第二話 ー不穏ー
WMG第12支部基地に向けて、ゲイルの先導でうす暗い林道を足早に進むグレース達。WMG見学を前にそわそわして落ち着かない様子のグレース、その辺の木の枝や木の葉を爆発させて遊んでいるゲイル、そしてそんな二人を見てため息をつくエレナ。三人が三通りの表情をしていた。
「ちょっとゲイル!さっきからボンボンうるさい!爆発やめなさい!」
「だって暇だもんよー
こんなチンタラ歩いてたら追いつけねえぜ?せめて夜までには到着したいしよ」
「それとグレース!あんた道わかんないんだからゆっくり歩きなさい!」
「だってよお!WMGにいけるんだぜ?少しでも早く行きたいじゃん!」
そう言うや否や、グレースは長い林道の先へ走り出して行った。
「へへっ、やっぱ急がなきゃだよなあ」
ゲイルも後を追って走り出した。
「〜〜〜〜〜〜〜〜
まったく、あの二人は………」
はぐれるのも嫌だが、何よりあの獣のような二人を野放しにはできない。仕方が無い。
脚が早くないエレナは、能力を使って二人を追いかけることにした。
「…………『ライトニング』」
たちまちエレナの体は白銀に輝く鎧につつまれ、うす暗い林道が青白い光で照らされた。
すぐにエレナはグレースとゲイルに追いついたが、二人の表情は冴えない。
「なあ………そんなにピカピカ光る鎧、つけてて大丈夫なのか?盗賊とかが見つけたら………」
「だってあんた達がどんどん先行っちゃうから……しょうがないじゃん。」
「……………できれば消して欲しいんだけどな、その鎧。っと、もう手遅れっぽいぜ…………」
ゲイルの視線の先には、20人ほどの盗賊が待ち構えていた。
「……そんな………嘘でしょ…?」
「ほら、言わんこっちゃねえ。………後ろも見てみろ。」
エレナが振り向いた先にはーーー
ーーーやはり、20人ほどの盗賊。見回した感じ、茂みの中や木の陰、木の上なんかにも隠れているようだ。
「……だいたい50人ってとこ?最悪ね……」
前方から、盗賊の頭と思わしき者が近づいてきた。手には刃渡り20cmほどのナイフを持っている。
「持ってるもの全部ここに置いてけぇ!こいつで刺されたくなかったらなあ!」
盗賊の頭は、ナイフを振りかざして、下品な笑い声をあげる。
それに合わせて他の盗賊たちも笑う。
不意に、グレースが持っていた魔道書が光りだした。立体映像を投影する、連絡用の魔道書だ。
「グレース、エレナ、ゲイル、聞こえるか?グライドだ。」
本の中から、よく見知った顔が現れた。その顔からは、緊迫した状況が伺える。
「今、ちょっとやばいんだよ……後にしt」
「大規模な盗賊の集団に襲われた………数は50ほど。子供達は、死人はいないものの、大怪我を負って動くことができない……俺もちょっとやられてしまった………」
それを聞くなり、エレナがグレースを押し退けた。
「グライドさん怪我したの!?大丈夫!?」
「ははは、慌てるんじゃねえよ……綺麗な顔が台無しだぜ…?」
「………///」
隣で見ていたグレースが水を刺すような一言。
「……………その盗賊なんだけどさ。多分、目の前にいるんだよね………」
「……………そうか………いいか、すぐにそこを離脱して、我々と合流するんだ。多分そう遠くない場所にいるはず。近くの街道に来い。合流して体制を…」
しかし、グレースは聞き入れようとしなかった。
「………こいつら、子供を……殺そうとしたんだよな…………?」
その目は、すでにグライドではなく、盗賊の方を向いていた。後ろにいるゲイルも、魔道書を持ったエレナも、同じ表情をしている。
「…………わかった。殺さないようにだけ注意しろ。」
そう言うと、魔道書から出ていたグライドの立体映像は消えた。どうやら、通信を切られたようだ。エレナは静かに魔道書を畳んだ。
「なに喋ってやがる!ああん?ブチ殺されてえのか!」
相変わらずナイフを振りかざす盗賊の頭。よくよく見ると、まわりの手下たちも、木製の棍棒を構えている。
「…………ゲイルは後ろ。エレナは空から援護。……俺は、前のやつらをやる。」
真剣な面持ちで指示を出すグレース。
「こういう奴らはぶっ飛ばしてやんねえとな〜っと。背中は任せたぜ、グレース!」
「………早く、グライドさん達と合流しましょう!」
3人はそれぞれ戦闘態勢を整え、盗賊達と向き合う。
グレースの姿が豹変する。16歳の少年としては小柄な体が一回り大きくなる。人間のものであった手が変形していき、鋭い爪を有した獣の手となる。
「いくぞ………『ベルセルク』!」