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4.頂き物

まだ朝に近い時間、まだ皆が寝ている時間にこっそりと寝床を出て陸に向かった。手には昨日のワンピースを持って。


「ここで乾かそうっと」


人がこなさそうな陸地で服と体を乾燥させると、天気が良いのもあり一時間程で乾いた。ワンピースを着て二足歩行をすれば何処からどう見ても人間に見える筈よね?


「砂ってこんなに気持ちいいのね」


キュッキュッと踏むたびに音を立てる砂はサラサラしていてとても気持ち良かった。歩く事にも慣れて来たし街に出ようと海岸から離れて人が集まりそうな場所を目指した。


「…なんか、変なのかな?」


歩いていると擦れ違う人達に何とも言えないような目線を向けられる。でもその理由が分からなくて首を傾げるしかない。ちゃんと二本の足でふらつく事もなく歩けてるのになと思って立ち止まって考えていると、一人の子供が近づいて来た。


「お姉ちゃん靴ないの?」

「え?くつ?」


レノイル以外の人間との会話に感動するも、靴の意味が分からない。なので靴が何なのかを聞くと子供が足に履く物だと教えてくれた。


「靴ないと変なの?」

「変だよ!足痛くないの?」

「痛いけどこういうもんだと思ってたわ」


私がそう返せば変な顔をされてしまった。そっか、人間は靴という物を履いて歩くのね。また一つ新しい事を知ったわ!レノイルに会ったらこの話をしなくちゃね。


「お姉ちゃんお金がないの?」

「お金?お金って何?」

「こういうやつだよ。これでご飯とか靴とか買うんだよ」


子供が見せてくれたのは丸くて茶色い物だった。それを貸してもらって観察してみるとお洒落な模様が描かれていた。


「これで靴が買えるの?」

「そうだよ!お姉ちゃん何にも知らないんだね」

「うん、だから色々知りたいの。教えてくれる?」


私がそう聞けば子供は嬉しそうに笑っていいよって言ってくれた。どこに住んでるの?って聞かれたから海だよと言ったら子供は首を横にコテンと倒したので、私も同じように首を横に倒した。


「海の近くってこと?」


困惑したように子供がそう聞いてきたので、あ!っと気付いた。人間は海の中じゃ生きられないのよね?危ない危ない!そりゃ不思議に思うよね。


「う、うん。そうなの!海の近くなの!」

「そうなんだ!」


慌てて訂正したところでお腹がなってしまった。あわわ…恥ずかし…。そう言えば今日はまだなんにも食べてなかったなぁ。


「ご飯食べてないの?」

「うん、まだなの」

「なら家においでよ!お母さんがパン焼いてたから今なら焼き立てが食べれるよ」


パンって何だろうと思ったけど、子供が凄く嬉しそうに笑うものだから取り敢えず頷いた。美味しい物だったらいいな!


「ここが僕の家だよ!そう言えばお姉ちゃん名前なんて言うの?僕はラーシュだよ」

「私はシルティアだよ」

「シルティアね!行こっシルティア」


ラーシュは家のドアを開けて私の手を引いて中に入ると、とてもいい匂いがした。海の中では嗅いだ事のない匂いだわ。


「お母さーん!パン一個ちょうだい!シルティアがお腹空いてるんだって」


ラーシュは部屋の更に奥に入っていってしまったので、取り残された私は家の中を見回した。木で作られたテーブルとイスがあり、天井には見知らぬ球体がぶら下がっている。部屋には花が飾られていて、広くはないけれど温もりの感じる家だった。


「これが人間の家なのね。レノイルもこんな家に住んでるのかな?」


レノイルはどの辺りに住んでるのだろう?今度会った時にでも聞いて見ようかな。そんな事を考えていたらラーシュがお母さんと一緒にこっちに戻って来た。


「あら?随分と年の離れたお友達ね」

「さっき仲良くなったんだよ!シルティアは何にも知らないから僕が教えてあげるんだ」

「こ、こんにちは!シルティアです」


ラーシュのお母さんに慌てて挨拶するとにっこりと優しく微笑んで椅子に座るように促してくれた。良かった、優しそうな人間だ。


「パンが丁度焼き上がったの。良かったらどうぞ」

「わぁ!美味しそう」

「僕も食べる!」


目の前には白っぽい色のフワフワした物が沢山あった。これがパンかぁと手に取るも、熱くて手を離してしまった私を見てラーシュが笑った。


「焼き立てだから熱いんだよ」

「そうなのね!知らなかったわ。こんな熱い食べ物なんて初めて」

「「え?」」


私の言葉に二人が驚いたように私を見つめた。えーと…変な事を言っちゃったのかな?人間の食事は熱い物が普通なのかな?うーん、分かんないよ!!


