”―――ボクシング、プロレス、総合格闘技などを織り交ぜた今の戦いは圧倒的なルリカの勝利だった。
ルリカの持つ”技術”についてはこの後の話でもっと出していきたいと思っています。
感想等、宜しくお願い致します。