第21話 報告
PCの調子がすこぶる悪く、更新に時間がかかりました。
申し訳ございません。
目が覚めると、そこはここ1週間世話になった“荒くれ者の宿”の借りている部屋の天井が目に飛び込んできた。
未だに身体に僅かな倦怠感が残っているが、動く分には問題なさそうだった。
「お姉ちゃん!?目が覚めたの!?」
声のした方を向くと、リリが手に持っていた水の入った桶を置くや否や、ダイブしてきた。どこかで見たことのあるような光景に苦笑しながら、ルリカはリリを受け止める。
顔をくしゃくしゃにしながら嗚咽を漏らすリリの頭を優しく撫でていると、しばらくして泣き止んだリリが驚きの一言を発した。
「……お姉ちゃん、魔力枯渇で1週間は寝たきりだったんだよ」
「1週間寝たきりかぁ。身体が鈍るのも無理ないよね」
両手を握ったりして感触を確かめるルリカだったが、感覚を取り戻すまではあと1週間はかかるだろうと直感した。
「それから、お姉ちゃんの弓なんだけど……」
リリが恐る恐るルリカの木製の弓を持ってきたのだが、弦は千切れ、弓本体にも幾千ものヒビが刻まれていた。
恐らく、アーチボルトを倒して気を失ったルリカを担いで一人、“死区”を抜けたのだろう。その時にルリカの持っていた弓までは守り切れなかったというところだろう。
目に涙を溜めて、ビクビクしているリリは小動物みたいで可愛かった。
「別に怒らないから、泣かなくていいんだよ?」
「……え?」
「リリは私を担いでここまで来たんでしょ?その腕、隠そうとしても無駄だよ」
「……ッ」
リリの腕には服で隠しているが、包帯を巻いて少し厚くなっているところがあった。あの無限にも思えるゾンビ軍団だ。人一人担いで無傷で抜けられるわけがない。
「なら、怒る理由なんてないよ。弓なんて後で買えばいいんだから」
「うぅ、ごめんなさい……」
「いいから、いいから。それよりも起こすの手伝ってくれる?ちょっと自分じゃ立てそうにないから」
リリの手助けを得て、ようやく立ち上がったルリカは“異空間倉庫”からミカが作成した白を基調としたワンピースに着替える。
フラフラしつつも顔を洗ったり、髪を梳かしたりして、身なりを整えると冒険者ギルドに足を運んだ。
アーチボルトのことについて、やはり報告しなければならないと思ったからだ。
AAAランクの“漆黒の騎士”が、冒険者ギルドにとっての敵であるダンジョンマスターであったこと。これを報告しなければならない義務がルリカにはあると感じた。
「ルリカさん!?大丈夫ですか!?」
冒険者ギルドの受付嬢、セリアが今まで作っていた営業スマイルを急変させ、焦燥に駆られた表情で近寄ってくる。
他にも、その場にいた全ての冒険者が目を見開いてフラフラ状態のルリカを凝視していた。その中には、“ハウス”でルリカが無双していたところを目撃したパーティーも多くいた。
“ハウス”のど真ん中で暴れるような強さを誇るAAランカーのルリカの身に何が起こったというのか、という疑問でいっぱいだった。
「セリアさん、すみませんが、ギルドマスターはいますか?“死区”について話したいことがあるんです」
「……ッ!“死区”、ですか……分かりました、少々お待ちください」
“死区”というワードに周囲の冒険者たちが息を飲む。それほどまでに“死区”というのはこの冒険都市イタラに住まう冒険者たちにとって忌み嫌われているのだ。
常人では生きて帰ることすら赦されない、それが元々“死区”と言われている所以なのだから。極限まで“生”を否定し、また“生”ある者を決して赦さない、怨念の行き着く先が“死区”というところなのだ。
★ ★ ★
急遽設けられた会議室にはギルドの重鎮たちが勢ぞろいだった。
AAランカーのルリカ、リリが緊急の用事がある。しかもその用事とは、冒険者ギルド側が厳しく管理しなければならない“死区”に関してなのだから血相を変えてここまで来たのだ。
「急に呼び出してしまって申し訳ありません。ですが、今すぐにでも報告しなければならないことがあるんです」
一気に重鎮たちの表情が重くなる。
「“漆黒の騎士”―――――アーチボルトは西方ダンジョン内部の“死区”におけるダンジョンマスターと判明したため、即座に殲滅を開始した結果、討伐に成功しました」
『なッ!?』
その場にいた全員が呆気にとられ、事態を中々呑み込めないでいた。
「それはどういうことだ!?あの“漆黒の騎士”がモンスターだったとでも言うのか!?」
「そうだ!あの“漆黒の騎士”がモンスターなはずがないだろうがッ!デタラメを言うな!」
重鎮たちは各々、現実を受け止めきれずにいた。そして、最初は“漆黒の騎士”がモンスターではないことを何度も何度も話した後、話の論点は次第にルリカに対する不信に変わっていった。
「そもそも貴様は何者なんだ!?冒険者の中では“ハウス”で無双していたなどと噂されていたが、貴様こそがモンスターなんじゃないか!?」
「そうだ、貴様こそが我らの敵だ!」
「忌々しきエルフめ!」
ルリカに対する罵倒が激しさを増していく。
だがそんな中、ルリカは一切表情を変えることはなかった。所詮、現実を受け止められないお飾りの重鎮でしかないことを早々に見切っていたからだ。
当然、こういう反応をすることは十分予測できた。
ギルドマスターはどんどん表情を青褪めさせていく。
激化していく罵倒の嵐の中、ルリカはこの会議室に入った瞬間から、ギルドマスターは先ほど気が付いたが、まだ罵倒し続ける重鎮たちは気が付いていない。
この場に漂う、尋常ならざる殺気を。
次第に、殺気はより研ぎ澄まされ、一つの刃のようなものと化す。
ルリカやリリ、エルフに何の恨みがあるのかは知らないが、リリの前でルリカを罵倒する行為そのものは、自殺行為となる。
「……貴様らッ!!!」
ギルドマスターが怒鳴りつけるが、もう遅い。いや、遅すぎた。
リリは静かに双剣を抜き放つ。刃には冷たすぎるほどの殺意と冷気が込められていた。
魔法で剣自体を覆っているのだろうか、尋常ではない殺気と相まって室内の気温を一気にマイナスまで下げた。
『ッ!?』
そこでようやく重鎮たちは気が付く。目の前にいるのはただのエルフではないことを。
“はぐれエルフ”だとしても、武闘派の一派でも天才が生れ落ち、その天才を超えるために人外の修練を積んだ“究極の努力”とルリカが1週間前の戦闘で心の中で自然に例えてしまったほどの異才が目の前にいるのだと。
死神の鎌、など生易しく思えてしまうほどの威圧感と冷気。
ルリカの後ろでただ立っていただけの少女は、瞳から色を消し去って“ルリカの敵”となった哀れな無能を断罪するために歩み出した。
「………貴様らはそんなに死にたいのか?」
思わずルリカでさえゾッとするほどの無機質な声音で尋ねたリリは、首を傾げた。
ただ、どこまでも無機質な表情で。
感想等、宜しくお願い致します。




