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大学ノートが俺の武器  作者: 鵺這珊瑚
第一章 西日本製フランス人形、降臨
8/11

第五巻

 普通のホテルだ。俺のこの部屋に対する第一印象はそれだった。俺はホテルでいつもやることを決行した。

 「ダイブ!」

 柔らかい、雲のようなベッドが、衝撃を受け止め、俺を包み込むように抱いた。これがたまらない。

 「……なんでダブルベッドなんだろう。」

 俺は少し首を傾げ、仰向けになった。天井を、ぼうっと眺める。

 

 おじいちゃんは昔から変わった人だった、と母は言っていた。

 実際、俺もそういう印象が強かった。

 ギラギラとした眼光を宿した瞳と、年の割に真っ白な髪以外は、ごく普通のおじいちゃんだ。だが、祖父は少し違っていた。最初にそれを眼にしたのは、俺が幼稚園児の時だった。

 夏場の家には、度々蚊が侵入する。これが鬱陶しく、血をたらふく吸っていく。俺達はなかなかそれを殺せずにいた。そこに、颯爽と祖父が現れ、蚊を殺した。――押しピンで。

 それもそのはず、祖父は剣道、弓道、空手、柔道、等々の最高段を保持しているのだ。さらに、囲碁に将棋も負けなしで、家事も完璧にこなす。それに、祖父は最近のゲームまで攻略してしまうのだ。

 俺は、昔、携帯ゲーム機を祖父母の家に忘れてしまった事がある。その次の日に、俺はそれを取りに帰った。

 俺は、手元に戻ってきたゲームをわくわくとした気持ちで起動させた。だが、セーブデータを読み込み終わった時……俺の心は音を立て崩れ、俺はとてつもない喪失感に包まれた。

 一生懸命、時間を使い、進めていたゲームが、たった一日でクリアされてしまっていたのだ。主人公のレベルも、仲間のレベルも、全て限界値まで達していた。

 そんな最強祖父は、滅多に家にいる事は無かった。理由は分からなかったが、何か重要な事があるのだろうとは思っていた。……まさか、それが神狩りと戦う為だったとは知らなかったが……。

 しかし、祖父も能力を持っていたとは驚きだ。全く気付かなかった……。

 ……思えば、祖父の部屋はまるで図書館みたいだったな。

 小学生だった俺は、祖父の部屋に初めて入れてもらった。

 俺は、その本の冊数に目を輝かせた。

 俺は、祖父に言った。

 「おじいちゃんも、本が好きなんだね!」

 祖父はにっこりと俺に微笑みかけた。

 「そうだよ。本は、みんな心を持っている。……おじいちゃんは、その感情の変化が好きなんだよ。」

 祖父はさらに笑みを深くし、続けた。

 「おじいちゃんは、お前にも、その心が分かるときが来ると思っている。」

 「はやとにも?」

 「そう。お前にも、本の感情を読み取って欲しい。きっと、お前は色んな体験ができるだろう。仲間ができ、敵にも出会う。そして、試練に立ち向かう事にもなるだろうな。」

 俺はその言葉に首をかしげていた。

 今思えば、祖父は分かっていたのかもしれない。家族が死ぬことや、俺がこの力を手にすること。そして、俺が最後のホルダーに呼ばれる事も。

 ……そういえば、最後のホルダーってどういう事なんだ? そこを説明してもらっていない。最後の希望と呼ばれる理由もだ。

 俺は反動をつけ起き上がると、窓を開けた。

 「……なにもない。」

 そこに広がっていたのは、夜景でも、星空でも無かった。

 闇だった。本当の、無の空間。吸い込まれそうな闇が、ただただ広がるのみだった。

 これも、鍵の能力なのだろうか。

 この≪反逆団(レジスタンス)≫本部は、大都会の真ん中にある小さなビルだと、クレアは言っていた。

 現実にない場所だから、無が生まれるのだろうか。 

 俺は窓を閉めると、またベッドに横になった。

 

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