第19話 ”死区”の深淵にてⅡ
大変お待たせしました。
事実上、今現在冒険都市イタラにおいて最強のAAAランカー、“漆黒の騎士”が悠然と身の丈に迫る大剣を軽々と片手で持って歩み寄ってくる。
人が出すには明らかにおかしいほどの殺気とオーラを纏っているアーチボルトは確かにダンジョンマスターと口にした。
それがどのような意味を持つか、ルリカはすぐ理解できた。
冒険都市イタラの全てのダンジョンは地下で繋がっている。それはつまり、最奥が存在するということ。
ダンジョンがどのような経緯で創られたのかは不明だが、地球人の感覚では、ダンジョンの最奥にはラスボスが存在するのがテンプレだ。
そのラスボスが、ダンジョンマスターと同視されることが多い。
「何で、あなたが……」
「貴様に語る必要性を感じぬ。我らの間にあるのは、ただ戦いなり」
アーチボルトは大剣の切っ先をルリカに向けてくる。
次に余計なことを言えば、構わず斬り捨てる、とでも言っているようだ。
「……“身体強化”」
「“身体強化”」
ルリカとリリは同時に“身体強化”を発動させ、自らの得物をアーチボルトに向けた。
「それでいい。では、始めるとするか」
アーチボルトは大剣を両手で持って、剣道で言うところの八相の構えをする。全身に暗黒のオーラが纏わりつき、アーチボルトの存在感をさらに強化した。
刹那―――リリとアーチボルトが同時に駆け出し、ルリカは持ちうる中で最強の魔法の詠唱に移った。
「万象は全て塵に帰らん―――」
ルリカが詠唱し始めた瞬間、アーチボルトの大剣とリリの双剣が激突した。
凄まじい轟音を響かせ、両者は互いに弾き飛ばされる。
だが、リリはその身軽さを以てアーチボルトよりも速く体勢を立て直し、双剣の手数の多さで攻め始めた。
「汝は時、我は空間を支配する者なり―――」
ルリカが詠唱を続ける中、アーチボルトはリリの双剣の速さに迅速に対応していた。
身の丈に迫る大剣を片手で振り回してリリの剣戟を悉く弾いてしまう。
「来たれ、切断の概念、時を断ち、空間を断ち―――」
徐々にリリが劣勢になってくる中、ルリカは魔力を極限まで圧縮し鍛錬していく。
ルリカが生み出そうとしているのは“時空魔法”の初級魔法にして圧倒的な切れ味を誇る魔力刃だ。時も、空間も、例外なく斬り裂く魔の刃。
そして、ルリカがこの魔法を編み出したのはほんの数刻前だった。
迫りくるゾンビを“火属性魔法”で焼いていた時にふと思いついた技だったが、暴走しようがどうなろうが、“漆黒の騎士”相手に手札を惜しんでいる暇などなかった。
「我が敵を断ぜよ―――――“断罪の刃”」
全ての詠唱が完了し、“魔矢・改”にルリカの持ちうるほとんどの魔力が刻まれた。
異様な気配を察知したリリはすぐさまアーチボルトから距離を取り、ルリカの後方まで全速力で走った。
アーチボルトは何もせず、ただ仁王立ちしているだけだった。
飛来する“魔矢・改”は途中で込められた魔力で変形し、一本の刃と化す。その刃こそ、時を、そして空間を万物万象関係なく斬り裂く時空断裂そのものだ。
次にアーチボルトが起こしたのはあまりにも予想外すぎるものだった。
むしろ飛来する時空断裂に自ら駆け出したのだ。
自殺行為にも等しいその行動にルリカは目を見開き驚愕し、リリは次の攻撃の準備をしていた。
「ぬんッ!」
一撃。大剣を上段から無造作に振り降ろしただけ。ただそれだけで今のルリカの持ちうる最強の魔法が木端微塵に粉砕、否、斬られたのだ。
「如何な魔法だろうと、必ず核が存在する。ならば、そこさえ断てば魔法など恐るるに足らんッ!よもやその程度の魔法が奥の手だとは言うまいな?」
「……ッ!?」
心の中を読まれたかのような感覚に陥り、冷や汗が止まらないルリカ。
「そこの小娘の剣技も既に見切った。貴様の魔法も通じん。さあ、どうする?」
「なら、これはどうですか?」
ルリカは魔法の詠唱さえ一切せず、矢を放った。
「ふん、気でも狂ったかッ!」
アーチボルトは憤怒の声を上げ、大剣を振るった。
しかし、ルリカとリリは顔を合わさずとも同時に口角を吊り上げた。
「……“大爆発”」
刹那、アーチボルトの目の前で“魔矢・改”が大爆発を起こした。
深淵に突如として発生した圧倒的な光源が辺りを照らし、発生した爆風がルリカの髪とスカートをなびかせる。
「新しいスキル―――“詠唱破棄”こそ私の奥の手ですが?」
第二作目のタイトルは、『サイボーグと奇跡の花』です。
どうぞ、そちらの方もよろしくお願い致します。




