プロローグ
≪鍵≫、すなわち彼女の手帳は輝きを放ち、日本刀へと形を変えた。
「下がって!」
大男の拳が彼女に襲いかかる。だが、彼女の刃はその前に駆動し、大男の懐に入り込んでいた。彼女の一閃が迸った、が、大男の体は切り裂かれるどころか、全くの無傷であった。大男は巨体を倒し、彼女を押し潰そうとする。しかし、身軽な彼女はひらりと飛び上がり、十分な間合いを取ると刀を構え直した。
拳と刃がぶつかり合い、空気が揺れ、壁は共鳴している。
俺は考えた。ここは、2014年の日本であるはずだ。科学が発達し、俺はこの15年間、便利な暮らしをしてきた。つまり、ここは現実味を帯びた厳しい世界であって、魔法と剣の世界では無いということだ。
じゃあ、なぜ目の前であり得ない事が起こっている? ≪本持ち≫? ≪鍵≫? 神狩り? 訳が分からない。それに、俺が最後の希望、ってどういう事なんだ?
地面が揺れて、大きな音が聞こえてきた。気付けば、彼女はこちらに歩み寄ってくるところだった。
「“解除”。」
彼女が呟くと、彼女の鍵が手帳に戻った。
大男は倒れたまま、ピクリとも動かない。
彼女は少し笑った。
こうなったのは、なぜだろう。俺は手に持っていた大学ノートを眺めた。これが、俺の鍵だ。鍵、といっても異世界への扉を開くという類の鍵ではない。キー、つまり大切、重要という意味の≪鍵≫のようだ。
とにかく、これと彼女に俺が出会ったのは今日の事だった。