第14話 ”死区”と混合魔法
今回は少し短いです。
息を少しばかり切らして、ルリカは薄暗いダンジョン内を疾走していた。
“死区”と呼ばれている専門家ですら命を落とすような危険極まりない場所で弓と“魔矢・改”を両手に持ち走る制服少女。絵になると言えばなるだろうが、そんな悠長なことを考えていられるほどルリカに余裕はなかった。
「くそおおおお!いつまで追いかけてくるんだよッ、テメエらはッ!」
ルリカの背後から全力で追いかけてくるモンスターの集団―――――しかもゾンビ集団がその原因だ。
“死区”、名づけの親は誰だかわからないが、こういう意味も含んでいるのだとルリカは入った瞬間に理解した。ゾンビに追いかけまわされるなど生理的によろしくない。
「敵を焼き尽くせ、“猛火の矢”」
距離を取れた瞬間、ルリカは魔法を詠唱によりイメージ強化して“魔矢・改”をゾンビ集団に射る。先頭を走るゾンビに命中すると、周りにいるゾンビに次々と引火していく。肉が焼ける不快感しかしない異臭が立ち込めるが、すぐに後続のゾンビたちが燃えるゾンビを踏みつぶしながらこちらに迫る。
「クソッ!少しは怯めよッ!」
ルリカはゾンビ集団を口汚く罵るとすぐに逃走を再開する。“死区”に入ってからこのやり取りは既に十数回繰り返されている。
「亡者どもよ、燃え盛る苦しみを味わえ。我が敵を全て焼き尽し、全てを浄化し、我が道と成れ。“劫火式・浄火鈴”ッ!」
火属性魔法と光属性魔法の混合魔法―――“劫火式・浄火鈴”。ルリカが地球のアニメの知識をもとに編み出した魔法だ。先ほど“死区”入りする前に偶然創りだせた魔法だった。ほとんどルリカのオリジナル魔法と言っても過言ではない。
アンデッド系、それらの範疇を超え対モンスター戦用広範囲殲滅魔法であるこれは例外なくモンスターを浄化する反面、凄まじい魔力要求量と長い詠唱を必要とするまさに必殺技でもあった。
紅の閃光が“魔矢・改”から生まれ、襲い掛かるゾンビ集団に放出される。その瞬間、魔法が強力すぎて“魔矢・改”が粒子分解してしまう。
放った本人にまで届く莫大な熱量と光量。余波だけで吹き飛ばされ浄化されてしまうゾンビもいる中、紅の閃光に触れた瞬間、ゾンビは刹那の間に消滅する。少し掠っただけでも消滅する。
異臭さえもさせず、体内にある“魔石”だけを残し全て消滅させられたゾンビ集団。
紅の閃光が通った道に残るのは普通の“魔石”よりもやや薄暗い物だけが残るだけだ。
★ ★ ★
ゾンビを手当たり次第に消滅させては、残る“魔石”を全て回収しつつルリカは魔力残量の事も考慮して“死区”を後にした。
“劫火式・浄火鈴”の影響か分からないが、ゾンビの腐臭がつくどころか太陽の香りがする制服になったブレザーを着て上機嫌でルリカはギルドへと足を運んだ。
“死区”で得た“魔石”は悉く上質なもので一部を残して全て売り払た時に、セリアは遂に意識を手放してしまうという醜態を晒してしまっていた。ちなみにルリカに渡されたのは白金貨という金貨の一段階上、金貨の200倍の価値を持つ硬貨が40枚。
つまり、10万円X40枚、約400万円という大金を得てしまったのだ。
「流石に目立ち過ぎかな………」
ルリカは綺麗な金髪を風になびかせながらそんなことを呟いていた。
ギルドに登録してからわずか4日で400万円以上稼ぐなど常軌を逸していると我ながら思うルリカであった。
ギルド初のAAランクスターターであり、4日でそれほどまでの大金を稼ぐルリカに視線が集まらないはずがない。至る所からの視線を感じつつルリカは“荒くれ者の宿”に向かっている。
「なあ、ルリカさんよ~。俺らとパーティー組まないかい?」
唐突にルリカを勧誘してきたどこか貴族のお坊ちゃんを思わせる服を着た青年に戸惑ったが、すぐにルリカは拒否する。
「お断りします」
「……ん?気のせいかな、今断ると言ったのかな?」
このお坊ちゃまは耳が悪いのか?いい耳鼻科を紹介しようか、と考えていたルリカは首を縦に振る。
先ほどから気持ち悪いほど全身を舐めまわすような視線を受けていて断らない方がおかしいだろう。この手の輩の考えるようなことは大抵わかっているつもりだ。かつて地球で幼馴染がそういう視線を受けて泣きついて来たことが多々あったからだ。
そういう輩の前ではルリカは自然と眼光が鋭くなってしまう。
今、魔力残量が半分を切っているためあまり戦いたくないのだが、自分自身の体を護るためならやむを得ない。
全身に闘気を纏い始めたルリカに気付いたお坊ちゃんの取り巻き達は耳打ちをするが、全く意に介していない様子だった。どうしてもルリカを手に入れようと引き下がらないお坊ちゃまは腰に差している剣に手を添えた。
「……いいの?」
研ぎ澄まされた鋭利な刃のような視線でルリカはお坊ちゃまを睨み付ける。全身の闘気がルリカの存在の大きさをより明確にし、いつでも魔法を放つ準備を完了させるルリカ。
諦めようとしない主人についぞ諦めて自らの剣に手を添え始める取り巻き達。
周りにいたギャラリーも巻き込まれまいとかなり距離を取る。
一触即発。そんな状況で誰も呑気に喋る者などいない―――――はずだった。
「やっと見つけたよ、お姉ちゃんッ!」
静寂をぶち壊したのは可愛らしい声でルリカを指差す、ルリカによく似たエルフの少女だった。
次回はもう少し長く書いてみようと思います。
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