第18話 ”死区”の深淵にて
投稿遅くなりました。
ミカの服屋を後にした二人は西方ダンジョンの“死区”に赴いていた。
目的は当然、旅の資金稼ぎ、及び訓練だ。ただ今回は訓練という名目もかねてリリの戦闘力を推し量りたいルリカの思惑がある。
“死区”に行く、とこの世界の一般常識に当てはめれば非常識この上なく、一緒に行こう、などという輩は頭のネジがぶっ飛んでいると思われるのが普通だ。
しかし、リリの反応は――――
「“死区”?何なのか、よくわからないけど、お姉ちゃんと一緒なら何処へでも行くよ!」
と、陽気に答えてくれた。
エルフの中でも武闘派のウェリア出身者は皆そうなのだろうか、と疑問を抱くルリカだった。
「……またかぁ」
ルリカは“死区”に入った直後に襲い掛かってくる無数のゾンビに呆れてため息を吐いた。
“異空間倉庫”から弓と“魔矢・改”を数本取り出してゾンビの大群へと狙いをつける。
「お姉ちゃん、そこでちょっと待ってて………」
魔法を詠唱しようとした瞬間、射線上にリリが双剣を構えた状態で入った。ルリカは咄嗟に弓矢を降ろすが、直後、リリはルリカにさえ視認が難しいほどの速度で急激に加速した。
土煙を上げて急接近したリリは双剣をまるで舞のような繊細な動きで操り、無数のゾンビたちの首を刎ね飛ばしていく。
次々と胴体とさよならを告げたゾンビから血柱が形成されるのだが、返り血を浴びるよりも速くリリは移動してしまう。
しかも一挙一動に全くと言っていいほど無駄がない。
完成された剣技と呼んでも過言ではなかった。隙が無い剣技というのはそれほど非常に厄介なのだから。
かくして、たかが数分で目の前に群がっていたゾンビ軍団は全て胴体と永遠のさよならを強制的に告げられたのだった。
「すごいよ、リリ!」
ルリカは心の底からそう思っていた。地球の師匠に感じた畏怖の念はあながち間違いではないらしい。
リリは返り血を一切浴びず、悠然とこちらに戻って来た。その表情にはまだ余力があるようにも見える。
「さ、もっと奥に行こうよ、お姉ちゃん!」
「うん!」
こうして姉妹二人による“死区”における圧倒的な蹂躙戟が開始された。
★ ★ ★
“死区”に潜ってからルリカ、リリの蹂躙戟は時間と共に激しさを増していった。
リリが前衛、ルリカが後方支援という陣形を組んで魔石の回収効率は尋常ではないほど跳ね上がっていた。
「……やあッ!」
「敵を穿ち焼き焦がせ、その光は悪なる者へと散らばれ、“多角・閃光”ッ!」
リリが順当に首を刎ね続け、ルリカが光属性魔法の“閃光”という単発光線魔法を改造して生み出した拡散する魔法でリリの背後から迫るゾンビの眉間を貫く。
息の合った連携であっけなく瓦解していくゾンビ軍団。
何時しか、二人の周りに残るゾンビたちは数えるだけとなっていた。
そして、気が付けば、辺りは更に暗くなり、時間の概念を忘却させるような感覚に陥ってしまうほどの深淵となっていた。
「この奥って一体どうなっているの、お姉ちゃん?」
「さあ……私もここまで来るの初めてだから」
気のせいかもしれないが、気温がかなり低く感じてしまう。
空気が重く、何か得体の知れない怪物がいるような気がする。
リリは少しだけ不安の混じった表情でルリカの判断を仰ぐ。
「行こう。この先に何かいるなら、戦うまでのことだよ」
「それでこそ、お姉ちゃんだよ」
リリは笑みを零し、ゾンビの血で真っ赤に染まった双剣を強く握り直す。
ルリカはリリの姿を見て自分自身も弓を持つ力を強め、“魔矢・改”を数本取り出しておく。
ゆっくりと、確かな足取りで二人は“死区”の深淵へと進んだ。
「……何、これ」
ルリカは自身の目とスキル気配察知を疑った。
目の前、約10メートル先に佇む尋常ではないほどのオーラ。圧倒的な強者がそこに立っているのだ。
「……よもやここまで辿り着く者がおろうとはな。この地を任されて数百年、貴様らが三度目だ」
暗闇の先で得体の知れない何者かが呟いた。
その言葉一つ一つが物理的な重みを持っているのかと錯覚させるほど心に響いた。そして、それと同時に得体の知れない何者かがリリの殺気すら捻じ伏せるほどの殺気を垂れ流し始めた。
気温が一気に下がる。
「お姉ちゃん、コイツ強い……!」
「……うん、リリ覚悟は?」
「出来てるよ。お姉ちゃんと一緒なら何処へでも行くつもりだから」
対抗するようにルリカとリリは同じく殺気を放出する。
「貴様ら小娘如きの力で我をどうにかできると思っているのか?」
ジャリィィィン、と何者かが剣を引き抜く音を立ててこちらに歩み寄ってくる。
「……“光”」
辺りを照らす光属性魔法を唱えると、何者かの全容が明らかになった。
3メートルに迫ろうかという長身に、全身漆黒のフルプレートに見るからに業物の大剣。
見間違えるはずがなかった。ギルドで一度しか会ったことが無いが、鮮明に記憶に焼き付けられたルリカとリリの一つ上のAAAランカー。
「……“漆黒の騎士”!?」
「ほう?あの時のエルフであったか。だが、名乗っておこう。我が名はアーチボルト!“漆黒の騎士”にして、このイタラのダンジョン全てを統括するダンジョンマスターなり!」
“漆黒の騎士”、その人だった。
次回は”漆黒の騎士”との戦いになります。何故、彼がダンジョンマスターになったのかについても頑張って書きたいと思います。
感想等、宜しくお願い致します。




