第22話 リリの暴走
投稿遅くなりすみませんでした
「………貴様らはそんなに死にたいのか?」
色を失った瞳と無機質な声音で尋ねたリリは、双剣を握りしめたままだ。
だが、その威圧感と冷気に気圧された重鎮たちは一歩以上距離を取った。だが、こんな至近距離と言っても過言ではないほどの距離で、リリから多少離れた程度で生存確率が上がるはずがない。
“究極の努力”相手では、分が悪すぎる。
「………」
ルリカは何も言わない。
むしろ、リリが隣にいる時点で気が付くべきだったのだ。すなわち、重鎮たちの自業自得だと断じたのだ。
「クッ!?何をしている!?下の階にいる冒険者を呼ば――――」
「こんな小娘如き、我らが誇るAランク冒険者10人相手ならば――――」
トンッ。
重鎮たちの言葉が紡がれようとした次の瞬間、リリの靴が地面に着いた音がした。
そして、ボトボト、ボトボト、と何かが地面に落ちる音が次いで室内に響いた。
一瞬、あまりにも一瞬のことでルリカでさえ目が追いつかなかったが、リリが刹那の内に行ったことだけは何かが、というよりルリカを罵倒していた全ての重鎮の肘から下を断たれて落下した肘から下の部位を見て瞬時に理解した。
「……へ?」
ポカン、と自分がたった今されたことを理解できずに呆けている重鎮たちの表情がどんどん悲痛に歪んでいく。
「うああああああああああああ!?」
「腕がああああ!?」
「あああああああああ!!!」
激痛が遅れてやってきて、床に膝を屈して自分の腕をもう片方の腕で押さえる。
まだ両腕を断たないあたり、リリが簡単に殺さないことを証明していた。
ルリカに敵対した者の定めをまじまじと見せつけられたギルドマスターは生唾を呑み込んだ。手遅れだと理解するのも遅すぎたギルドマスターは固く拳を握りしめた。
呻き声を上げて、涙を流す無様な姿を、リリは未だ無機質な瞳で見下ろしていた。
「……たかが腕の一本で何が痛いんだ?お姉ちゃんは、貴様らみたいに安全な屋根の下でふんぞり返っている馬鹿どもと違って、“死区”で、命懸けで戦ったんだよ。貴様らみたいに、権力を振りかざすだけの無能じゃない。武器を、魔法を、何もかもを手に取って生と死が隣り合わせの場所で戦える。私がいなくても、たった一人で“死区”で戦っていた!貴様らにそんな真似ができるか!?たたふんぞり返って、怠惰な日々を過ごし、魔法の研鑽をすることもしなければ、肉体を磨くこともしない貴様らにお姉ちゃんを侮辱する権利があると思うか!?断じて否だ!碌に戦いを知らないくせに勝手なことを言うな!」
鬼気迫るリリの言葉は、その場にいた全ての重鎮を論破した。
もはや苦悶の表情を浮かべようが、呻き声を上げようがリリは何とも思っていない。
これは断罪だ。
一方的な蹂躙だ。
ルリカの敵であれば老若男女は問わない無差別攻撃だ。
リリにとってこの行為は義務的なものと化している。
この世界において、強さこそが全てと謳うのはエルフの中でもウェリアだけだ。ウェリアの価値観はリリの中に深く刻み付けられているものであり、同時に“強くなければ姉の隣に存在することは赦されない”という価値観も刻み付けられている。
故に、リリはルリカの敵を決して赦すことは皆無である。
★ ★ ★
“荒くれ者の宿”―――
そこでリリは正座させられていた。
ルリカが腕を組んで少しだけムスッとした表情を浮かべていた。
「反省は?」
「……していません」
「むぅ」
リリが暴走し、重鎮たちの片腕を斬りおとした後、ギルドマスターが土下座までして命だけは取らないように懇願し、ルリカも仲介に入ったことでリリの怒りは急速に静まった。
リリはルリカが仲介に入った瞬間にいつも通りのテンションになったのだが、その変化の激しさにその場にいた全員がドン引きしていた。
だが、ルリカが怒っているのは重鎮たちの片腕を斬りおとしたことではない。断じて、その程度のことではない。
それしきのことで怒っているのではなく、たかがあの程度の輩と同レベルに下ろうとしたことを怒っているのだ。
「いい?私のために怒ってくれるのは構わない。だけど、あんな程度の奴らと同じレベルまで自ら下がる必要はないの」
「……はい」
下を俯いてルリカのお説教を甘んじて受け入れているリリは何というか、とても可愛らしかった。
「もう!」
「いひゃい………」
リリの頬っぺたを指で摘まんで無理やり笑顔を作らせたルリカは、優しい笑みに戻し、再度言い聞かせた。
「リリは笑顔でいなきゃいけないの!リリは可愛いんだから、いつでも笑顔でいなさい!」
「うん、わかった」
そう言って、微笑を返すリリ。
そして、ルリカはここの中でこう思っていた。
リリの暴走は、恐らく不確定要素の介入によってほぼ100パーセント起こる。不確定要素とは、ルリカにまつわることだ。
リリが暴走した際、止められるのは自分だけなのだと、心に刻みつけたルリカであった。




