第23話 吉報
投稿遅くなりました。
翌日の早朝―――――
霧が発生し、まだ薄暗く誰も起きていないような時間帯にルリカとリリは“荒くれ者の宿”の前にいた。
目的はもちろん、ここを出ていくためだ。
“魔石”を大量に換金したために、旅をするには十分すぎるほどの金銭は手に入れていたのであとは時期を見計らって出ていくつもりだった。
出て行って、行く当てはない。何故なら、ルリカの目的は今のところは旅をすることだからだ。
旅に出て、淡い期待でしかない【スペシャルボーナス】を獲得するためにこれから数多の“資格者”と出会い、戦うことになるだろう。
恐らくルリカが一番の新入りであることは明白なので、強力すぎるユニークスキルに立ち向かうには今よりも遥かに強くならなければならない。
旅に出るのは、ただこの世界を知るためだけではない。武者修行も兼ねているのだ。
「来るのは分かっていました。そこにいるんでしょう、ミカさん?」
ルリカは誰もいないはずの虚空―――――民家と民家の間、路地裏へと視線を向けた。
「ふーん、いつから気が付いていたの、ルリカちゃん?」
路地裏からまるで夜逃げをする人みたいに登山者が背負うような大きなバックパックを背負って現れたのは、ルリカにある意味恐怖を植え付けた張本人―――ミカだ。
「さっきから妙な視線を送られていたので、嫌でも気が付きました。というより、ミカさん、何をしにここに来たんですか?そんな荷物を持って………」
「?ルリカちゃんと一緒に旅に出るつもりだけど?」
「いや、聞いていないんですけど……」
当たり前のことでしょ?と小首を傾げるミカ。
「付いてくるって言っても、私たちがこの街に二度と戻ることはないって分かっていますか?」
「ええ、もちろん。私だって、そのつもりで来たわ」
ミカはまるでルリカがこれからすることを全て見透かしたような口調で話した。
ルリカはミカの様子を見て、一瞬だけ眉をピクリと動かしたが、すぐに表情を戻した。
来るな、と言われても黙ってついて来るつもりだったのだろうし、ミカのルリカを封じ込めるような得体の知れない力を目の当たりにしているので、何をしても無意味だと断じた。
「私たちはより強いモンスターしかいないようなダンジョンの深層に何度も潜りますよ?それでもついて来るんですか?」
「当然だわ」
「分かりました……何を言っても無駄でしょうし、行きましょう。リリもいいよね?」
リリはルリカの問いに頷いた。だが、その眼には明らかな警戒心が宿っていた。
ルリカとて警戒をしていないわけではないのだが、何故かそれが無意味に思えてしまうのだ。
底知れぬ何かをミカは持っている、そう錯覚してしまうのだ。
★ ★ ★
冒険都市イタラを後にしてから街道を道なりに進んで早3時間ほどが経った頃―――
ルリカたちは数十人の盗賊団に囲まれていた。
「へへ、上玉じゃねえか!やったな、兄貴!」
「ふん、俺の勘に任せればこんなものだ」
下心剥き出しの表情で上から下まで気持ち悪い視線で見られたルリカは当然のように額に太い青筋を立てていた。
リリはもはや一種の哀れみの目で盗賊を見ていた。
ミカは腕を組んでただ次にルリカが何をするのか見物だとでも言うように何かをするような気配はない。
静かにルリカは魔法を無詠唱・遠距離で準備する。ごく少量の魔力が風に乗せられ、周囲に拡散される。
当然、リリとミカはすぐに魔法の気配に気が付いたが、未だ盗賊たちは気付いてすらいなかった。
「おい、聞いてんのか、このアマ――――」
それが盗賊たちの最後のセリフだった。
突発的に発生した暴風によってそのセリフは最後まで綴られることはなかった。
“風属性魔法”―――“暴風”。
荒れ狂う風の中心にはルリカが立っており、リリ、ミカもその傍に寄り添う。
渦巻く風に身体ごと吹き飛ばされた盗賊の悲鳴が聞こえたが、やがて聞こえなくなった。
「さ、行こう」
リリは当然のように笑顔で頷くと、ルリカの後に続く。
ミカは少しだけ複雑そうな表情を浮かべたが、すぐに押し殺してルリカの後に続いた。
(………殺すことは厭わない、っていうわけではなさそうね。でもほとんど躊躇いはなかった。やっぱりこの子は―――――)
それはルリカがいずれ辿るであろう道をほんの少しだけだが、ミカが垣間見た瞬間だった。
★ ★ ★
盗賊たちを退けた後もしばらく歩き続けて、今はルリカが通り抜けた森とは真逆の位置に鬱蒼と生い茂る森林の中で野営の準備をしていた。
リリが持つ異様なまでの強者のオーラが周囲の雑魚モンスターを寄せ付けないため、魔法で結界を張る必要もないので安心して夜は過ごせそうだった。
街道を進んでいる間、希少種であるワイバーンなどと遭遇したのだが、ルリカが無詠唱で発動した魔法により次の瞬間には絶命させられる、という案件が発生したのだが、それはまた別の話。
ふと、そのことを思い出してルリカは1週間ぶりにステータス画面を出した。
「あれ、どうしたの、お姉ちゃん?」
リリに声をかけられて、一瞬ビクッ、となったルリカだが首を振って微笑んだ。
「な、何でもないよ」
ルリカは何でもないと言ったが、ステータス画面は何でもないことはなかった。
★★★★★
神崎陽太→ルリカ 男→女
ジョブ 冒険者
レベル48→62
HP 4100/4100
筋力 3800
耐性 3800
敏捷 3900
魔力 6420
装備 地球風制服.ver,ミカ―――Aランク
所持品 冒険セット(火起こし道具、非常食等)
“魔矢・改”―――Aランク×40
“魔弓・ノヴァ”―――Sランク※
スキル 気配察知―――Bランク
詠唱魔法展開―――Dランク
詠唱破棄―――Aランク
遠隔魔法起動―――Aランク
火属性魔法―――Bランク
水属性魔法―――Bランク
風属性魔法―――Bランク
土属性魔法―――Bランク
光属性魔法―――Bランク
闇属性魔法―――Bランク
時空魔法―――Cランク
経験値倍化(二.五倍)―――Cランク
必要経験値低下(五分の三)―――Cランク
ステータス倍化(二倍)―――Cランク
ユニークスキル 召喚契約(神から与えられし異能)
共通課題:この世界の謎を解き、真実の旗を掲げ、【魔王】を討て。
個人課題:この世界を一年以内に救え。
★★★★★
※冒険都市イタラの最下層ボスモンスターである“漆黒の騎士”討伐の証。魔力を原料としてありとあらゆる属性の矢を自動生成する。また、魔力で編んだ矢には魔法を付与することが可能である。持ち主の込める魔力によって威力が変化する。
知らず知らずの内に手に入れていた弓によって武器の心配は不要となったが、ステータス倍化により人外コースまっしぐらのルリカは軽く頭痛がした気がした。
(これじゃあ、魔矢要らないかな。あとで使い捨てようかな)
1週間前のあの戦いの中で“魔矢・改”やそれに伴う魔法発動が非効率だと感じたルリカは内心、“魔弓・ノヴァ”とかいう少しヤバそうな名前の武器でもルリカが理想とする戦い方に変えられると喜んでいた。
「……もしかして、な」
もしかしたら、全てのダンジョンにはボスモンスターがいて、討伐することにより何らかの恩恵や武具を入手することができるかもしれない。
さらに強くならなければならないと思っていたルリカにとって、それは吉報だった。