「シルティアっていつも何を食べてるの?」

「えっと、貝とか海藻とかかな」

「それだけ!?」

「そうだけど…。それって変なの?」


どうしよう…なんかドンドン怪しまれてる気がするんだけど。やっぱり人間と関わるにはまだ早かったのかな。ズーンと落ち込む私にラーシュのお母さんが口を開いた。


「今まで大変だったのね」

「え?」

「シルティア、パン全部食べていいからね!」

「え、あ、うん。ありがとう…」


涙ぐむラーシュのお母さんに、ラーシュは持っていたパンも全て私に押し付けるようにズイッと差し出してきた。えっと…なんだか良く分からないけど怪しまれてるどころか、可哀想な子になってるみたい。


「だからこんな肌寒い時期にそんな薄着だったのね。待ってて、今いくつか持ってきてあげるわ」

「へ?あの、大丈夫です…って行っちゃった」

「ねぇシルティアは一人で住んでるの?」

「ううん、お姉ちゃんと住んでるのよ」


ラーシュのお母さんはパタパタと何処かに行ってしまった。これ今の時期じゃ薄着になるんだ…。私って本当に知らない事だらけだわ。


「ならお姉ちゃんにも持っていってあげなよ!」

「そうしたいけど怒られちゃうからいいや」

「そ、そっかぁ。あ!パン食べてよ!美味しいから」

「うん、ありがとう」


フワフワのパンを口に入れると香ばしい香りが鼻から抜けていった。さっきよりは冷めて、熱いから暖かくなったパンは私の口の中の温度を上げた。初めての食感と温度に顔が緩くなっちゃう。


「こんな美味しいの初めて!」

「でしょ?僕のお母さんのパンは世界一なんだよ」

「ふふ、それは言い過ぎよ。シルティアさん、服を適当にいくつか持って来たんだけどちょっと着てみてちょうだい」


色んな形の服を渡されて適当に一枚引っ張り出してみると、二箇所が長い変な形の服だった。何だろうコレ。チラリとラーシュのお母さんを見ると、お母さんが着ていた上の服と同じような形だった。あんな風に着ればいいのね。


「あらあら、ラーシュみたいだわ」

「僕ちゃんと服着れるもん!」

「はいはい。シルティアさん、それ前と後ろ逆よ」

「え?あ、ごめんなさい」


正直前とか後ろとか私には違いが分からなかったけど、前と後ろの位置を変えて着なおしたら首が少し楽になった。少し苦しかったのよね。


「良かった、ピッタリね」

「お母さん。シルティア靴も履いてないんだよ」

「まぁ!気付かなかったわ。サイズ合えばいいのだけど…。これ少し履いてみて?」


差し出された二足の靴に恐る恐る足を入れると、足が包まれる感触があった。凄い!守られてる感がある!


「んー、少し大きいわね。歩いてみてくれる?」

「はい。あ…脱げちゃった」

「あらあら。やっぱり大きいわね」

「あ!ルミ姉ちゃんのやつは?」

「そうね!それがあったわね!」


再び出された靴を履けば、少し余裕はあるけれど脱げずに歩く事が出来た。靴って窮屈そうに見えるけれど、とっても快適なのね。


「丁度良さそうね。良かったらそれあげるわ」

「え?いえ、こんな素敵な物貰えません」

「ふふ、そう言ってくれる貴女に使って欲しいわ。娘はお嫁に行ってしまったからしまってあるだけよりかは、貴女に使われた方が喜ぶから」


そう言われて履いていた赤色の靴を見つめた。この靴が乾いて消えた私の鱗みたいで愛おしく見える。お言葉に甘えて貰うことにした。


「こんな素敵な靴を貰えるなんてとっても嬉しい!ありがとうございます!」

「可愛いわねぇ」

「シルティアはどこに行く途中だったの?」

「どこって…どこだろう。ただ散歩というかある人を探してたの」


ラーシュがどんな人?と聞くから、優しくて綺麗な人と答えたら笑われた。


「違う。名前だよー」

「名前ならレノイルって言ってたわ」

「レノイル?この辺にはいないよ」

「あら、じゃあもしかして王子様かしらね」


王子様!?それってどういう事?と詳しく聞いたら、王子様の名前もレノイルというらしい。

見た事ある?と聞けば、遠目だから余り分からなかったって。


「でも爽やかで素敵な方らしいわよ」

「王子より僕のがカッコイイよー」

「あら、ラーシュたら」

「女の子は皆王子様に憧れるものよねぇ。私も昔はキャーキャー言ってたわ」


ふふふと穏やかに笑うラーシュのお母さん。

そっか。レノイルは王子様かも知れないのね。


「王子様ってやっぱり忙しいのかな?」

「そうねぇ。お仕事沢山あるんじゃないかしら」

「どうすれば会えるの?」

「んー、舞踏会とかかしら?ごめんなさいねぇ、私も詳しくないのよ」


ぶとうかいって何だろう。よく分からないけど、私からレノイルに会いに行くのは難しそうだね。

いつ来るか分からないけど、海で待ってる方がいいみたい。


「パンと服ありがとうございました!」

「いいのよ。またいつでもいらっしゃい」

「また遊ぼうな!」

「うん!お邪魔しました」


いくつかの服を貰い海へと帰る。家に持ち帰ると濡れちゃうからどこかに隠した方がいいのかな?

お姉ちゃんに見つかると怒られそうだし、そうしよう。


近くの使われてなさそうな小屋に置かせて貰った。


いつの間にか時間は過ぎていてもう夕刻だった。ちょっと歌ったら帰ろうと思い岩に腰かけた。


「〜♪〜〜♪〜〜♬」


明日は会えるかな?私の王子様。




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