第一話 ー出発ー
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「…………きな…い……」
「ちょっと!早く起きなさいっていってるでしょ!」
グレースの住む小さい家に、エレナの甲高い声が響く。
「……………あと…………五ふn」
いい終わる前に、細いレーザーがグレースの額をかすめる。
「次は脳天をブチ抜くわよ」
「わかった!わかった!今起きるから!」
飛び起きたグレースの目に映ったのは、腕を組み仁王立ちしているエレナの姿。
「……………なんでこんな朝早くに?」
エレナは呆れた顔で、
「……今日は何の日か、忘れたの?」
と言った。
「………………………」
少し考え込むグレース。しかし、彼はすぐに、エレナを置いて自室を出て駆け出して行った。
「あああああああああ!遅刻!遅刻ううう!」
叫び声をあげながら大急ぎで身支度を整えるグレースを尻目に、エレナはため息をつきながらグレースの家を出ていくのだった。
今日は、村の学校の授業で、WMG第12支部基地を見学する日。途中の盗賊退治などもあり、村の子供達はこの日をとても楽しみにしていた。
午前8時ごろに、村の広場に集合して、WMG支部に出発する。…はずだった。
エレナが広場についた頃には、すでに子供達や、講師のグライドの姿はなかった。仕事の合間に談笑をしている数人の大人、そして、広場のど真ん中で昼寝(朝寝と言うべきか)をしている一人の少年の姿があるのみだった。
自分が遅刻したことを理解したエレナは、その少年に近づいていく。
「……………ちょっと。起きなさいゲイル」
呼びかけると、ゲイルはすぐに起きた。
「…他の奴ら、もう行っちゃったぜ?」
「なんであんたはここにいるのよ。」
よろよろと立ち上がり、大きな欠伸をして、ゲイルは答える。
「めんどくせえから抜け出してきた」
「はあ!?」
「だって、馬車使わねえで歩いていくらしいぜ?ガキのお守りしながらゾロゾロ歩いてくなんて性に合わねえよ。」
「…………どうすんのよ。あんた、道わかるの?」
呆れた顔で、エレナが聞く。
「まあ、なんとかなるっしょ。地図あるし。グレース置いてけないし。」
グレースのことを言われて、エレナは口ごもる。確かに、あのバカを一人で来させるわけにはいかない………
二人で話してると、後方から走ってくる少年。
「おーい、遅れt………うわっ!」
すかさずエレナのレーザーが一閃。
「遅いんだけど。もうみんな行っちゃったのに!なにしてんの!」
「悪かった!悪かったって!」
凄い剣幕で襲いかかるエレナと、逃げ惑うグレース。まわりの大人が、二人を見て笑ってる。
「ちょいちょい、お二人さん。話させてくれないかい。」
ゲイルに諭されて、落ち着く二人。
「じゃあ、説明始めるぜ。」
ゲイルは、このあたり一帯地図を広げて、二人に見せた。
「今日は、盗賊退治の実践訓練でもあるから、広い街じゃなくて薄暗い林道を通ってちょっと遠回りしてくらしい。だから、多分このルートを通るのね。」
ゲイルが、持っていたペンで地図に書き込んでいく。
「ただ、誰かさんが遅れてきたせいで俺たちはめちゃくちゃ遅れてる。だから……こっちの近道を通るぜ。」
「………スミマセン。」
萎縮するグレースを横目に、説明を続けるガイル。
「ただ、この道の近くには確か小規模な野党のアジトがあるんだよな。そこだけが厄介。」
「………それ、大丈夫なの?」
エレナが口を挟む。
「心配か?」
「……………グレースがね。」
振り向くと、しょんぼりしてブツブツ呟いてるグレース。
「……グレース。あんた、今の話聞いてた?」
「………どうせ俺なんて………」
エレナとゲイルは呆れ顔。
「…………まあいいや。俺とエレナは理解してるから。よし、行くぞ。グライド達が支部に着く前に追いつく!」
エレナとゲイルが立ち上がり出発すると、グレースも慌てて追いかける。
「ちょ、ちょっと!待てよお!」
この日、自分達の運命が一変することを、彼らはまだ知る由もない。とにかく、WMG第12支部基地に向けて、グレース達3人は少し遅めのスタートを切ったのであった……